日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
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受賞講演
  • 津田 孝範
    p. 1-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     津田 孝範(つだ たかのり)

     略歴:1988年3月 名古屋大学大学院農学研究科博士前期課程修了、1999年2月 博士(農学)(名古屋大学)

        1999年9月:日本食品科学工学会奨励賞、2003年5月:日本栄養・食糧学会奨励賞

        2014年4月より現在:中部大学応用生物学部・大学院応用生物学研究科教授

        2022年6月: 日本栄養・食糧学会賞

     演者は食用植物色素成分等のポリフェノールや、植物タンパク質、アミノ酸、蜂産品、乳酸の新しい生理機能と機構を解明し、有効利用のための基盤的研究を展開してきた。特に植物色素成分の健康機能研究(「紫」と「黄」のサイエンス:アントシアニンとクルクミン)、さらに植物色素以外のポリフェノール等の食品因子の健康機能を主に肥満・糖尿病の予防作用の視点から研究し、新たな分子機構を明らかにした。本受賞講演では、これまでに行った主な研究の成果を紹介する。

    1.食用植物色素成分の研究

    (アントシアニン)不安定で健康機能など考えられなかったアントシアニンの代謝・体内動態1)、生体内酸化ストレス抑制作用2)、脂肪細胞の機能制御3)、体脂肪蓄積抑制作用4)や耐糖能改善作用5) を世界に先駆けて報告した。特に体内動態については、アントシアニンの中で機能研究を進めていたシアニジン 3-グルコシド(C3G)の生体内吸収性を検討し、アントシアニンが配糖体のままで直接生体内へ吸収されること、しかしその生体内吸収性は非常に低いこと、C3Gの代謝物あるいは分解物としてC3GのB-環に由来するプロトカテク酸が生体内で検出されることを初めて報告した1)。生理機能発現機構に関してはAMPキナーゼ活性化5) やGLP-1分泌促進作用6)の関与を初めて解明した。さらにアントシアニンを含む素材の食品加工への応用研究等を実施した。以上の研究は、今日におけるアントシアニンの生理機能と代謝・体内動態の研究や有効利用の進展に先駆的な役割を果たした。これらの成果は世界中の多数の論文に引用されている。

    (クルクミン):高生体内吸収性クルクミン製剤によるGタンパク質を介するGLP-1分泌促進と耐糖能改善作用7)、ベージュ脂肪細胞化の誘導作用とその機構を初めて報告した8)。なお、これらの効果は非製剤化クルクミンでは得られないことも併せて報告した。代謝・吸収関連の研究では、クルクミン抱合体の投与が生体内で遊離体クルクミン濃度を増加させ生理機能を高めることを発見した9)。さらにクルクミンの健康機能に懐疑的な論文における問題点と課題を海外学術誌から依頼されて発信した10)。また、低用量のクルクミン製剤と運動を併用することで骨格筋由来のIL-6を介して相乗的にベージュ化が促進することを明らかにした11)。直近では、低用量での新しいクルクミン製剤と運動の併用がBDNFシグナルを介して認知機能の向上作用を増幅させることをはじめて見出した12)

    2.色素以外のポリフェノールの研究

    未利用資源の熱帯産豆類タマリンド種皮抽出物の抗酸化性と成分同定13)、超臨界二酸化炭素抽出による抗酸化成分の効率的な抽出法を確立した14)。糖転移へスぺリジンやフェルラ酸の研究では、これらの体脂肪蓄積抑制作用機構がベージュ化によることを白色脂肪組織での熱産生を測定する手法で解明した。直近では、フェルラ酸の利用障壁となる水難溶性・低生体内吸収性を改善するため、シクロデキストリン包接化による生体内吸収性の向上効果を発表し、有効利用の道筋を開いた15)。その他に大豆イソフラボンやショウガ成分のアディポネクチン発現低下抑制作用とその機構も報告した。 

    3.植物タンパク質、ペプチド、アミノ酸の研究

    特定保健用食品のアミノ酸混合物 (Ala, Arg, Phe) を含むスポーツ飲料摂取と運動の併用による体脂肪減少の機構はベージュ化によること16)、植物タンパク質活用とその付加価値向上に関する研究として、大豆タンパク質の摂取量を減じても運動と併用するとATF4-FGF21経路を介して相乗的にベージュ化することを発表した17)。その他、His-TyrのAMPキナーゼ活性化作用18)、小麦タンパク質由来ペプチドのGLP-1分泌促進作用機構を解明した19)

    4.蜂産品の研究

    蜂産品の活用を後押しする研究として、ロイヤルゼリー成分10-hydoroxy-2-decenoic acidのAMPキナーゼ活性化作用とその機構を発表した20)。ブラジル産プロポリス成分(Artepillin C)の研究では、アディポネクチン発現低下抑制作用とドッキング・シミュレーション解析による機構解明21)、ベージュ化とその機構22) および新規経路での熱産生機構23)、クルクミンとの併用による効果の増幅作用を明らかにした24)

    5.運動代替・補完食品因子研究への新たな展開

     アミノ酸混合物の摂取と運動併用によるベージュ化の相乗的な増幅作用に乳酸の関与を見出し16)、さらに運動しなくても乳酸の経口摂取のみで活性酸素をセカンドメッセンジャーとしてベージュ化が誘導されることを初めて明らかにした25)。この成果から新しい視点で乳酸を捉え、運動しなくても運動と同様の効果が得られる「運動代替食品因子」としての有効利用の方向性を提示した。なお、アミノ酸混合物やクルクミン、大豆タンパク質と運動の併用による効果の増幅作用からこれらの食品因子は「運動補完食品因子」として考えられる。これらの内容は依頼総説としてまとめ26)、運動時に使用して運動効果の代替・補完が期待できるサプリメントの視点でさらに研究を進めている。

    おわりに

     未熟だった私に食品栄養学の楽しさも含めてご指導いただいた吉田昭先生(故人、名古屋大学)と青山頼孝先生(名古屋大学)、化学の視点を持つことの重要性からご指導いただき、本学会へと導いていただいた川岸舜朗先生(故人、名古屋大学)、その後を引き継いで食品機能研究へと導いていただいた大澤俊彦先生(名古屋大学)に心より深謝申し上げます。本研究の多くは、現所属の中部大学において行われたものです。これまでに大変多くの学生をはじめとした研究室ならびに学外共同研究者の皆様が一緒に歩み、支えてくださいました。この場をお借りしてご関係の皆様に心より感謝申し上げます。

    文 献

    1) FEBS Lett. 449: 179 (1999).

    2) Arch. Biochem. Biophys. 368: 361 (1999).

    3) Biochem. Biophys. Res. Commun. 316: 149 (2004).

    4) J. Nutr. 133: 2125 (2003).

    5) J. Nutr. 140: 527 (2010).

    6) PLoS One 10: e0126157 (2015).

    7) Biochem. Biophys. Res. Commun. 435: 165 (2013).

    8) Mol. Nutr. Food Res. 62: 1700731 (2018).

    9) Biol. Pharm. Bull. 40: 1515 (2017).

    10) Food Funct. 9: 705 (2018).

    11) J. Nutr Sci. Vitaminol. 69: 99 (2023).

    以降はPDFを参照ください。

  • 島村 裕子
    p. 2-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     島村 裕子(しまむら ゆうこ):静岡県立大学 食品栄養科学部 食品衛生学研究室・助教

     略歴:2007年 お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 博士後期課程 修了

        同年 同大学 人間文化創成科学研究科研究院・研究員

        2008年 同大学 生活環境教育研究センター・研究機関研究員

        2011年 より現職

     近年,科学技術の発展や食品流通の広域化・国際化に伴い,食の安全性に関する多くの課題が生じている.したがって,食の安全を守り,リスクを最小限に抑えるためには,科学的根拠に基づく制御法の確立が必要である.そこで,本研究では,食の安全を脅かす食中毒菌などの「生物的リスク因子」および化学物質などの「化学的リスク因子」が健康に及ぼす影響を評価し,それらの影響を低減させることを目的とした.本講演では,「生物的リスク因子」として,ヒトの常在菌で,食中毒菌起因菌である黄色ブドウ球菌の菌体外代謝物の毒性発現およびその制御,また,ブドウ球菌毒素と「化学的リスク因子」として,変異・発がん物質であるアクリルアミドの複合暴露が宿主細胞に及ぼす影響について紹介する.

    1. ブドウ球菌毒素の毒性発現に対する食品成分の影響

     黄色ブドウ球菌が増殖する際に産生するタンパク質毒素であるエンテロトキシンA (staphylococcal enterotoxin A;SEA) は,毒素型食中毒,アトピー性皮膚炎,副鼻腔炎などの発症または難治化にも関与することから,その毒性発現の制御法が求められている.生体内で様々な生理機能を示すことが知られるポリフェノールは,タンパク質と相互作用しやすいことから,SEAの毒素活性を抑制できる可能性があると考え,SEAと緑茶に含まれるポリフェノール (カテキン類) の相互作用および毒素活性抑制効果について検討した.カテキン類とSEAとの相互作用についてWestern blotで解析した結果,その強さは,エピガロカテキンガレート (EGCG)>エピカテキンガレート (ECG)≫エピガロカテキン>エピカテキンの順であり,EGCGおよびECGは4ヶ所すべての毒素活性発現部位と相互作用した.表面プラズモン共鳴法を用いた解析において,SEAとEGCGの分子間相互作用が認められたことから,等温滴定型カロリメトリーを用いて,その相互作用様式を検討したところ,EGCGは,SEAの複数の結合サイトと疎水的相互作用することが示唆された.さらに,ドッキングシミュレーション解析の結果,EGCGのガロイル基と毒素活性発現部位 (A-6領域) のY91と相互作用することが予測された 1).また,マウス脾臓細胞にSEAとEGCGを暴露し,マイクロアレイで解析したところ,EGCGは,SEAによって誘導されたTh1細胞の応答および免疫バランスの変動に対して,負のフィードバック調節作用を有することが示唆された 2), 3)

    2. 細菌由来膜小胞の毒性発現に対する食品成分および化学物質の影響

     黄色ブドウ球菌を含む病原性細菌は,直径20~200 nmの球状の膜構造体である膜小胞に,毒素などの特定の病原因子を内包して放出する 4).しかしながら,どのような環境下で膜小胞の内包成分が変化するかは明らかになっていない.そこで,膜小胞をターゲットにした食中毒のリスク低減や制御策の確立を目的に,ポリフェノール (EGCGおよびノビレチン) 5),食環境中化学物質 (タバコの煙などに含まれるグリシドール) 6) の共存下で黄色ブドウ球菌 (SEA産生,ヒト手指分離株 7)) を培養し,放出される膜小胞の性状について解析した.各膜小胞の粒子径を比較したところ,ポリフェノールは粒子径に影響を及ぼさなかったが,SEAの内包量および血液凝固作用を示すコアグラーゼなどの黄色ブドウ球菌の病原因子を減少させた.一方,グリシドールでは膜小胞の粒子径が増大し,SEAの内包量および炎症反応を誘導するリポタンパク質などが増加した.ポリフェノール共存下で黄色ブドウ球菌を培養して調製した各膜小胞をヒト表皮角化細胞に添加したところ,炎症関連遺伝子の発現を有意に抑制した.グリシドール共存下で黄色ブドウ球菌を培養して調製した各膜小胞をマウス脾臓細胞に添加したところ,炎症関連遺伝子の発現を増加させた.これらの結果より,食品成分および化学物質は,細菌由来の膜小胞の性状に影響を及ぼし,宿主細胞の炎症誘導能を変動させることが示唆された.

    3. ブドウ球菌毒素と化学物質の複合暴露による毒性発現の変動

     食の安全を脅かすリスク因子は単独で存在していないことから,「生物的リスク因子」および「化学的リスク因子」が共存することを想定した評価および制御法が求められている.そこで,ブドウ球菌毒素 (SEA) の存在下における,変異・発がん物質であるアクリルアミド (AA) の毒性の変動について検討した 8).マウス脾臓細胞にSEAとAAを複合暴露し,コメットアッセイを用いて遺伝毒性を評価したところ,AA単独と比較して,SEAとの複合暴露によりDNA損傷性が相乗的に増強した.また,AA存在下で黄色ブドウ球菌を培養したところ,黄色ブドウ球菌単独と比較して,病原因子であるバイオフィルム形成量およびSEA産生量が有意に増加した.これらの結果より,黄色ブドウ球菌およびその毒素存在下では,化学物質単独時とは異なる毒性発現機構が存在することが示唆された.

    まとめと今後の展望

     細菌由来の膜小胞は,食環境中における存在が確認されているが,それらの機能のほとんどが未解明である.今後,様々な食品成分および化学物質の存在下における膜小胞の性状を解析することで,膜小胞の機能を明らかにし,それら知見に基づいた応用に繋げていきたい.また,本研究では,ブドウ球菌毒素存在下で,毒性が変動する化学物質が存在することを初めて明らかにした.この結果は,生物的リスク因子および化学的リスク因子の単独の毒性評価では,生体を反映した真の毒性評価には不十分であることを示唆しており,今後も両者が共存した際の影響について検討し,これまで見えていなかった複合暴露による生体影響を明らかにしていきたい.将来的には,本研究で得られた知見をもとに,細胞レベルだけでなく生体レベルでの臓器への影響も検討し,毒性制御への応用を目指したいと考えている.

    謝辞

     研究の道に進むきっかけと多大なるご支援をいただいた阿部誠先生 (学習院女子大学),文系学部出身の私を快く研究室に受け入れてくださり,始終温かく熱心なご指導を賜り,研究者として育ててくださった村田容常先生 (お茶の水女子大学,現 東京農業大学) に心より感謝申し上げます.また,研究の遂行にあたり,多大なるご尽力およびご助言いただきました学内外の諸先生方に深く御礼申し上げます.本研究は,静岡県立大学食品衛生学研究室で行われたものです.いつも親身にご指導くださる増田修一先生 (静岡県立大学),一緒に実験に取り組んでくださった学生の皆様に心より感謝申し上げます.

    参考文献

    1) Shimamura, Y. et al., Molecules, 23(5), 1125 (2018).

    2) Shimamura, Y. et al., Molecules, 25(8), 1867 (2020).

    3) Shimamura, Y. et al., Toxins, 13(9), 609 (2021).

    4) Yamanashi, Y., Shimamura, Y. et al., Microorganisms, 10(3), 574 (2022).

    5) Oura, Y., Shimamura, Y. et al., Cells, 13(5), 387 (2024).

    6) Shimamura, Y. et al., The Microbe, 6, 100273 (2025).

