抄録
本研究の目的は,戦後日本における創造主義美術教育の理論と運動をめぐる議論について考察し,その全体像を明らかにすることである。本研究と筆者のこれまでの創造美育運動に関する研究との関係は,後者が運動を俯瞰的に捉えようとする研究であるのに対して,本研究は運動に関わる個別の問題にフォーカスし,その詳細を明らかにしようとするものである。
研究は文献調査を基本とし,はじめに,久保貞次郎の美術教育論の特色を理論化の過程を遡ることによって明らかにし,その上で,論争を「教育的」「心理学的」「政治的・社会的」「教科論的」「当事者・協力者」の 5 つの観点に整理し,分析した。本稿は,研究全体の前半部分をなすものであり,久保貞次郎の美術教育論の特色と,教育学的及び心理学的観点からの議論の内容・推移を明らかにした。