日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第71回 (2024)
会議情報

シンポジウムA1:おいしさ設計の基盤となる味と匂いの先端科学
フレーバーホイール自動生成AIの開発
*辻 凌希伊藤 圭祐
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 10-

詳細
抄録

    【講演者の紹介】

   辻 凌希(つじ りょうき):合同会社DigSense・CTO

   略歴:2023年合同会社DigSense設立,2024年静岡県立大学食品栄養科学部卒業

    フレーバーホイールは,特定の食品の持つ味や匂いの用語(キャラクター)を類似性に従ってまとめ,複数階層の円状に配置した風味解析ツールである.「おいしさ 」の直感的かつ体系的な理解や共有をサポートするコミュニケーションツールであり,研究開発,製造,品質管理,マーケティング等,様々な食産業現場で活用できる.

    従来のフレーバーホイール作成法の多くは,特定の食品について風味を説明する「言葉出し」を実施し,ディスカッションや統計処理によってキャラクターを体系化する方法である.必然的に,1個のフレーバーホイールを作成するごとに多くの人的,時間的,金銭的コストが必要となる.そのため近年では,商品レビューサイトにおける文章表現を抽出し,自然言語処理により解析するなど,新たなフレーバーホイール作成法が開発されている.それらの多くは人力過程をAIで代替することで,比較的低コストながらある程度の客観性を保ったフレーバーホイールの作成を可能としている.しかし,作成されたフレーバーホイールの構成キャラクターが特定の食品に関する辞書やレビューサイトなどに依存することが課題であり,また,品種や産地ごとに異なる組成の食品に対応したフレーバーホイールの作成も困難である.

    我々は,対象食品の成分組成を元に客観的かつ迅速・簡便にフレーバーホイールを自動生成できるAI(Flavor index: F-indexSM)を開発した.風味既知の成分を処理するため,3887種類の香気成分とその風味表現に用いられている421種類のキャラクターに関する情報を独自に収集し,各キャラクターを香気成分間での共有性を基にベクトル化した.一方,風味未知の成分についても,機械学習によって物理化学的構造情報から各成分のキャラクターを予測し,同様にベクトル化した.得られたベクトルをクラスタリングすることで,指定したキャラクター数,階層構造のフレーバーホイールを自動生成した.ジンジャーエールをモデルとして生成したフレーバーホイールは「lemon」や「green」などのキャラクターで構成されており,材料やレシピごとに異なるおいしさの詳細な表現に活用できることが示された.また,醤油をモデルとして生成したフレーバーホイールの構成キャラクターには既報との共通性が確認されたことから,F-indexSMによって生成されたフレーバーホイールは従来と同様に活用可能であることが示唆された.

    新たに開発したF-indexSMにより,従来とは比較にならないほど低コスト,かつ迅速・簡便にフレーバーホイールを作成することが可能となった.本技術を用いることで,食品産業におけるフレーバーホイールの位置付けや活用方法が革新される可能性がある.講演では,F-indexSMを応用した,相性の良い食材を提案する“F-indexSM Pair”や,市販品や各種素材などの風味比較に利用可能な“F-indexSM Mapping”についても紹介する.

著者関連情報
© 2024 公益社団法人 日本食品科学工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top