    7) Shimamura, Y. et al., Food Sci. Technol. Res., 14, 513–518 (2008).

    8) Shimamura Y, et al., Toxicol. Rep., 9, 876–882 (2022).

  • 畠山 慎一郎, 秋山 正行, 河口 俊義, 藤田 篤茂, 山口 拓也, 吉原 大翔, 高橋 加奈, 武田 安弘, 宮地 一裕, 小泉 玲子, ...
    p. 3-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     畠山 慎一郎(はたけやま しんいちろう) 森永乳業株式会社 食品開発研究所 主任研究員

     略歴:2008年 千葉大学自然科学研究科修士課程修了/同年 森永乳業株式会社入社 神戸工場 製造部/2012年 森永乳業株式会社 食品開発研究所 飲料研究室、現在に至る。2024年 筑波大学 課程修了 博士(農学)。

     受賞歴:2017年 日本食品科学工学会 第13回 若手の会 ポスター発表企業賞

    1.はじめに

     本研究はコーヒーの抽出方法に関わる技術検討であり、コーヒー本来の香りを活かした飲料製品に展開することを目指し、森永乳業株式会社と筑波大学で共同開発した。

     コーヒーには800を超える揮発性成分が報告されている1)。風味面で差別化されたコーヒー飲料製品の開発には、揮発性成分の抽出技術が重要であると考えられる。従来、広く実施されている温水によるコーヒーの抽出に加え、本技術検討では、コーヒーの粉末に対して水蒸気蒸留を行うことで得られる凝縮液(水蒸気アロマ)を、コーヒー飲料の工業的製造へ応用することを目指した。水蒸気蒸留は、他の抽出技術2), 3), 4)と比較して工程、設備がシンプルであり、抽出に要する時間が短く3)、抽出に溶剤を使わず水(水蒸気)のみを用いるため環境負荷は小さく、食品工場へ導入する上では優位性があると考えられる。様々な条件項目がある中で、予備検討において風味の変化に及ぼす影響が比較的大きいと判断した凝縮(冷却)温度に着目し、水蒸気蒸留における異なる凝縮温度が、水蒸気アロマの揮発性成分に及ぼす影響を明らかにするために、gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS)分析に取り組んだ。さらに、異なる凝縮温度で得られた水蒸気アロマがミルクコーヒーの風味特性に及ぼす影響を明らかにするために、先行研究5)にて開発した消費者のためのミルクコーヒーの評価用語を用いた官能評価(check-all-that-apply(CATA)法)に取り組んだ 6)

    2.水蒸気蒸留における異なる凝縮温度が水蒸気アロマの揮発性成分に及ぼす影響

     焙煎度(L値)18.5のエチオピア産コーヒー豆をコーヒーミルで粉砕し、得られたコーヒー粉末を約10 L容量のカラム型コーヒー抽出機に充填した。続いて、コーヒー抽出機に水蒸気を注入し、水蒸気蒸留を実施した。その際、冷却器の冷媒温度を5、50、90℃に設定することで、3種類の水蒸気アロマを得た(A1、A2、A3)。得られた3種類の水蒸気アロマそれぞれについて、ヘッドスペースの揮発性成分をGC-MSで分析した結果、65の揮発性成分が同定された。各揮発性成分のピークエリア面積値には、  1)凝縮温度が低い程、成分量が減少する成分、2)凝縮温度が低い程、成分量が増加する成分、   3)50℃で高い成分量を示す成分、4)凝縮温度によって成分量が変化しない成分、の4パターンの温度依存が認められた。水蒸気アロマ間のピークエリア面積値に有意差が認められた46成分を対象とした主成分分析の結果、凝縮温度が異なる各水蒸気アロマの揮発性成分プロファイルの特徴が明らかとなった。

    3.凝縮温度が異なる水蒸気アロマが、ミルクコーヒーの風味特徴に及ぼす影響

     3種類の水蒸気アロマ(A1、A2、A3)、成分無調整牛乳、砂糖、水蒸気蒸留前のコーヒー粉末から温水抽出によって得られたコーヒー抽出液(Ex1)、及び水蒸気蒸留後のコーヒー粉末から温水抽出によって得られたコーヒー抽出液(Ex2)を組み合わせて、水蒸気アロマを使用しないミルクコーヒー2品(成分無調整牛乳+砂糖+Ex1またはEx2)、水蒸気アロマを使用したミルクコーヒー3品(成分無調整牛乳+砂糖+Ex2+A1、A2、またはA3)、計5品のミルクコーヒーサンプルを作製した。訓練されていない消費者パネル(男性35名;女性31名、24~47歳)で、ミルクコーヒーのための評価用語5)を選択肢に応用したCATA法により、各ミルクコーヒーサンプルの官能特性を評価した。

     その結果、水蒸気アロマを用いたミルクコーヒーサンプル3品において、「たばこ」「土」「炭」「焦げ」などのコーヒーに特徴的な風味特性が強いと評価された。また、3品の中でも、凝縮温度が低い方が、コーヒーの風味特徴が強い可能性が示唆された。水蒸気アロマを用いないミルクコーヒーサンプル2品においては、コーヒーの風味特性が比較的弱く、「ミルク」や「まろやか」等の風味特性が強いと評価された。これらの結果より、水蒸気アロマを用いることでコーヒーの風味特性が強くなることが示され、さらに水蒸気蒸留時の凝縮温度が、ミルクコーヒーの風味特性に影響を与えることが示された。

    4.まとめと今後の展望

     本研究の結果より、水蒸気アロマ抽出技術と従来の温水抽出を組み合わせることで、同じ出発原料(コーヒー原料)から、コーヒー本来の風味をより強く引き出せることが示された。また、水蒸気蒸留時の凝縮温度を変えることで、揮発性成分プロファイルが異なる水蒸気アロマが得られることが示された。それらをミルクコーヒーの製品開発に応用することで、コーヒーの多様な風味特徴を引き出せることが、消費者の認識に基づいて示された。このことは、従来よりも製品設計の幅が広がることを意味すると共に、水蒸気アロマを使用することで、コーヒー原料そのものが持つ本来の香りを活かしたミルクコーヒー飲料を製造できることが示された。また、コーヒーの風味を従来よりも強く引き出すことで、ミルクコーヒー飲料の製造のために使用するコーヒー原料の量を低減し、原料コストの削減が見込まれる。同時に、コーヒー抽出残渣の発生量が低減することで、環境負荷低減への貢献も期待される。本技術を製品開発へ応用することで、消費者に対してより高付加価値な商品を提案することができると考える。

     以上の研究成果に基づいて、森永乳業では、チルドカップミルクコーヒー飲料市場でシェアNo.1の「マウントレーニア」製品の製造に応用するため、自社工場に水蒸気アロマ抽出の実製造設備を導入した。2022年秋より主要製品の一部で実用化を開始し、現在までに4品で実用化している(マウントレーニアエスプレッソ、ノンシュガー、ノンスイート、及びディープエスプレッソ)。本技術は、今後も マウントレーニア製品全体に幅広く活用していくことで、環境に配慮しながら嗜好性が高く差別化された製品を提案することを通じて、消費者の豊かな暮らしに貢献していきたいと考えている。

    参考文献

    1) Flament, I., & Bessière-Thomas, Y. (2002). Coffee Flavor Chemistry, pp. 53–74.

    2) Beverly et al., Energy Procedia, 161, 157-164, 2019

    3) Imura, N., & Matsuda, O. (1992). Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, 39(6), 531-535.

    4) Sarrazin et al., Food Chemistry, 70(1), 99-106, 2000

    5) Hatakeyama et al., Food Science and Technology Research, 29(3), 197-209, 2023

    6) Hatakeyama et al., Journal of Food Science, 89, 3330-3346, 2024

特別講演
  • 関 泰一郎
    p. 4-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】氏 名:関 泰一郎(せき たいいちろう): 日本大学 生物資源科学部 バイオサイエンス学科・教授略 歴:昭和61年3月日本大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士前期課程修了,平成4年博士(農学)・東京大学,平成6年-8年 米国ミシガン大学医学部人類遺伝学科博士研究員,平成8年日本大学生物資源科学部専任講師,平成19年同准教授,平成23年同教授. 平成29年 公益社団法人 日本栄養・食糧学会賞受賞.

     食品の三次機能(生体調節機能)という概念が提唱されて以来, 食品は単なる栄養の供給源としてのみならず, 健康増進・疾病予防に資するものとして捉えられるようになった. 1980年代までの食品研究は, 栄養特性(一次機能)や加工・貯蔵中の成分変化に関するものが主流であった. そのような流れの中で, カゼインの消化酵素分解物中にモルヒネ様ペプチド(opioid peptide)が発見され, また, 香辛料の辛味成分カプサイシンによるエネルギー代謝亢進作用が示されるなど, 食品は生体機能を潜在的または積極的に制御する可能性が示唆された. 1997年の「生活習慣病」概念導入を契機に, 三次機能に対する関心が高まり, 健康意識の向上, 平均寿命の延伸により疾病構造も変化した. 平均寿命の延伸とともに, 食品に求められる機能性は, がん, メタボリックシンドローム, 循環器疾患に対するものから, 認知機能, 運動器機能, フレイル予防などをターゲットとするものへと拡大している.さらに研究手法においては, 質量分析やオミクス解析, イメージング技術の進歩により, 微量成分の可視化や機能性成分の作用機序の解明が飛躍的に進展した. 一方, ヒト介入試験によるエビデンスの取得においては, 遺伝的背景, 腸内細菌叢, ライフスタイルなどに起因する個人差を考慮した研究の重要性が高まり, 腸内環境とエピジェネティクスの統合や個別化栄養(precision nutrition)の概念も提唱されている. また, 消費者への科学的根拠の提供など, 情報発信のあり方も問われている.

     本講演では, 講演者らが取り組んできた香辛料成分の機能性, 特にガーリック由来の硫黄化合物による細胞骨格の修飾を介した抗がん作用メカニズム1-3), 薬物代謝系酵素の制御を介した生体防御と発がん予防の可能性4,5), マイクロRNA発現を介した脂質代謝の制御と抗肥満作用6), さらに血液凝固・線溶系因子に関する基礎研究7-9), 及び食品成分が血管内皮機能に及ぼす影響, 抗動脈硬化作用について紹介する10). また, これらの基礎研究が細胞から個体レベル, さらには臨床的意義へとどのように展開されたかを振り返りつつ, 食品とその生理機能をつなぐ科学の変遷, そして研究を取り巻く社会的背景や次世代研究者・学生の意識の変化についても考察する.

    1) Seki T, Ariga T et al., Cancer Lett. 2000; 160: 29-35.

    2) Hosono T, Seki T et al., J Biol Chem. 2005;280:41487-93.

    3) Hosono T, Seki T et al., Carcinogenesis. 2008; 29:1400-6.

    4) Fukao T, Hosono T, Seki T et al., Food Chem Toxicol. 2004; 42: 743-9.

    5) Hosono-Fukao T, Seki T et al., J Nutr. 2009;139(12):2252-6.

    6) Miura A, Hosono T, Seki T et al., Mol Nutr Food Res. 2021; 65 :e2001199.

    7) Seki T, Ariga T et al., J Cell Physiol.2001;189:72-8.

    8) Okumura N, Seki T et al., J Biol Chem.2009; 284: 16553-61.

    9) Hosono T, Seki T et al., J Agric Food Chem. 2020;68:1571-8.

    10) Okue S, Hosono T, Seki T et al., Food Funct. 2022,13,1246-55.

シンポジウムA1: 産官学連携シンポジウム「持続可能性を高める新たなものづくり技術」 (産官学連携委員会・一般財団法人旗影会共催 後援:農林水産省)
  • 今西 直人
    p. 5-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】 

     今西 直人(いまにし なおと):農林水産省農林水産技術会議事務局 研究推進課産学連携室長

     略歴:2003年3月北海道大学農学部卒業,同年4月農林水産省入省.就農促進,スマート農業,みどりの食料システム戦略の推進等の施策に従事.2023年香川県農政水産部次長を経て,2025年4月より現職.

    (1)食料・農業・農村をめぐる課題

     我が国の食料安全保障の確保に向けては、世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることに鑑み、国内の農業生産の増大を図ることを基本として食料の安定的な供給を行うことが重要である。一方、国内の農業に目を向けると、農業者の減少・高齢化の著しい進展、人口減少に伴う国内市場の縮小、気候変動による異常気象の頻発化等、早急に対応すべき課題が山積している。

     このため、国においては、従来の食料・農業・農村基本法に基づく政策全般にわたる検証及び評価並びに今後20年程度を見据えた課題の整理を行い、基本理念や基本的な施策を見直し、基本法を改正(令和6年6月5日)したところである。さらに、改正基本法で掲げる「食料安全保障の確保」、「環境と調和のとれた食料システムの確立」、「多面的機能の発揮」、「農業の持続的な発展」、「農村の振興」の五つの基本理念に基づき、施策の方向性を具体化した「新たな食料・農業・農村基本計画」を令和7年4月11日に策定したところである。今後5年間は、新たな基本計画に基づき、農業の構造改革が集中的に進められることとなる。

    (2)農林水産・食品分野のイノベーション創出の意義

     先にも述べたように、今後は基本計画に基づき、様々な具体的な施策が講じられることとなる。他方で、農林水産・食品分野では、農業者の減少等による労働力の不足や、気候変動による温暖化の影響などが急速に進む中、将来持続的に生産性向上を図っていくためには、栽培管理や既存技術の改善など従来の方法の延長線では解決が難しい課題を多く抱えている。

     このため、農林水産・食品分野におけるイノベーションの創出を促進し、社会課題の解決に有用な新技術が創出され、社会実装を進めることは、同分野の課題を解決するために必要である。

     農林水産省では、農林水産・食品分野のオープンイノベーションを促進するため、「『知』の集積と活用の場」を設置し、農林水産業・食品産業だけでなく、機械・化学・情報・金融など様々な分野の多様な知識・技術等の連携を進めている。また、技術開発から社会実装までの各段階の障壁を乗り越えられるよう、農林水産・食品分野の特性を踏まえた全体戦略を構築した上で、技術開発の発想から社会実装までの各段階における戦術を企画・実行するための支援を行うことにより、事業化を目指す企業等の取組を推進している。

     こうしたスタートアップや大学を含む産学官の連携による研究開発・社会実装を更に加速化することは、今後5年間の農業の構造改革にとって重要であると考えている。今後の取組の充実化に向けて、皆様の意見を賜りながら、一緒に考えていきたい。

  • 日渡 祐二
    p. 6-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     日渡祐二(ひわたしゆうじ)宮城大学食産業学群教授

     略歴:2001年,総合研究大学院大学 生命科学研究科博士課程修了(博士).同年,岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所にて非常勤研究員・助教を務める.2012年,英国アベリストウィス大学にてマリー・キュリー・フェロー.2014年より宮城大学 食産業学部 准教授,2018年より現職.専門分野は,植物の細胞生理および発生進化学.植物の細胞分裂・成長・環境応答に関わる分子機構を,植物進化の観点から研究している.また,得られた知見を基盤とした植物細胞の高付加価値化にも取り組んでいる.

     植物は,人間にとって不可欠な食料資源であると同時に,社会生活においてもバイオマスとしてさまざまな恩恵をもたらしている.植物科学の進展は,植物の生理や進化を理解する自然科学としての意義に加え,植物の活用を通じて持続可能な社会の構築に貢献するという応用的な側面においても重要性を増している.近年,次世代シーケンサーなどの塩基配列解析技術の進歩により,多様な植物種のゲノム解析が進んでいる.さらに,観察・分析機器の性能化に伴い,遺伝子発現,タンパク質,代謝産物の網羅的解析や,生細胞を可視化するイメージング技術の普及によって,植物の生理応答に関わる分子機構の解明が急速に進んでいる.これらの知見を活用し,植物の高機能化を実現することで,食料の安定供給やバイオマスの増産といった社会的課題の解決につながると考えられる.

     本研究室では,植物の生理応答を制御する分子機構の理解に取り組むとともに,その成果を応用した植物の高付加価値化を目指している.本発表では,以下の2つの研究事例を紹介し,分子機構に立脚した食資源開発の可能性について議論する.

    (1)海苔の増産に向けた海藻スサビノリの遺伝子・細胞解析

     紅藻スサビノリ(Pyropia yezoensis)は,アジア地域で広く食用に供されるアマノリ属の海藻であり,特に板海苔の原料として重要な水産資源である.近年,温暖化に伴う海水温の上昇により,栽培期間の短縮,収穫量の減少,品質低下が深刻化している.そこで本研究では,スサビノリの高温ストレス応答を解明するため,植物種間のゲノムワイドな遺伝子比較解析,発現変動遺伝子の網羅的解析,生細胞の動態観察を行い,高温条件下に特異的な遺伝子応答および細胞挙動を明らかにした.

    (2)マメ科木本植物イナゴマメ由来の増粘多糖類の細胞工学的生産

     イナゴマメ(Ceratonia siliqua)は地中海沿岸に自生するマメ科植物であり,その種子の胚乳から得られるローカスビーンガム(主成分:ガラクトマンナン)は,食品添加物の増粘多糖類として広く利用されている.これまでイナゴマメのガラクトマンナン生合成経路に関わる遺伝子群は未解明であった.本研究ではde novoゲノムアセンブリを構築し,高精度な概要ゲノム解析と生合成酵素遺伝子の同定を行った.さらに網羅的な遺伝子発現解析により,ガラクトマンナン生合成に関わる鍵遺伝子の絞り込みに成功した.現在は,同定した遺伝子群を導入した植物細胞培養系を構築し,増粘多糖類の細胞工学的生産に取り組んでいる.

  • 石井 敦浩
    p. 7-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     石井 敦浩(いしい あつひろ):プラチナバイオ株式会社 Chief Operating Officer

     略歴:米系コンサルティングファームArthur D Little Japanに新卒入社。バイオ・ヘルスケア領域をはじめ、様々な産業において、事業/研究開発戦略立案やビジネスデューデリジェンス等の業務に従事。2021年10月にプラチナバイオ株式会社に事業推進ディレクターとして入社。2022年4月からChief Operating Officerに就任。事業戦略策定、国内外での事業開発、資金調達、組織マネジメント等、経営業務に幅広く従事。

    (1)データ駆動型育種「Bio Digital Transformation (バイオDX育種)」とは

     バイオDX育種とは、従来の現場の経験に依存した育種方法に対し、生物のゲノム情報、表現型データ、環境データなど多様な情報を統合解析することで、優良品種の開発や育種環境の改善を効率的かつ精密に実現する手法である。近年の次世代シーケンサーをはじめとするゲノム解析技術やAI技術の進展により、膨大なデータの取得と解析が可能となり、収量、耐病性、品質などの形質を予測して選抜するバイオDX育種の研究が進められている。産業実装された例は限定的であるものの、バイオDX育種は、育種期間の短縮や開発コストの削減が可能となる上、食糧安全保障や気候変動といったグローバルな社会課題の解決に繋がるとして期待されている。また、育種対象が多様化する中で、品種ごとに最適な育種戦略を設計することも可能となる。さらに、データを介して研究機関や企業間で知見を共有・連携することで、オープンイノベーションの促進や研究開発力の底上げも期待される。バイオDX育種は、農業の高度化と持続可能な食料生産に向けた鍵となる技術であり、今後の農業・食品産業の基盤を支える重要な取り組みといえる。

    (2)バイオDX育種の産業実装

     プラチナバイオでは、持続可能な原料調達という社会課題の解決を目指し、企業とバイオDX育種の共創事業を進めている。食品サービス事業を展開する国内企業との共同プロジェクトでは、魚の育種に取り組んでいる。近年、気候変動や乱獲によって魚を安定的に調達することが難しくなってきており、現場の経験のみに頼った品種改良から脱却し、環境変化に対応できる育種体制を構築することが重要になってきている。このような背景を受け、対象魚種の遺伝的多様性や遺伝子機能を読み解きながら、目的の機能を有する系統の選抜や育種条件の最適化を目指している。さらに、水産業界では魚粉の高騰が喫緊の課題となっており、魚の成長を促す餌の開発への展開も今後期待される。

     水産業界だけでなく、微生物培養や植物工場によるバイオものづくりの領域においてもバイオDX育種の取組を進めている。植物工場での共同研究では、植物工場で栽培条件を検討してきたものの、その要因を分析できておらず、収率の低下・バラつき、収穫時期の遅延といった課題が散見されている。異なる栽培条件における植物の遺伝子挙動のデータと、これまで植物工場で蓄積してきた形質的データを統合解析することで、起きている現象を遺伝学的に解釈し、栽培条件の最適化と植物工場の付加価値向上に繋げることを目指している。

     バイオDX育種は、産業実装においては黎明期といえる。プラチナバイオは、アカデミアの先端技術が産業で実装されるように、技術提供や事業化支援から啓発活動や教育活動にも取り組んでいる。こうした取り組みを通じ、各産業におけるバイオDX育種の推進と、持続可能な原料調達をはじめとする社会課題の解決に貢献していきたいと考えている。

  • Edo de Ronde
    p. 8-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     Edo de Ronde (エド・デ・ロンデ) Embassy of the Kingdom of the Netherlands, Netherlands Foreign Investment Agency (NFIA), Executive Director for Japan

     略歴:2024 – Executive Director for Japan, NFIA, 2020 –Executive Director for Middle East & North Africa, 2015 –Business Manager Asia & Logistics, Rotterdam Partners, 2004 – Business Owner, Source M & China Talents B.V. Business development consultancy / project management

    [Development of healthy and sustainable food solutions]

    The urgency of climate change measures on a global scale is increasing day by day, and it is a well-known fact that food production has a significant impact on global warming, loss of biodiversity, marine ecosystems, etc. Although the Netherlands is a small country, it has an advanced and competitive Agri-Food sector and is committed to developing healthy and sustainable food solutions that benefit both people and the planet.

    In 2018, in the wake of food security concerns and sustainability efforts, the EU called on member states to develop protein strategies. In response, the Netherlands announced the Dutch National Protein Strategy in 2020, setting a goal of increasing self-sufficiency in plant-based and innovative proteins over the next 5 to 10 years.

    The gist of the strategy is to promote domestic protein crop production, research and development of plant-based protein sources, and increase the proportion of plant-based proteins in the diet, and to promote the acceptance of plant-based foods by actively engaging consumers.

    [An ecosystem that creates innovation]

    An ecosystem is essential for innovation, which is a key driver of the policy. The Netherlands has a vibrant ecosystem that promotes innovation through a triple helix approach, with over 500 companies, supportive government agencies, and renowned university research institutes. The Dutch ecosystem is composed of five main elements: collaboration, innovation, a solid international corporate base, branding, and transformation. For example, the Netherlands has already grown into one of the world's largest hubs in the field of alternative proteins over the past 20 years and is expanding into the fields of cellular agriculture and precision fermentation.

    [International collaboration]

    Furthermore, international collaboration plays important role in supporting these ecosystems. Currently, there are a wide variety of food-related issues, and due to the complex geopolitical situation, there are many social problems that cannot be solved by a single country alone. Sustainable food innovation remains a priority, the Netherlands is taking the leadership and accelerating innovation to quickly solve future world problems, with promoting international collaboration that maintains win-win relationships that utilize each country's strengths working toward a sustainable and healthy food system of the future.

  • 近藤 昭彦
    p. 9-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     近藤昭彦(こんどうあきひこ):株式会社バッカス・バイオイノベーション代表取締役社長

     略歴:1988京都大学大学院化学工学専攻博士後期課程修了(工学博士)、1988年九州工業大学工学部応用化学科講師、2003年神戸大学工学部応用化学科教授、2016年神戸大学科学技術イノベーション研究科研究科長・教授、2020年理化学研究所環境資源科学研究センター・副センター長(併任)、2021年神戸大学副学長、2025年神戸大学名誉教授・学長補佐、2024年株式会社バッカス・バイオイノベーション代表取締役社長

     バイオテクノロジーを活用したものづくり“バイオものづくり”は飛躍的な発展を遂げつつあり、バイオものづくり革命の様相を呈している。バイオものづくりは、医療・ヘルスケア分野、エネルギー分野、工業ものづくり分野、食料分野など広範な領域に及んでいる。OECDやマッキンゼーが市場予測をしているが、2030年で200‐400兆円規模になると言われている。食料分野においても近年、微生物や微細藻類を活用した代替たんぱく質生産や精密発酵技術など、バイオものづくりの最先端技術の活用が進められている。世界的な食糧不安の問題、食の安全(特に日本は安全保障上も重要である)、温室効果ガスの排出削減などの観点からも、最近注目が集まっている。例えば、シンガポールは戦略的にフードテックを推進している。

     このバイオものづくり革命の流れを加速しているのが、バイオ・デジタル融合による技術革新であり、物質生産のための微生物育種の期間を大幅に短縮することが可能です。すなわち、ゲノム解読技術やゲノム合成・編集技術等の先端バイオ技術とIT、AI技術やロボット技術を融合(「バイオ・デジタル」融合)して誕生した、技術分野Engineering Biologyであり、各種要素技術を集積した革新的なプラットフォームがバイオファウンドリ技術です。バイオファウンドリは、DBTLシステムとして構成されるが、コンピューターによる微生物設計技術(Design:D)、ロボティックス技術を活用して自動化された組換え微生物構築技術(Build:B)、迅速・高精度な生産物やオミックス評価技術(Test:T)、さらなる微生物設計の高度化のための機械学習や数理モデリング(Learn:L)等の先端技術を統合したものです。このDBTLサイクルで得られるデータをシステム内に集積してデータベースや知識ベースを構築し、データ駆動・AI駆動の開発とすることで、全体の開発時間のさらなる短縮が可能です。さらに、スケールアップにおける開発を加速する製造プロセス開発のバイオファウンドリも構築されつつあります。最終的にはDBTLバイオファウンドリと生産プロセス開発バイオファウンドリを一体化させる“統合バイオファウンドリ”構築が重要です。

     折しも、グリーンイノベーション基金ではCO2からのバイオものづくりに約1700億円、バイオものづくり革命推進事業では、廃棄物等の未利用資源からのバイオものづくりに3000億円の基金予算が付き、日本において重要な二つの領域の研究が強力に推進されている。両事業では、バイオプラスチック、バイオ燃料、機能性素材、食品など、多様なターゲット物質生産の実用化・事業化に向けた研究開発が進められている。ここで、カギとなるのが“統合バイオファウンドリ”技術です。統合バイオファウンドリで、CO2や未利用資源からのバイオものづくりを迅速に実現できれば、カーボンリサイクルやサーキュラーエコノミーの実現による持続可能な社会の構築、そしてプラネタリーヘルスの増進に大きく貢献する。 本講演では、統合バイオファウンドリ開発の現状と、バイオものづくりの実現によるGXの推進に関して述べる。

シンポジウムA2: おいしい魚をつくる!
  • 吉崎 悟朗
    p. 10-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】吉崎悟朗(よしざきごろう) 

    略歴:1993年 東京水産大学大学院水産学研究科博士後期課程修了 水産学博士、1993年 米国テキサス工科大学 博士研究員、1995年 東京水産大学水産学部資源育成学科 助手、2003年 東京水産大学水産学部資源育成学科 助教授、2012年 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科 教授

    我が国の沿岸には約4000種もの魚類が分布しているとされるが,そのうち養殖が可能とされている魚種は50種程度にとどまっている.実際に日常的に流通している養殖魚種は,ブリ,マダイ,カンパチ,クロマグロ,シマアジ,トラフグ,ヒラメなど,限られた種のみである.しかし,養殖対象外の魚種の中にも,食味に優れたものは数多く存在する.それにもかかわらず,これらの魚種が養殖されてこなかった主な理由は,生け捕りの困難さや,輸送・飼育過程での減耗の多さにある.養殖を開始するには,親魚となる個体を生け捕りし,イケスや養殖池で成熟させて受精卵を得る必要があるが,生け捕りが困難な魚種や,物理的ストレスに弱い魚種では,このプロセスが大きな障壁となってきた.本研究では,生け捕りが難しく,かつ希少な魚種においても,養殖生産が可能となる新たなアプローチを検討した.演者らはこれまでに,魚類の卵巣・精巣から生殖幹細胞を調整し,別個体(宿主)に移植することで,宿主からドナー由来の卵や精子を生産させる技術を確立してきた.さらに,死後1日以内であれば斃死個体からも生殖幹細胞を回収可能であることを見出している.この知見に基づき,生け捕りが不可能な希少魚種においても,鮮魚店等で氷冷保存された個体を用い,生殖幹細胞を回収・移植することで,その次世代の個体を得られる可能性が示唆された.この仮説を検証するため,我々は高級魚として知られるカイワリの次世代生産を試みた.本種は大変美味であるが,その漁獲量が少なく産地近辺の鮮魚店以外では入手が困難である.また,スレに弱いため生け捕りが非常に困難な種である.当初,カイワリの鮮魚から生殖幹細胞を調整し,これを近縁種のマアジに移植したが、マアジはカイワリの配偶子を生産するには至らなかった.そこで,近隣の漁師に依頼をしてカイワリ活魚の収集を進めた.予想通り、この活魚収集は難航を極めたが最終的に成熟雄を入手することができた.そこで,養殖が容易なマアジの卵と,入手したカイワリ雄の精子を用いて両者の雑種を作出した.カイワリはアジ科に属するため,同じ科に属するマアジとの雑種は,カイワリ由来の生殖幹細胞を移植する際の宿主として適していると考えたためである.幸運なことに,この雑種は自らの配偶子を全く生産しない不妊となることが明らかとなった.そこで鮮魚店で購入した氷冷されていた未熟雄個体から精巣を摘出し,生殖幹細胞を調製した.これらの細胞を,マアジ×カイワリ雑種の仔魚腹腔内に移植した結果,生殖幹細胞は宿主の生殖腺へと移動し,雌宿主では卵,雄宿主では精子の形成を開始した.翌年の産卵期には,雑種宿主個体から成熟した卵および精子を得ることに成功し,人工授精を介して大量の純粋なカイワリ次世代を生産することができた.現在では、これらのカイワリを親魚として大量のカイワリを生産可能になっている。 以上の成果から,生け捕りが困難な魚種であっても,鮮魚由来の生殖幹細胞と雑種宿主を組み合わせることで,生きた雌個体を使用することなく次世代を再生産可能であることが明らかとなった.本技術は,今まで養殖できなかった新たな美味しい魚種の養殖化を推進するうえで有望な戦略となりうる.

  • 矢澤 良輔
    p. 11-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】矢澤良輔(やざわりょうすけ)略歴:2000年東東京水産大学水産学部卒, 2002年東京水産大学大学院水産学研究科資源育成学専攻 博士前期課程修了, 2005年東京水産大学大学院水産学研究科資源育成学専攻 博士後期課程修了, 水産学博士号取得.同年よりUniversity of Victoria, 2007年東京海洋大学にて博士研究員として勤務.2011年東京海洋大学海洋生物資源学部門助教, 2016年同准教授, 2025年より同教授.

    海産養殖における育種は喫緊の課題であり, 高成長や耐病性を示す優良系統の育種が進みつつある.しかし, 養殖魚にとって最も重要な形質である“おいしさ”, つまり, 可食部の食味や化学成分といった, 侵襲的な評価が必要な形質を対象とした選抜育種の例はほとんどない.なぜなら, 可食部に対する評価には屠殺が伴い, 選抜個体から次世代の生産ができないためである.家系選抜では, 血縁関係や遺伝子情報を用いて優良個体を予測し選抜することで, 侵襲的な評価と次世代生産の両立が可能であるが, 大量の選抜母集団を長期間維持することや, 数千個体規模のジェノタイピング(DNA解析)が必要不可欠である.そのため, 我が国のように多様な魚種が養殖対象となる場合, 飼育施設の規模やコストが膨大となり, この手法を用いることは困難である.そこで本研究では, 代理親魚技法を用い, この問題を解決することを試みた.代理親魚技法は, ドナーの生殖細胞を宿主仔魚へ移植することで, これらの宿主にドナー由来配偶子を生産させる技術である.また, ドナーに用いる生殖細胞は凍結保存が可能であり, 解凍した生殖細胞を宿主へ移植することで凍結保存していた細胞に由来する精子および卵の生産が可能である.具体的には, 多数の親世代の個体の可食部を成分分析に供し, エリート個体を選抜する.その際, 可食部のサンプリングと同時に生殖細胞を凍結し, 選抜個体の凍結生殖細胞を代理親魚へと移植することで, エリート個体に由来する次世代を効率的に生産することが可能になる.そこで本研究では, 海産魚のモデルとしてニベ(Nibea mitsukurii)を用い, “おいしさ”の要素として, 脂ののり(粗脂肪含有量)を対象形質として本技術の有用性を検証した.天然由来ニベを粗脂肪含有量が低い飼料で6ヶ月間養成した.その後, 非繁殖期にオス個体31個体の精巣を緩慢凍結法により凍結保存したうえで, 各個体の粗脂肪含有量を解析した.その結果, 粗脂肪含有量の平均値は3.5%であり, そのうち粗脂肪含量の高い上位個体(粗脂肪含有量6.0%), および低い下位個体(粗脂肪含有量1.8%)を選抜個体とした.次に, 両個体の凍結精巣細胞をドナーとして, 宿主ニベ仔魚に生殖細胞移植を実施した.なお宿主には, dnd ヘテロKOニベ同士の交配により生産したdnd ホモKO(不妊)を含む集団を用いた. 6ヶ月齢時点で移植宿主の中からdnd ホモKO宿主のみを選抜し, 交配することで, 上位および下位個体に由来する次世代集団をそれぞれ得ることに成功した.これらの次世代集団を, 3ヶ月齢まで通常飼育した後, 粗脂肪含有量が低い飼料で2週間飼育した.試験開始前の平均体長および平均体重はそれぞれ, 10.4 cm, 12.0 gおよび10.7 cm, 10.5 gであり, 両集団間に有意な差は無かった.2週間の飼育試験後, 各個体の粗脂肪含量を解析した結果, 上位個体および下位個体に由来する次世代集団の平均値はそれぞれ, 4.26%±0.16, および, 2.98%±0.14であった.両者の差は1.42倍であり, 上位集団で有意に高かった.以上のように, 侵襲的な評価により選抜されたエリート個体に由来する次世代生産を生殖細胞移植により実現し, 選抜の効果を得ることに成功した.今後, この技術を用いることで, 様々な形質に応用可能であることが期待される.

  • 金子 豊二
    p. 12-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】金子豊二(かねことよじ)略歴:1981 東京大学農学部卒,1986 東京大学大学院農学研究科博士課程修了,同年カナダ・アルバータ大学博士研究員,1989 東京大学海洋研究所助手,1997 同助教授,2003 東京大学大学院農学生命科学研究科助教授,2007 同教授,2022 東京大学名誉教授

    魚の浸透圧調節は,鰓,腎臓,腸といった浸透圧調節器官の調和によって成り立つが,中でも鰓の塩類細胞は各種塩類の取り込みや排出の場として重要な役割を果たしている.真骨魚の血液塩分濃度は0.8~1.0%で,海水の1/4~1/3に相当する.淡水魚は0.8%程度,海水魚は1.0%程度と,海水魚のほうがやや高い値を示す.海水魚は血液よりも濃い塩分環境に生息しており,塩分が体内に浸入することで血液塩分濃度が上昇する傾向にある.しかし,鰓の塩類細胞の働きによって,過剰な塩類は体外に排出され,塩分濃度の過度な上昇を防いでいる.この塩類の排出は濃度勾配に逆らった能動輸送で行われ,エネルギーの消費を伴う.そのため,海水魚を海水よりも薄い塩分濃度の環境水で飼育すると,体内に流入する塩類が減少し,塩類排出に必要なエネルギーを節約することが可能となる.実際に海水より薄い塩分濃度で魚を飼育すると,浸透圧調節に費やされるエネルギーが削減されるため,海水で飼育する場合よりも成長が良好である.すなわち,海水魚は浸透圧調節の観点からすると,海水よりも希釈海水を好むのである.この発見により,希釈海水を用いた海水魚の陸上養殖の優位性が認識されるようになった.また,水温が安定し清浄な地下海水の有用性も指摘されているが,地下海水は淡水の混入により希釈されている場合が多い.これまで塩分濃度が低いことは地下海水のデメリットとされてきたが,実際には陸上養殖に適していることが分かってきた.一方で,低塩分海水で飼育した魚は味が劣るとの指摘がある.これは低塩分飼育した魚の血液浸透圧(塩分濃度)が通常海水で飼育した魚よりも僅かながら低いことに由来する.血液の浸透圧と細胞内液の浸透圧は一致しているが,両者で浸透圧を生じる物質は大きく異なる.浸透圧は溶質の種類に関係なく,溶質の濃度の総和で決まる.血液の浸透圧は主に塩類に由来するが,細胞内液の浸透圧には塩類ではなくアミノ酸等の低分子有機物が関与する.したがって,低塩分飼育した魚は筋肉細胞内のアミノ酸濃度が通常海水で飼育した魚よりも低くなり,その結果,味が劣ると考えられる.この問題への対処法として開発された技術が「味上げ」である.低塩分飼育した魚を出荷直前に高塩分水(海水)に晒すと,血液浸透圧が一過的に上昇し,その後低下して安定する.その際,筋肉中のアミノ酸濃度も血液浸透圧と同期して変化する.血液浸透圧がピークを迎えるタイミングで魚を〆ることで,筋肉中のアミノ酸濃度が通常海水飼育魚よりも高くなることが確認されている.筋肉のアミノ酸濃度は,低塩分飼育魚,海水飼育魚,低塩分飼育・高塩分曝露魚の順で高くなることが明らかとなった.出荷直前に高塩分水に晒して魚の味を改善する技術,それが「味上げ」である.「味上げ」は陸上養殖との相性が良く,特に低塩分の地下海水を利用した陸上養殖ではデメリットを補い,さらに味を向上させるという大きな利点を持つ.この技術は養殖魚の差別化やブランド化戦略にも有用であり,今後の養殖業界における重要な手法となる可能性を秘めている.

  • 澤山 英太郎
    p. 13-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】澤山 英太郎(さわやま えいたろう):日本大学生物資源科学部 准教授

    略歴:東京海洋大学大学院 博士前期課程修了、愛媛大学大学院連合農学研究科 博士(農学)、民間養殖会社、愛媛大学南予水産研究センター 特任助教、日本大学生物資源科学部 専任講師を経て、2022年より現職。専門は水産遺伝育種学。主な研究テーマは、ゲノム情報を用いた養殖魚の選抜育種、養殖対象生物の集団ゲノミクス解析、養殖魚の逸出リスク評価など。

    スーパーや市場に並ぶ魚を目にし、「美味しそうだ」と感じた経験は、多くの人に共通するものであろう。例えば、肉厚で丸々と太ったブリと、痩せたブリが同じ価格で並んでいた場合、消費者の多くは前者を選択するであろう。また、天然のマダイは美しい桜色を呈しており、その見た目の美しさから、養殖魚よりも高い価値があると評価されがちである。このように、日本人にとって魚の「見た目」は、商品価値を左右する重要な要素の一つである。演者は、大学教員となる以前、民間の養殖会社においてマダイやヒラメの稚魚を生産する「種苗生産」に従事していた。スーパーに並ぶ野菜に規格が存在するのと同様に、養殖魚にも規格が設けられており、規格内の魚を安定して供給することが求められる。そのため、種苗生産においては規格外個体の発生を如何に抑制するかが重要な課題となり、演者もこの問題に取り組んできた。特に、遺伝的要因に起因する形態異常の防除をテーマとし、選抜育種(品種改良)による効率的な対策技術の開発に注力している。本講演では、「見た目も美味しい魚をつくる」という観点から、マダイの体色異常に関する研究成果を紹介する。養殖マダイの人工種苗には、成長過程において体色が透明なまま残る個体が一定の頻度で見られる。マダイを含む魚類の多くは、孵化直後は透明であるが、成長とともに色素胞や鱗が発達し、通常の体色へと変化する。この成長過程は「変態」と呼ばれるが、マダイの透明個体は変態を経ても色素が発達せず、成魚になっても白っぽい外見を呈する。こうした個体は外観的な商品価値が著しく低いため、流通に適さない。透明個体の発生には遺伝的要因が関与していると考えられたため、演者はDNAマーカーを用いた親子鑑定を実施した。その結果、透明個体は特定の親魚の組み合わせに由来することが明らかとなった。さらに、人工授精により単一の家系から正常体色個体と透明個体を同時に得ることに成功し、この家系を対象にddRAD-seq法を用いたゲノム解析を行った。得られた一塩基多型(SNP)情報に基づき連鎖解析を実施した結果、1つの連鎖群において表現型と強く連鎖するSNPを同定した。このSNPの近傍には、甲状腺ホルモン合成に関与するduoxおよびduoxa遺伝子が存在し、特にduoxa上の非同義変異が表現型と完全に連鎖していることが判明した。さらに、透明個体では甲状腺腫大および甲状腺ホルモン量の低下が認められ、ゼブラフィッシュにおいてduoxa遺伝子をノックアウトすると透明個体が生じることから、duoxaの機能不全により甲状腺ホルモン合成が阻害され、透明化が引き起こされる可能性が示唆された。以上の結果から、透明個体は単一遺伝子による潜性遺伝で生じ、家系内で約25%という高頻度で発生することが明らかとなった。この一連の研究で開発した遺伝子マーカーは、実際の生産現場でも実用化されている。演者はこのような研究をマダイとヒラメで精力的に進めており、不味そうに見える魚を排除し、「見た目も美味しい魚」を安定して生産する技術基盤が整いつつある。

  • 高橋 希元
    p. 14-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】髙橋 希元(たかはし きげん)東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門 准教授 

    略歴:2017年3月 東京海洋大学大学院 博士後期課程 応用生命科学専攻修了、博士号(海洋科学)取得。博士研究員を経て、2018年4月 東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門 助教に着任、2023年4月より同部門 准教授。専門は食品物性学、水産加工学。活け締め、脱血、熟成からすり身ゲルまで鮮魚の水揚げ時の処理から加工まで一連の研究を行っている。

    従来、魚の品質においては鮮度が重視されてきた。鮮度には様々な解釈が成立し得るため定義が難しいが、一般には致死直後からの性状変化の度合いと考えることができる。つまり、水産物における鮮度保持とは、漁獲後の性状を保存中に維持することを意味する。 我が国においては、魚の鮮度保持を目的に活け締めと呼ばれる方法が伝統的に用いられてきた。活け締めは活魚の即殺、脊髄神経の破壊および脱血の一連の工程を含むものである。長年、漁師や鮮魚仲卸業者等の経験に基づき行われてきた方法であるが、近年それぞれの工程の持つ有用性が科学的に明らかにされてきた。またSNSにより人気を博した津本式など、新たな手法も開発されつつある。さらには日本国内のみならず、フランスなど欧米諸国においても日本料理人気の高まりとともに、鮮魚の品質向上の観点から活け締めの有用性が注目され始めている。これら国際的な活け締め技術への関心の高まりは、日本政府が主導する水産物輸出促進における鮮魚の高品質ブランド化にも貢献する可能性がある。 一方、近年では鮮度の良さという既存の品質価値とは異なり、低温で一定期間熟成させる、いわゆる「熟成魚」も魚肉の新たな品質向上方法として注目を集めている。熟成とは、鮮度を重視した品質保持とは異なり、一定条件(温度・期間等)のもとで品質をより良いものに変えていくという考え方であり、熟成魚においてはねっとりとしたテクスチャーと濃厚なうま味が特徴とされる。熟成魚は寿司店等の外食産業を中心に注目されてきた。これは鮮度の良い魚とは異なる美味しさを有するという付加価値の側面と、熟成期間が1週間から最長2カ月以上に及ぶため、在庫のコントロールが容易であり、食品ロスが少なくコスト面で有利な場合があることが、その理由として挙げられる。筆者はこれまでに熟成魚の特徴的なテクスチャーやうま味成分の増加がタンパク質分解によるものであり、また水産物有効利用の観点からも有用であることを明らかにしてきた。 本講演では「美味しい魚をつくる」ために水揚げ後にどのような処理・加工をすべきかという観点から、上述の活け締めによる鮮度保持および熟成による品質向上などについて、筆者らのこれまでの研究成果を含め解説する。また血液は血管内で迅速に凝固するにもかかわらず、なぜ鮮魚品質の劣化に関わるのか、脂質含有量が多い魚肉のほうが熟成に向くというのは本当か、といったこれまで解決されていない問題についても、最新の知見を踏まえ概説する。

シンポジウムA3: 発酵醸造文化の未来 ― 伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録と次世代への継承
  • 北本 勝ひこ
    p. 15-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    北本勝ひこ(きたもと かつひこ)略歴:1972年東京大学農学部農芸化学科卒、国税庁醸造試験所入所、福岡国税局、仙台国税局鑑定官、醸造試験所主任研究員を経て、1995年東京大学農学部助教授、1996年同教授、2015年同名誉教授、2016年より日本薬科大学特任教授

     2024年12月に,「伝統的酒造り 日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術」がユネスコ無形文化遺産に登録された.これまで,酒類関係のユネスコ無形文化遺産には,ジョージアのワイン(2013),ベルギーのビール文化(2016),モンゴルの馬乳酒(2019)がある.それぞれ伝統的な酒造りが登録されているが,原料や製法の違いがある.今回の「伝統的酒造り」は,“こうじ菌を使った”というところが重要な点である.

     酒造りの教科書に必ず登場する言葉として,「一麹(こうじ),二酒母(もと),三造り」がある.仕込みの最初の工程にある麹が酒造りで一番重要であるという意味である.

     日本酒造りでの麹の働きは次のように説明される。麹にはアミラーゼやプロテアーゼなど様々な加水分解酵素が含まれている.その中でも,アミラーゼが最も重要であり,米のデンプンをグルコースに変える働きがある.酵母はこのグルコースをアルコールに変換することによりお酒が造られる.プロテアーゼなどもアミノ酸やペプチドなどのうま味成分を作るのに働いている.また,麹にはビタミンやミネラルなどの栄養素を酵母に供給し,酵母の増殖を促す働きがある.麹菌はゲノム情報などから,100種類を超す様々な加水分解酵素を生産することがわかっており,アミラーゼやプロテアーゼ以外にも量は少ないものの酒の風味に影響を与えている酵素も数多くある.

     2006年の日本醸造学会大会において、東北大学名誉教授の一島英治博士の基調講演のあと,「麹菌は日本を代表する微生物,国菌である」と認定された.

     さて,国菌である麹菌Aspergillus oryzaeはどこからやって来たのだろうか.2005年に麹菌のゲノム解析が完了したことにより,8本の染色体を持ち,約12000個の遺伝子がコードされていることがわかった.ゲノム情報が解明されたことにより,有用な酵素遺伝子の数や種類など様々なことがわかるようになったが,それ以外にも「麹菌は我が国で家畜化されたカビである」ことが明らかになった.

     麹菌は伝統的な酒造りになくてはならないものであるが,醤油や味噌の製造にも重要な働きをしており,日本の食文化の中心に位置する重要な微生物である.さらに,甘酒や塩麹,石狩漬けや蕪寿司など,麹を使った多彩な発酵食品を作り出している.

     近年、欧米諸国で「代替肉」のブームが始まっている.代替肉とは,牛肉や豚肉などの動物肉の代わりに,主として植物性原料で作られた「肉のような食材」のことである.代替肉の素材として実用化が進んでいるものは,大豆が主原料の「大豆ミート」であるが,最近,「マイコプロテイン」と呼ばれるカビを培養したものも欧米で販売されている.様々なカビが利用されているが,中でも日本で酒造りに利用されて来た麹菌は安全性の面から注目を集めている.日本でも、麹菌を使った「マイコプロテイン」を製造販売するベンチャーも登場しており,栄養価も高く,その食味,食感など実用化に近い段階にある.近い将来,麹菌の活躍の場がさらに広がることが期待される.

  • 岸 保行
    p. 16-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    氏名(ふりがな):岸 保行(きし・やすゆき)

    新潟大学日本酒学センター・副センター長/経済科学部・教授

    略歴:早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程修了.早稲田大学助手,東京大学経済学研究科ものづくり経営研究センター特任助教を経て,2012年より新潟大学経済学部・准教授に着任.2018年からは新潟大学日本酒学センター・副センター長を兼務.2025年4月から新潟大学経済科学部・教授.専門は酒蔵組織論,伝統産業の海外展開,伝統と革新.

     日本酒は,日本の食文化や歴史と密接に関わる伝統的醸造酒であり,米・水・微生物の相互作用によって成立する.製造工程における「並行複発酵」という独自の技術特性,自然環境との有機的な関係,さらに儀礼や年中行事との文化的な融合により,日本酒は単なる嗜好品にとどまらず,多角的アプローチから分析しうる研究対象としての意義を有している.

     このような日本酒の多面性に着目し,新潟大学では2017年,新潟県および新潟県酒造組合との三者による「日本酒学(Sakeology)」に係る連携協定を締結し,翌2018年には全学共同教育研究組織「日本酒学センター」が設置された.対象を日本酒に特化しつつ,農学・工学・医学・経済学・歴史学・法学・社会学など多分野の知見を総合することにより,新たな学問体系としての「日本酒学」の構築を目指している.

     本学問の特長は,「対象限定」でありながら「領域横断型」である点にある.すなわち,日本酒という一つの伝統産業を起点に,原料米の生産,発酵プロセスの制御,製造技術,物流とマーケティング,消費者行動,さらには健康への影響や文化的意味づけまでを射程に入れた学際的なアプローチがなされている.たとえば,酒米には栽培技術と品種改良に関する農学的知見が不可欠であり,製造工程では発酵学や微生物学が中心となる.さらに,完成品がどのように流通し,どのように受容されるかといった問いには,経済学・経営学や社会学の視点が有効である.

     センター内では,醸造系,社会・文化系,健康科学系の3つの研究ユニットを設け,文理の枠を越えた連携が進められている.また,教育面では,学部学生向けの座学(日本酒学A・B・C・D)が開講され,大学院においても修士課程・博士課程が整備されている.こうした体制により,研究と教育が相互に接続された学際的な学びの環境が整えられており,学生からも高い関心が寄せられている.加えて,国際的な連携にも注力しており,2019年にはフランス・ボルドー大学,2020年には米国・カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)と連携協定を締結した.ボルドー大学やUC Davisにおけるワイン学(Oenology)の先行事例を参照しつつ,日本酒を軸とした国際比較研究や共同サマースクールの実施が進められている.こうした国際協働を通じて,「日本酒学」の概念そのものをグローバルな枠組みで再定義し,日本酒の国際展開と学術的価値の向上を目指している.

     本発表では,新潟大学における「日本酒学」の設立経緯,研究教育体制,国際ネットワークとの連携,そして他の酒類研究との比較を通じて,この新しい学問領域が持つ意義と可能性について報告する.日本酒というローカルな文化資源を通じて,いかにして学術的・社会的インパクトを創出し得るのかという問いに対し,「日本酒学」はそのひとつの有効な学術的アプローチを提示している.

  • 二神 泰基
    p. 17-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    二神 泰基(ふたがみ たいき): 2003年九州大学農学部卒,2008年九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程修了,同年 海洋研究開発機構 博士研究員,2009年九州大学大学院農学研究院 寄附講座教員.その後,2014年より鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター 准教授.現在に至る.

     焼酎は,米,大麦,蕎麦,芋,黒糖といったさまざまな原料を用いて製造される伝統的蒸留酒である.焼酎の文化は微生物の増殖しやすい温暖な九州地方で発展してきたことから,腐造を防ぐための工夫がなされてきた.そのひとつは麹菌の種類である.麹菌の役割は,アミラーゼ等の酵素を生産して原料に含まれるデンプンを酵母が資化できるグルコースに分解することだが,焼酎造りに使用される黒麹菌(Aspergillus luchuensis)とその白色変異体である白麹菌(Aspergillus luchuensis mut. kawachii)はクエン酸を高分泌生産する性質も有している.クエン酸は醪のpHを下げて雑菌増殖を防ぐため,安定した焼酎製造が可能になる.私たちの研究グループは,このクエン産高生産能をはじめとする白麹菌に特徴的な性質について解析を行ってきた.以下に,いくつかの研究トピックスを紹介する.

    ・白麹菌が白色化した原因:白麹菌と黒麹菌の比較ゲノム解析により,白麹菌が白色化した原因遺伝子が判明した.白麹菌のIFO(NBRC)4308株では,黒色色素であるメラニンの合成に関わるpksP遺伝子に1塩基欠損により終止コドンが生じる変異が見つかった.また,それを修復することで白麹菌が黒色に戻ることが実証された.メラニン色素は紫外線などにより生じる酸化的ストレスへの耐性に関わっており,黒色化した白麹菌は紫外線や過酸化水素などへの耐性が向上した.

    ・白麹菌がクエン酸を高生産できる理由:麹菌のクエン酸生産能に,クエン酸排出輸送体の発現レベルが重要であることが明らかになった.白麹菌においてクエン酸排出輸送体をコードするcexA遺伝子を破壊するとクエン酸生産がわずか数%にまで低下し,その一方で,cexA遺伝子を過剰発現させるとさらにクエン酸生産量が増えた.また,黄麹菌(Aspergillus oryzae)に白麹菌に由来するcexA遺伝子を導入し,α-アミラーゼ遺伝子のプロモーターにより強制的に高発現させると,白麹菌と同程度のクエン酸生産能を獲得した.

    ・白麹菌のα-アミラーゼ:白麹菌はクエン酸を高分泌することで周囲のpHを低下させる.そのため,非耐酸性のα-アミラーゼ(AmyA)に加えて,耐酸性のα-アミラーゼ(AsaA)も生産することが知られている.白麹菌 IFO 4308株のゲノム解析の結果,AmyAとAsaAの他にも,α-アミラーゼ(AmyB)をコードすると推定される遺伝子が存在することが明らかになった.AmyAとAsaAは分泌型酵素だが,このAmyBはGPIアンカー型の膜タンパク質である可能性が示唆された.

    ・白麹菌のβ-キシロシダーゼ:白麹菌IFO 4308株と黒麹菌RIB2604株の比較ゲノム解析により,白麹菌 IFO 4308株ではβ-キシロシダーゼ(XylA)をコードする遺伝子に変異があり,機能していないことが明らかになった.β-キシロシダーゼはキシロオリゴ糖を分解してキシロースを生成する酵素である.また,焼酎製造ではキシロースは香気成分であるフルフラールの前駆物質として重要である.解析の結果,白麹菌IFO 4308株ではxylA遺伝子が機能しないため,醪中のキシロース濃度が低下することが明らかになった。

  • 塚原 正俊
    p. 18-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    塚原正俊(つかはらまさとし) 株式会社バイオジェット代表取締役/琉球大学研究推進機構特命教授

    略歴:1991年千葉大学生物学科卒,1993年広島大学理学研究科動物学専攻修了,同年(財)神奈川科学技術アカデミー生態シグナル伝達プロジェクト研究員, 1998年明治乳業(株)研究員,2004年(株)トロピカルテクノセンター研究員,2011年(株)バイオジェット創業,2015年農林水産省産学連携コーディネーター(兼務),2022年琉球大学研究推進機構特命教授(兼務),2023年博士(バイオサイエンス)取得(奈良先端科学技術大学院大学)

     泡盛は,約600年の歴史を持つ沖縄の代表的な蒸留酒である。一方,第二次世界大戦の影響などから泡盛の商業醸造に使える微生物株は限られており,酒質の多様化技術の開発が課題となっている.本研究では,泡盛醸造に関わる微生物の基盤・応用研究を進め,新たな風味の泡盛の商品化に繋げた.

    1. 既存泡盛酵母101株の育種による香味向上

     泡盛醸造向けに広く頒布されている唯一の酵母101株は,高いエタノール生産性など優れた形質を持つ.そこで,101株の全ゲノム解析による詳細な系統解析とともに,101株を親株として泡盛で好まれる香味成分の一つ酢酸イソアミルの生産性向上を試みた.その結果,ロイシン合成経路に関わるIPMS酵素が変異した酢酸イソアミル高生産株18-T55株を得た.実機醸造の結果,18-T55株は親株の特性を維持しつつ酢酸イソアミル含量が有意に増加し,官能評価でも香味性が向上していることが示された.18-T55株を用いた泡盛として,新里酒造(株)より「かりゆし30度」を商品化した.

    2. 新規野生酵母の取得と育種

     泡盛の酒質多様化を目指し,沖縄の自然界から新たにS. cerevisiae HC02-5-2株(ハイビスカス由来)および35a14株(島バナナ由来)をそれぞれ分離した.詳細な系統解析の結果,HC02-5-2株はワイン酵母グループ,35a14株はどの産業酵母グループにも属さない株であることが分かった.また,両株ともに熟成香の1つであるバニリンの前駆体成分4-Vinylguaiacol(4-VG)の生産性が高いことを確認した.一方,これらの株は,酢酸イソアミル生産性がやや低いという課題があったことから育種株の取得を試み,それぞれを親株として酢酸イソアミルを高生産する株(T25株,BNNL80株)を取得するとともに,それぞれの株で酢酸イソアミル高生産の原因となるIPMS酵素の変異点を明らかにした.さらに,それぞれの酵母を用いた泡盛として,(有)神村酒造より「尚KAMIMUA 40度」,および(有)比嘉酒造より「ZANPA 島バナナ酵母 25度」を商品化した.

    3.黒麹菌・乳酸菌の機能解析と応用

     泡盛醸造に用いられる黒麹菌 Aspergillus luchuensis の系統関係を全ゲノム情報を用いて詳細に解析した結果,主要な2グループ(AおよびSK)に分類できることなど,黒麹菌の種内系統関係の詳細が明らかとなった.これらの結果を応用して,泡盛醸造に用いられている黒麹菌株(アワモリ株,サイトイ株)と系統的に大きく離れた株を選定し「琉古株」と命名した.当該株を用いた新たな風味の泡盛として,「琉球大学の泡盛II」を(有)神村酒造より商品化した.

     泡盛もろみの乳酸菌についても泡盛風味への影響が考えられたことから,泡盛もろみから乳酸菌を分離し,フェルラ酸からバニリン前駆体(4-VG)への変換能を持つLactococcus lactis,ジヒドロフェルラ酸(DFA)への変換能を持つLactiplantibacillus plantarumを見出した.これらの結果は,もろみ中の乳酸菌が泡盛の風味形成に重要な影響を与えることを初めて科学的に示した成果である.

  • 丸山 潤一
    p. 19-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】氏名(ふりがな):丸山 潤一(まるやま じゅんいち)

    東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻・教授

    略歴:1996年東京大学農学部農芸化学科卒業,2001年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了,博士(農学)学位取得.2001年より東京大学大学院農学生命科学研究科研究員,2006年助教,この間2010年ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン客員研究員.2016年より東京大学農学生命科学研究科特任准教授,2021年特任教授,2025年より教授.

     麹菌は日本の伝統的醸造産業に使用されている微生物であり,2024年にユネスコ無形文化遺産に登録された『伝統的酒造り』においてその重要性が再認識された.また,麹菌は酵素をはじめ異種生物に由来するタンパク質や天然物の生産にも利用され,最近は麹菌の菌体そのものを食用とするタンパク質源としても注目されている.

     麹菌を対象とする研究は,2005年に初めて全ゲノム配列が解読され,12,000を超える遺伝子の存在が明らかになったのを機に大きく進展した.高効率な遺伝子操作を可能にする技術が開発されたことにより,多くの遺伝子を対象とした機能解析とともに機能開発研究が盛んに行われてきた.その一例ではあるが,演者らは麹菌の細胞内オルガネラにおける遺伝子の機能解析を進めたなかで,ビタミンの一種であるビオチンの生合成にペルオキシソームが関与することを世界で初めて発見した.その発見がきっかけとなり,麹菌が生産するビタミンが重要な役割をもつ甘酒の開発を着想し,お酒の神様と称される坂口謹一郎名誉教授が戦中までに収集した麹菌株を使用した甘酒「博士の昔こうじ甘酒」として発売した.

     一方,先に述べたような麹菌の遺伝子操作は,最初に全ゲノム配列が解読された株であり,醸造には用いられていない野生株であるRIB40株で集中的に行われてきた.実際,麹菌には日本酒・醤油・味噌などそれぞれの用途に適した多種多様な実用株が存在し,これら実用株に対する遺伝子操作は極めて効率が低く困難であった.演者らはゲノム編集技術CRISPR/Cas9システムを利用し,麹菌実用株における遺伝子操作の効率を飛躍的に向上したのみならず,多重遺伝子改変も可能にした.そして,麹菌の代謝の大規模改変により代謝生産能力の大幅な向上に成功したことから,ゲノム編集による多重遺伝子改変技術が麹菌の潜在能力を大きく引き出す機能開発に有効であることを示した.

     近年は次世代シーケンス技術の発展にともない,多数の麹菌実用株のゲノム配列の解読が報告されてきている.このような情報を比較すると麹菌の株どうしの遺伝子の違いを見いだすことができるが,それだけでなくゲノム編集技術を利用した遺伝子操作により,それぞれの用途に特化してきた麹菌実用株の多様な特性と遺伝子機能の関係を解明することが可能になっている.さらには,産業的に優れた性質をもつ実用株を対象にして効率的で自在な遺伝子改変を行うことで,真の意味での産業利用を志向した麹菌の育種開発が可能になると期待される.

     麹菌について我が国の醸造産業で長年にわたり利用され続けてきた背景に加えて,新しい分野への利用展開,さらには海外での麹菌活用の関心が高まりつつある.そして,伝統的知識と先端技術の融合により麹菌のもつ能力が最大限に引き出されることで,新たな食産業・食文化が創造されていくことが期待される.

シンポジウムA4: おいしさを視る-量子ビームと先端科学の共創- (日本放射光学会・日本中性子科学会・日本中間子科学会後援)
  • 本田 孝志
    p. 20-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    氏名(ふりがな):本田 孝志(ほんだ たかし)略歴:2014年 大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻 博士後期課程を修了、同年 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所放射光科学第二研究系に博士研究員として入構.2015年 同研究所中性子科学研究系に助教として異動し、担当ビームライン装置副責任者を経て2022年よりビームライン装置責任者.

    我が国,日本はSPring-8やNanoTerasu,J-PARCといった量子ビーム大型施設を有し,放射光X線,中性子,ミュオン,陽電子といった量子ビーム実験が可能な世界的に見ても稀有な環境である.近年は,学術分野において量子ビーム利用が学生にも多く取り入れられるようになっただけでなく,相補的に利用するマルチプローブ研究も若手研究者を始めとし定着してきた[1-4].そのため,量子ビーム間あるいは施設間の情報共有の場が必要不可欠となってきているが,徐々に構築し始められてきたのが現状である.学術分野の新規開拓や測定技術の革新において,量子ビーム研究の情報共有の場はその一翼を担う.個々のサイエンス分野では,利用する量子ビームの情報は入るが他の量子ビームの現状・将来展望は入手しづらく,新たなプローブを自身の研究に導入するには自助努力が不可欠である.実験室系のプローブであれば比較的導入しやすいが,大型施設ともなると敷居が高いのは言うまでもない.最近では,実験室系だけでなく大型施設を横断的に利用したマルチモーダル研究が,多角的な視点で研究・解析・評価できることから注目されてきている.また,若手が中心となって量子ビームが一堂に会しサイエンスベースで議論する場を形成し始めており[5,6],学会間においても連携の動きが出始めている. 量子ビーム実験はそのビームの特性によって得手不得手があり,典型例としては従来の中性子実験では放射光X線に比べて大量の試料(gオーダー)が必要といった試料量が挙げられるが,J-PARCにおける高強度ビームの実現により物質・生命科学実験施設(MLF)ではmgオーダーとなり固定観念が変わりつつある.本講演では大型施設における量子ビーム・相補利用に関する紹介および現状を含めた話題を提供する.

    参考文献

    [1] J. S. White, T. Honda et al., Phys. Rev. B 94, 024439 (2016).

    [2] M. Hiraishi et al., Nature Physics 10, 300 (2014).

    [3] J. Yamaura et al., Chem. Commun. 56, 1385 (2020).

    [4] 本田孝志, 放射光 33, 125 (2020).

    [5] 本田孝志, 藤田全基,波紋 31, 42 (2021).

  • 三木 宏美
    p. 21-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    氏名(ふりがな):三木宏美(みきひろみ)略歴:2016年 日本大学歯学部歯学科卒業,学士(歯学).日本大学歯学部付属歯科病院総合診療科研修歯科医を経て2023年 総合研究大学院大学高エネルギー加速器科学研究科物質構造科学専攻修了,博士(学術).その後,日本女子大学家政学部食物学科助手,高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所量子ビーム連携研究センター博士研究員を経て2024年より特別助教.

     我が国の高齢化率は2024年現在29.3%であり,過去最高となっている.また世界の国や地域と比較しても最も高い.加齢に伴い摂食嚥下障害を有する人口も増加傾向にある.在宅医療を推進する施策を受け,食事に困難を抱えていても自宅で生活する人もまた増えてきている.病院や施設では,専門のスタッフが日々の食事の準備をしてくれるが,自宅では自分あるいは介護者が準備をしなければならず,食べやすい食事を準備することは大きな負担となっている.そのため,あらかじめ食べやすく飲み込みやすく調整された市販の嚥下食,介護食に対する需要が高まってきている.この傾向は世界的なものである.日本では多くの企業が嚥下食市場に参入しており,スーパーマーケットやドラッグストアなどの身近な小売店で多種多様な調理済みの嚥下食,介護食を購入することが可能である.2023年度の日本国内の市販介護食品の市場規模はおよそ2000億円で市場の拡大傾向が続いている.日本における嚥下食,介護食の特徴としては,特別用途食品,嚥下調整食学会分類,ユニバーサルデザインフードなど,市販食品あるいは病院での調理といった目的に応じて様々なタイプの基準が制定されていることである. 

     嚥下食のような,これまでにない新たな形態や特性を持つ食品の研究開発にあたっては,食品の構造を分析することが重要となる.食品の構造やテクスチャーは口当たりや舌触り,のどごしといった食感だけでなく,飲み込みやすさや咀嚼嚥下のプロセスと関連している.また,食品の構造は微量栄養素に影響を与え,ある種の食感は食べ過ぎや不健康な食習慣につながる可能性があるとされる.

     構造の分析にあたっては試料の画像を取得し可視化することが肝要であるものの,走査電子顕微鏡や共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて試料の画像化を行う場合には分割や凍結,染色といった侵襲的な前処置を行わなければならず,非破壊的に食品の画像を取得することは困難である.このような欠点を克服する新しい評価方法の一つとして,高分子や食品のような軽元素からなる試料の内部構造を非破壊的に画像化できる手法であるX線位相コントラストイメージング法が近年導入されてきている.X線位相コントラストイメージング法とは,X線が試料を透過する際,X線の位相がわずかにずれることを利用して画像を形成する手法である.一方,医学,産業界で用いられているX線発生装置による撮影では,一般的に吸収コントラストを用いて試料の画像を取得する.従って食品のように吸収係数が小さい,すなわち原子番号が小さい物質からなる試料の可視化は困難である.

     今回,食品の内部構造を非破壊で観察可能な手法であるX線位相コントラストイメージング法ならびに嚥下食を含む市販の米飯製品を用いた実際の測定結果を紹介する.また,テクスチャープロファイルアナリシスの結果との比較および国内外での嚥下食の分類基準についても合わせて紹介する.

  • 佐藤 朗
    p. 22-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    大阪大学大学院理学研究科 物理学専攻 助教 略歴:1996 年東京理科大学理工学部物理学科卒,1998 年同大学大学院理工学研究科博士前期課程修了,2001年同大学大学院理工学研究科博士後期課程修了 博士号(理学)取得,2001年4月より大阪大学大学院理学研究科附属原子核実験施設 研究機関研究員,2003年 同大学大学院理学研究科 助手、後に助教.大阪大学ミューオン施設MuSICの責任者を務める.専門は素粒子実験物理学,ミューオン応用利用.

    「宇宙から降り注ぐミューオンでピラミッド内部が明らかに」,「ミューオンによる緒方洪庵“開かずの薬瓶”内薬剤の同定」,「はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの石の炭素量をミューオンで測定」など,近年,「ミューオン」が新聞やニュースでも取り上げられる機会が増えており,ミューオンを用いた非破壊分析技術への関心が高まっている.ミューオンは,宇宙を構成する基本粒子(素粒子)の一つで,電子と同じレプトンに属する.電子の約207倍の質量を持ち,正ミューオン(μ⁺)および負ミューオン(μ⁻)の二種類が存在する.宇宙線起源の自然ミューオンや加速器生成ミューオンを利用することで,従来のX線・電子線・中性子線では難しかった深部観察や高感度分析が可能となる.本講演では,代表的なミューオン利用分析技術の原理と,各技術が開拓した多彩な応用例について概説する.

    1.ミューオグラフィおよびミューオン透視・トモグラフィ:宇宙線ミューオンが物体を透過する際の減衰率(透過法)や散乱角(散乱法)を測定し,内部の密度分布を画像化する手法である.大規模構造物(火山,原子炉,ピラミッド,貨物コンテナなど)でも遠隔かつ非侵襲に空洞や高密度領域を検出できる点が特徴である.

    2.ミューオンスピン分光(μSR):加速器で生成したスピン偏極ミューオン(主にμ⁺)を試料に導入し,そのスピン歳差運動・緩和挙動を時間分解測定する分光技術である.固体中の微視的磁場分布や電子相互作用を解析でき,強磁性・超伝導・スピン液体などの物性研究に広く応用されている.また,ミューオニウム(Mu=μ⁺+e⁻)は軽い水素同位体として化学反応性や拡散挙動の解析にも利用され,化学・生命科学分野での分子動態解析にも貢献している.

    3.負ミューオンによる元素分析:負ミューオン(μ⁻)が物質中で停止すると「ミューオン原子」を形成し,内殻への遷移に伴って特性ミューオンX線を放出する.これらのX線は元素固有のエネルギーを持ち,電子起因特性X線に比べ約207倍高エネルギーであるため,深部からの検出が可能となる.さらに,入射ミューオンのエネルギー制御により,任意深さでのプロファイリング分析や局所元素定量が非破壊的に実施できる.

    4.ミューオン透過型顕微鏡:加速器生成ミューオンビームを試料に透過させ,内部透視像を取得する新規顕微鏡技術である.ミューオンの高い透過力により,電子顕微鏡では困難な数十μm厚の試料内部まで観察できる可能性を秘めている.将来的には,生細胞や複合材料の深部構造を非破壊で可視化するプラットフォームとしての応用が期待される.

    このように,ミューオンは高透過性と独自の量子力学的性質を活かし,従来技術では実現困難であった様々な分析を可能にしている.物性,化学,生命科学,考古学などの学術分野のみならず,原子力施設の安全監視,インフラ診断分野への展開も視野に入れて研究が進展中である.今後は装置の小型化・高性能化,データ処理技術の高度化,さらにはミューオン源の普及によって,より多くの現場でミューオン分析技術が実用化されることが期待されている.

  • 関山 恭代
    p. 23-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    氏名(ふりがな):関山 恭代(せきやま やすよ)略歴:1995年明治大学農学部卒,1996年-2001年東京工業大学大学院理工学研究科,2001年-2005年理化学研究所抗生物質研究室,2002年東京工業大学にて理学博士号取得,2005-2010年理化学研究所植物科研究センター,2010年独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所入所,2021年より現職(農研機構 基盤技術研究本部高度分析研究センター 上級研究員).

     農産物や食品の品質,特性を評価するために,様々な化学的・物理的な分析法が用いられる.食品の分析と解釈を難しくする要因として,機器分析の立場からは次の2つが考えられる.ひとつ目は,多数の成分の複合的な効果によりそれぞれの食品に特有の味や風味が発揮されること,ふたつ目は,性状の多様性と構造の不均一性により,やはりそれぞれの食品に特有の食感が生み出されることである.改良・制御したい農産物や食品の特性をどの様に検出するかで視えるものは異なってくる.核磁気共鳴法(NMR)は,一般的には0.5~20テスラほどの磁場中に置いたサンプルに数十~数百メガヘルツの電磁波を照射することで,分子の化学構造や運動性,分子間相互作用などを明らかにする技術である.NMRは有機化学,創薬科学,材料科学など多くの研究分野で活用されており,これらに比べると食品分析への活用例は多くはないが,液体からゲル,固体まで幅広い性状のサンプルが計測可能であり,得られる信号の定量性も高いことから,食品に関わる様々な技術開発において指標となるデータを提供できる可能性がある.本講演では,我々が取り組んできたNMRメタボロミクス(作物の代謝物や食品成分をノンターゲットで一斉分析する技術)および磁気共鳴画像法(MRI,NMRイメージング,X線CTに対しNMRCTとも呼ばれることもある)による農産物・食品の分析例を紹介する.

     NMRメタボロミクスでは,サンプル中の多数の成分を一斉に検出・定量する.この技術は主に創薬マーカーの探索や病態マーカーの探索に用いられてきたが,農産物や食品の品質評価にも有効である.代謝プロファイルをフィンガープリントとして利用したり,有効なマーカーが同定できればNMR装置を使わなくても酵素キットなどによる簡易法の組み合わせで定量が可能になるため,活用場面が広がる.

     MRIは,磁場強度に勾配をかけることでNMR信号に空間分解能をもたせ,非破壊的にサンプル内部の断層画像を得る技術である.MRIは医療診断において実用化されているが,食品研究においても活用されている.主には水と油の分布や運動性の違いをマッピングして画像コントラストを得ることで,組織構造や物性の情報を得て食品の評価を行う事例が多い.非破壊計測であるという利点を生かし,装置の中にサンプルを入れたまま一定時間おきに撮像することで,保存中の食品の水や油の分布の変化をリアルタイムで観察することも可能である.近年では,装置の高感度化により水や油だけではなく糖やアミノ酸,有機酸などの局在を見ることも可能になってきた.

     一方で,NMRやMRIで得られる情報には制限もあり,例えば検出できる核種,検出感度,試料サイズ,空間分解能,時間分解能など,測定原理や技術面での限界がある.医用画像分野では,複数のモダリティの組み合わせにより患者体内の様態を多角的に計測する試みがなされている.本講演では,NMRによる食品分析の実情も共有することで,農産物・食品を多角的に可視化するためのアイデア,連携の可能性について今後議論していくための呼び水としたい.

シンポジウムB1: 地域食品研究のエクセレンス (全国食品関係試験研究場所長会・農研機構食品研究部門・産官学連携委員会共催)
  • 平野 高広
    p. 24-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     平野 高広(ひらの たかひろ)(地独)岩手県工業技術センター 醸造技術部 部長

     略歴:1996年山梨大学大学院工学研究科博士前期課程修了,1998年岩手県工業技術センター入庁.2000年山梨大学大学院工学研究科博士後期課程修了.2022年より現職.

    研究分野:ワイン醸造等

     近年、果実の高付加価値化として国産ブドウを原料とした日本ワインが注目され、国内ワイナリーが増えるとともに主要ワイン産地等では地理的表示(GI)取得が進んでいる。岩手県の醸造用ブドウ生産量及び日本ワイン製成量は全国5~6位と比較的多く、ワイナリーは平成25年の5場から令和6年には19場まで増えた。そのため個性化・差別化ができる産地特性を反映させた特徴あるワインが求められている。岩手県は国内でも冷涼な地域であるが、本州一の県土を誇り、醸造用ブドウ産地の気象条件は地域によって大きく異なる。このことから、県内産地に適するブドウ品種及び産地特性の解明並びに全国の産地と比較した岩手県の産地特性の解明を目的に研究に取り組んだ。

     県内に初導入されたブドウ品種等を原料にワインを試作し、成分分析・官能評価にて醸造適性や産地特性を評価した。その結果、①赤ワイン用品種アルモノワールや白ワイン用品種モンドブリエなどが高い醸造適性を持ち県内産地によって香味等が異なること、②県北沿岸の久慈地域産山ブドウワインが系統によって色香味が異なること、③沿岸被災地の陸前高田市産ではリースリング・リオン、アルバリーニョ等が高い醸造適性を持つことを明らかにした。また、県産ブドウの特性を活かす取組として④県産山ブドウワインの特徴香気成分が煮リンゴ様の甘い香りを持つダマセノンであることを明らかにするとともに、⑤県産ワインに適したマロラクティック発酵乳酸菌を選抜した。さらに、⑥全国各地のマスカット・ベーリーAを原料にワインを醸造・評価した結果、岩手県内産は全国と比べて赤色が濃く酸が多く特徴香気成分の一つであるフラネオールが多い等の産地特性を持つことを解明した1)

     県産ブドウの醸造試験結果を技術移転した結果、県内ワイナリーから様々なワインの商品化に至っている。特に赤ワイン用品種アルモノワール、白ワイン用品種モンドブリエは品種となる前の系統試験から実施し、品種登録後は全国でも早い時期に、それぞれ陸前高田市、紫波町に普及し、㈲神田葡萄園から赤・ロゼ、㈱紫波フルーツパークから白ワインが商品化された。また、陸前高田市ではリースリング・リオンおよびアルバリーニョのワインも商品化に至った。山ブドウについては、目的とする商品の特徴毎に使用する系統や醸造方法を変える等、㈱のだむら涼海の丘ワイナリー等の商品改善に繋げた。マスカット・ベーリーAワインの産地特性の解明では全国と岩手県内産地の特徴の違いが明らかになり、産地特性を活かした商品開発やGI取得などの県産ワインPRへの貢献が期待される。

    1)「日本各地のマスカット・ベーリーAを用いた試験醸造ワインの特徴」,日本醸造協会誌、Vol.120、No.2、101-114 (2025)

  • 重田 有仁
    p. 25-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     重田 有仁(しげた ゆうじん):広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター 食品加工研究部 部長

     略歴:1999年 東京農工大学大学院博士前期課程修了,同年広島県立食品工業技術センター採用,2006年 広島大学大学院博士後期課程修了,2024年より現職.

     研究分野:食品加工,微生物制御

     凍結含浸法は,凍結処理と減圧による含浸処理により食材内に軟化酵素等を急速導入する技術で,食材の外観を残しつつも咀嚼困難者が喫食可能な軟らかい食品の製造が可能である.一方,凍結含浸介護食品は,極めて軟らかい故に流通中に型崩れしやすいため,冷凍食品として販売されている.そのため,冷凍に係る製造,輸送,在庫等の各コストや販路の制限,賞味期限が課題となっていた.また,東日本大震災の停電時に介護施設において冷凍食品の保存が不可能となった事例があり,常温保存が可能な商品が求められていた.

     そこで,本研究では,常温での長期保存が可能で輸送耐性があり,防災用備蓄介護食としても利用できるレトルト介護食の製造技術を開発し,商品化に至った.

     凍結含浸技術とレトルト殺菌処理を組み合わせるため,食材ごとに適切な酵素選定,酵素処理条件並びに加熱殺菌した後の最終的な軟化度情報を蓄積し,レトルト加熱を加味した適切な酵素軟化条件を決定した.特に,肉類については加熱により収縮・硬化するため,保水材等の導入によりレトルト後も軟らかさを維持する製法を開発した.

     また,流通中の型崩れを防止するため,容器内の調味液の粘度を高めることで輸送耐性を付与する技術を開発した.併せて,レトルト加熱殺菌における伝熱阻害を低減すること可能で,介護食として適切な粘度(誤嚥防止),食材からの離水防止を両立させる増粘剤の配合・添加条件を決定した.

     流通時の型崩れ防止効果を評価するため,農研機構食品研究部門と共同で輸送時の振動特性評価,輸送シミュレーション,トラック輸送の実証試験を実施し,缶詰容器を用いた試料については輸送時の型崩れが防止可能なことを確認した.筑前煮やカレーなど各種の食材・メニューに対応したレシピ・製法を開発し,特許許諾企業に技術移転を図った.3年間の保存試験を実施したところ,保存後も食材の軟らかさ(5×104 N/m2:歯茎でつぶせる程度)が維持され,型崩れせず,調味液の粘度低下も生じないことが確認できた.

     本技術は特許権利化し,現在6社に特許許諾している.缶詰形状の商品が販売されており,嚥下困難者のQOL向上の寄与に加え,防災備蓄食としても活用されている.

     凍結含浸技術は現在も技術開発を継続しており,増粘剤の存在下で酵素や調味料を減圧含浸処理するレトルトパウチ詰め向けの簡易製造法,高温の食材を用いることで含浸効率を高めた高温急速法,減圧処理することなく,食材と含浸溶液の温度差を利用して含浸する常圧含浸法など開発している.また,やわらか食のみならず,一般食の美味しさや栄養強化に向けた技術開発にも取り組んでいるところである.   

    ※本成果は,農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業を活⽤して得られたものです.

  • 永瀬 光俊
    p. 26-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     永瀬 光俊(ながせ みつとし):島根県産業技術センター 企画調整スタッフ 主席研究員

     略歴: 1991年広島大学大学院工学研究科博士課程前期修了,同年島根県に入庁(工業技術センター,現産業技術センター).2011年博士(生命システム科学)取得,2023年より現職.

     ブランド価値とは、消費者や市場における信頼性、好感度、認知度、競争力などの総合的評価を指す。しかし、農林水産物・加工食品は、工業製品と異なり、安全性、健康への配慮、表示の信頼性、季節性、地域性(当該地域の自然、歴史、伝統に根ざす「地域らしさ」)が特に重要な要素となる。これにより、農林水産物・加工食品のブランド価値は複雑であり、その価値を高めるには様々な取り組みが必要といえる。1990年代前半以降、「地域ブランド」の概念が広まり、製品名とともに地域名もブランドとして認識されるようになった。この流れを受け、島根県では、2002年に「しまねブランド推進室」(その後課に昇格)を設置し、県産品の販路と消費の拡大を進めている。産業技術センターでも、県内企業の技術支援を通じた産業振興を目指し、県内の農林水産物・加工食品を地域のブランド価値として捉え、付加価値を高める技術の開発や、新商品開発に関する研究を続けてきた。その中で、今回は県魚であるトビウオの鑑定技術に関する研究および2018年から5年間行われた生物機能応用技術開発プロジェクトについて紹介する。

     島根県の特産品「あご野焼」は、トビウオを主原料とするかまぼこの一種で、2000年以降、ふるさと認証食品(Eマーク)制度によって品質が保証されている。しかし、外見からトビウオの使用が判断できないため、鑑定技術を開発した。研究の手順としては、主要なトビウオであるホソトビウオのミトコンドリア全塩基配列の決定を行い、それを元に、まずはPCR-RFLP法を用いたトビウオ類の定性的検出を試みた。次のステップとして, 画像解析法とリアルタイムPCR法という二種類の方法で定量的検出を試みた。そして、トビウオ類に関して形態的な特徴がなくても、また加熱等の加工がされていても、定性的、定量的鑑定が可能になった. すなわち、あご野焼Eマーク基準の分析法を確立することができた。また、同時にトビウオ類を用いた製品全般に関しても鑑定が可能となった。

     1995年から県内の農林水産資源を地域独自の素材ととらえ、その生理活性機能に着目することにより、付加価値を高めた新商品開発あるいは付加価値を高める技術開発に関する研究が開始された。当初は一般研究課題であったが、 1990年代に国内における健康食品市場は右肩上がりの急成長を続けたことから、県内の産業振興が期待できる重要課題としてプロジェクト研究に格上げされ、健康食品産業化プロジェクト(2003-2007)、機能性食品産業化プロジェクト(2008-2012)、高齢化社会対応の機能性素材開発プロジェクト(2013-2017)、生物機能応用技術開発プロジェクト(2018-2023)と続き、これまで様々な課題について20 年以上にわたり研究を重ねてきた。2018 年からの生物機能応用技術開発プロジェクトでは、競争力・付加価値の高い美容健康関連製品の開発がメインテーマとなり、1)生物機能(発酵・熟成技術)を用いた新規素材の開発・製品の開発支援、2)販路開拓(機能性表示・栄養機能食品開発及び届出支援)を行った。キクバヤマボクチの抗炎症作用やアケビの抗肥満効果を確認し、特許を取得。日本酒の美肌成分であるαEGや葛の地上部を用いた新製品開発も進行中で、津田かぶ由来の乳酸菌を利用したD アミノ酸を含むパウダー開発を行った。機能性表示食品の市場参入支援や健康博覧会への出展も行われ、新商品の開発が進められた。これらの取り組みにより、島根県産品のブランド価値と県内食品企業への支援が強化された。

  • 佐合 徹
    p. 27-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     佐合 徹(さごう とおる)

     略歴:2002年慶應義塾大学大学院理工学研究科修了,同年明治乳業株式会社(現:(株)明治)食品開発研究所勤務,2008年三重県入庁,2010年より現職.三重県工業研究所 食と医薬品研究課 主幹研究員兼課長代理.主に,食品加工に関する研究に従事.

     ファインバブルとは,液体の中に100マイクロメートル未満の径で存在する気泡群である.そのうち,1マイクロメートル未満のものをウルトラファインバブル,1以上100マイクロメートル未満のものをマイクロバブルと区別している.ファインバブルは,泡表面がマイナスに帯電していること,数か月に渡って水中で残存できることおよび泡の中に空気だけでなく不活性ガスなど様々な気体を含むことができることが特徴である.

     食品分野では,ファインバブルを用いることで,酸化防止,物性改良,保存性向上,分散安定性向上,抽出効率増加,劣化臭の低減,香りの付与,風味改善,殺菌効果増大が期待できる.また,乳化剤,安定剤といった食品添加物の使用量を低減すること,品質の保持期間が延長されること等により,SDGsに向けたものづくり,カーボンニュートラル社会に貢献する可能性がある.そこで本研究では,ファインバブル技術をアイスクリーム等の加工食品へ利用することを検討した.

     試料として,高脂肪のアイスクリームミックスを用いた.動的粘弾性解析装置を利用し,少量でのプロセス評価を行った.蒸留水を用いた時と比べて,窒素ウルトラファインバブル水を用いた時は,粘度の上昇開始時間が遅く,凍結温度となる-9.8 ℃を境にして温度が上昇する時間も遅いことが分かった.さらに,脂肪凝集率や官能評価を行った.アイスクリーム製造時に,ウルトラファインバブル水を用いて製造中の粘度変化を抑制し,脂肪凝集率を低下させ,アイスクリームの後味が残らないことを確認した.一方で,アイスクリームミックスをファインバブル処理することで,アイスクリームの品質に影響を与える脂肪凝集率が,フリージングせず10 %増加させることができた.粘度上昇や脂肪凝集率の増加を確認し,ファインバブル技術により,アイスクリームの物性や風味を制御する方法を確立した.

     また,大豆飲料の製造時,ウルトラファインバブル水を利用すると,未処理品に比べて粘度が低下した.大豆飲料の青臭さの原因物質の一つとされるヘキサナールの濃度を比較したところ,未処理品に比べて低かった.豆腐にした時の硬さが低下した.一方で,大豆飲料をファインバブル処理すると,粘度低下と飲みやすさが向上した.本技術により製造された,大豆飲料は,食品添加物を用いず,飲みやすく,大豆の劣化臭が抑制されている.

     さらに,窒素ファインバブル処理したミカン果汁は,4週間後の果肉等の沈殿が少なく,分散性が良いことを確認した.ウルトラファインバブル水で希釈したレモン果汁は保存後の色彩変化が抑制できることを確認し,食用油脂をファインバブル処理すると,酸化劣化を抑制することを確認した.ウルトラファインバブル水を用いて緑茶の抽出を行うと,色の違いや成分の濃度に変化がみられることが分かった.

     これらの技術は,SDGs,カーボンニュートラルおよびフードテックに大きく関与しており,これからも製品・技術開発等を実施していく必要があると考え,引き続き取り組んでいきたい.

  • 松野 正幸
    p. 28-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     松野 正幸(まつの まさゆき):静岡県工業技術研究所 食品科 上席研究員

     略歴:2008年名古屋大学工学研究科博士前期課程修了,同年静岡県に入庁(工業技術研究所). 2015年から現所属.2025年静岡県立大学大学院にて、学位(食品栄養科学)を取得.

    研究分野:食品加工学、タンパク質科学.

     昨今、世界的なSDGsへの意識の高まりから、動物性タンパク質源に代わる植物性代替タンパク質食品の需要が高まっている。植物性タンパク質源として国内で最も広く普及している大豆は、そのタンパク質含有量の高さや加工用途の広さで注目を浴びている。静岡県においても県内メーカと県農林技術研究所が協力し、ヨーグルト様の発酵豆乳食品を開発・上市するなど、大豆の可能性を広げる取組が行われている。

     非加熱豆乳(生豆乳)を凍結融解すると、上清と沈殿に分離し、各層に異なるタンパク質が含まれるといったタンパク質の分画手法が先行研究で報告されている。それぞれの層を凝固させると、上清は滑らかな食感、沈殿は硬い食感を有する1)。この手法を活用した新たな食品の開発には、風味を調整した上で凍結融解した場合の分画能に関する知見が必要になる。また豆乳の製品化においては、加工時の加熱濃縮により凝集・固化しやすいという課題があり、これを制御できる技術開発が求められている。本研究では、豆乳加工技術の向上を目指し、生豆乳の凍結融解による分画現象に与える添加物の影響及び生豆乳濃縮時の凝集・固化現象におけるアミノ酸添加の影響について研究を行った。

     凍結融解については、生豆乳のpHや食塩添加濃度の条件を検討し、分画の境界条件を明らかにした。またpHや食塩添加した生豆乳の物性を評価した結果、pHと食塩濃度が異なる条件であっても、ゼータ電位が一定範囲内にあると分画が可能であることが示された。この結果から、生豆乳タンパク質の分画可能領域をゼータ電位というマクロな指標で予測できることが明らかとなり、凍結融解を経ずとも生豆乳の分画能を推定できる技術を開発した2)

     アミノ酸を添加した生豆乳の濃縮については、タンパク質の変性抑制効果が報告されているアルギニンを、生豆乳に添加して濃縮したところ、無添加の生豆乳や他のアミノ酸を添加した生豆乳を濃縮した場合に比べて、粘度上昇を抑制できることを見出した。

     本研究で得られた技術及び知見は、分画した上清を使ったプリン様食品や、沈殿を使ったウインナー様食品の開発及び豆乳の濃縮加工技術向上への応用が期待される。また、食品品質サポート社と静岡県農林技術研究所が共同開発した「浜名湖丸ごと発酵大豆グルト」(ヨーグルト様豆乳食品)をはじめ、静岡県内の企業が研究開発を行う豆乳関連食品について支援を行っている。

     最後に、本研究は静岡県立大学 下山田真 教授 及び 村上和弥 助教、実践女子大学 守田和弘 准教授と共同で実施した成果であり、この場を借りて感謝を申し上げる。

    1)守田和弘ら, 「凍結解凍処理による豆乳中7S・11Sグロブリンの簡易分画技術」, 日本食品科学工学会誌, 58, 8, 392-397 (2011).

    2)Masayuki Matsuno et al, "Effect of pH and salt concentration on freeze-thaw fractionation of soymilk protein, Journal of the Science of Food and Agriculture, 104, 7, 4363-4370, (2024)

シンポジウムB2: 生理活性を有する食品中匂い物質の分析とその興味深い機能特性研究
  • 飯島 陽子
    p. 29-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    飯島 陽子(いいじま ようこ) : 工学院大学先進工学部応用化学科教授

    略歴:1999年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了(博士(学術)),1999年4月よりお茶の水女子大学大学院助手,2001年1月よりアメリカ・ミシガン大学分子細胞発生生物学部博士研究員,2005年4月より公益財団法人かずさDNA研究所研究員,2010年4月より神奈川工科大学応用バイオ科学部栄養生命科学科准教授,教授を経て2021年4月より工学院大学先進工学部応用化学科教授(現在に至る)

     食品のもつ香りは,そのおいしさや嗜好性に最も関与する要素であり,香りの質は揮発性成分群の組成に基づく.近年,国の内外を問わず,食品の香りの質を機器分析,官能評価,嗅覚受容体発現パターンなどの異種データの紐づけによって解明しようとする研究アプローチ(フレーバーオミクス)が増えている.しかし食品の香りは,異なる特徴的な香気特性を持つ様々な成分群のミクスチャーからなり,さらに各香気成分の匂い閾値が異なるため,食品の機器分析データと官能との関係を明らかにするのは未だ難しい課題である.

     我々も以前の研究で,多サンプルの香りの異なるトマトジュースを用いて香気組成と官能評価データを同時取得解析し,それらの相関性を調べた(Iijima et al., Biosci.Biotech.Biochem., 80, 2401-2411, 2016).両者のデータパターンは類似していたため,官能評価用語と香気成分の関連性を期待したが,ある一定の情報は得られたものの,官能評価用語に寄与する成分として挙がってきた候補の中には,閾値や質を考慮すると疑わしい成分もあった.この際,データ取得のハイスループット性,再現性を重視し,HS-SPME(ヘッドスペースガス-固相マイクロ抽出)法を用いて香気抽出を行っていたが,得られた抽出物について,そもそも食品本来の香気が再現されていない,検出されない成分もあることが問題であり,フレーバーオミクスに耐えうる機器分析データは,その香気抽出物が「食品本来の香気特性を再現できているのか?」が最も重要であると考えた.

     食品本来の香気をよく再現するとして定評が高い香気抽出法として,有機溶媒抽出後SAFE(溶媒支援フレーバー蒸留)により分画して香気抽出物を得る手法が知られている(Engel et al., Eur. Food Res. Technol., 209, 237-241.1999, ここではLE-SAFEと呼ぶ).しかし,本手法はSAFE装置が特殊,高価であり,サンプルによっては溶媒抽出の際にエマルジョンが生じて前処理が必要であるなど,スループット性が低いという問題点がある.そこで我々は固相抽出素材として知られるFlex-Twister®(ゲステル社)を用いたSA-SBSE-RE(溶媒支援スターバー-溶媒逆抽出)法を取り入れた.サンプルには風味が多様で香気組成も複雑である醤油やみりん,味噌などの和風発酵調味料を対象にした.これらのサンプルは糖や脂質,メラノイジンなど不揮発性マトリクスを多く含み,LE-SAFE法でさえも前処理が難儀な食品サンプルであることが知られている.これらのサンプルに対してSA-SBSE-RE法で香気抽出液を得て官能評価を行ったところ,SAFE抽出液同等の香気特性を示していた(Iijima et al., J.Biosci.Bioeng., 137, 372-380, 2024).また,HS-SPME法,LE-SAFE法,SA-SBSE-RE法で得た香気抽出物をGC-MSで分析,比較したところ,SA-SBSE-RE法でもSAFE法による抽出物と同等の成分ピークが検出されることが分かった.サンプル量は,醤油で1ml,みりんで5ml,味噌で1gから抽出可能であった.また,これらの成分の中にはHS-SPME法では検出できなかった成分もあった.本抽出法がスループット性,データ再現性にも優れ,フレーバーオミクスのための香気分析に適していると判断し,現在研究を進めている.

  • 鈴木 萌人
    p. 30-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    鈴木萌人(すずきもえと) 所属:三井農林(株) R&D本部 基礎開発部 機能性開発室

    略歴:三重大学生物資源学部卒業.2020年 三井農林(株)入社.基礎開発部にて香気成分の分析および機能性研究に従事.

    茶はチャノキ(Camellia sinensis)から加工・製造される飲料であり,製法の違いにより緑茶,烏龍茶,紅茶などに分類される.茶に含まれる香気成分は740種類以上が存在し,多種多様な香気成分が複雑に組み合わさることで各種茶の特有の香りは生み出される.中でも紅茶は世界中で広く親しまれているが,香気成分の組成は生産地によって異なり,産地特有の香味を特徴づける要因となっている.紅茶の多様な香気特徴は,単に止渇や栄養摂取の機能以外にも,嗜好品として心理的な充足感をもたらす役割を果たしている.一方,紅茶の香気がもたらす生理機能については,これまで十分に解明されていない.本講演では,紅茶の香気成分であるhotrienolの生理的機能に関する筆者らの研究を紹介する.

     「紅茶のシャンパン」と称されるダージリン紅茶(以下,DT)は高品質な紅茶として知られ,特徴的なマスカテルフレーバーで人気を博している.筆者らは非RCTの臨床試験を行い,DTの香気を経鼻吸入した際の心理・生理的作用を検証した.その結果,心理的作用では抑うつ・不安感が低下し,生理的作用では脳血流低下,瞳孔縮瞳率の増加および末梢皮膚温の上昇が認められた.これらの結果から,DTの香気には中枢神経活動を鎮静化し,副交感神経活動を賦活化させる作用があることが示唆された.また,GCMS(SPME法)によりDTの香気成分を解析した結果,他の産地に比べhotrienolが多く含まれることを見出した.このhotrienolの生理作用を評価するため,紅茶飲用時と同様に,経口摂取によるレトロネーザル経路を介した嗅覚刺激の影響を検証した.DT一杯相当のhotrienol(0.03mg)を含有するタブレット錠を作製し,1日4錠(hotrienol 0.12mg)を2週間継続摂取した際の睡眠への影響を調査するため,睡眠に不満を感じている健常男女44名を対象としたランダム化二重盲検クロスオーバー試験により,主要評価項目:OSA睡眠調査票およびPSQI質問票,副次評価項目:活動量,唾液成分濃度(CgA, オキシトシン,S-IgA,コルチゾール)を測定した.解析適格基準を満たした33名について解析した結果,プラセボ群と比較し被験群では,因子Ⅱ(入眠と睡眠維持)が増加し,PSQI総合得点の減少が認められた.また,活動量データの解析では,睡眠変数のうち入眠潜時,離床潜時および中途覚醒時間が減少し,睡眠効率は増加した.一方,OSA因子Ⅰ(起床時睡眠),Ⅲ(夢見),Ⅳ(疲労回復),Ⅴ(睡眠時間),および睡眠変数の中途覚醒回数,総睡眠時間,姿勢変更回数では変化は認められなかった.これらの結果から,hotrienolの2週間の経口摂取は,睡眠の質を改善するのに役立つ可能性が示唆された.また,ストレスバイオマーカーへの影響も探索的に検証したところ,単回摂取では唾液中のs-IgAおよびオキシトシン濃度が増加し,2週間の長期摂取では高ストレス群(SCL 11-20点)においてコルチゾール濃度が低下した.以上のことから,hotrienolによる睡眠の質を改善する作用は,嗅覚刺激を介した中枢-自律神経系および内分泌系への生理的機能が関係していると考えられた.ただし,今回紹介した臨床研究は症例数が少なく,統計的多重性の限界から結果が限定的である.今後,臨床研究の報告が蓄積されることで,hotrienolの機能性についてさらなる解明が期待される.

  • 坂井 信之
    p. 31-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    坂井信之(さかいのぶゆき):東北大学大学院文学研究科心理学研究室教授,総合知インフォマティクス研究センターセンター長

    略歴:1998年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了,日本学術振興会特別研究員(広島修道大学),科学技術振興事業団科学技術特別研究員(産業技術総合研究所),神戸松蔭女子学院短期大学・大学・大学院などを経て,2011年10月より東北大学大学院文学研究科准教授,2017年4月より同教授

    我々は食品を食べているときに生じる感覚を「味」と呼ぶ.この「味」は味覚に帰属されやすいが,それは間違いであることにはあまり気づかれない.例えばコロナ禍の折に,上気道感染等で匂いの感覚が失われた時に,食品が味気なく感じられた経験を通じて,実感できたという方もおられるかもしれない.一方,味覚の場合には仮に失われても,あまり大きな「味」の変化は感じられないことが多い. 今回のシンポジウムでは,この現象について,どのような形で嗅覚と味覚が統合され,どのような形で食品の味が形成されるかについて,動物モデルとヒトの官能評価の2つの視点から議論する. 

     我々は,ラットが嗅覚刺激と味覚刺激の1〜5回の対提示により,容易に連合を形成し,例えば甘味と対提示された匂いのする水を好み,苦味と対提示された匂いのする水を嫌うことを見出した(Sakai and Yamamoto, 2001).次に,ラットに高濃度食塩水と匂いを対提示すると,ラットはその匂いのする水を避けるが,食塩欠乏状態になったときには,その匂いのする水を摂取するようになることを見い出した(Sakai and Imada, 2003).この結果は,ラットが匂いと塩味の間に連合を形成している,擬人的に表現すれば,「この匂いはしょっぱい」ということを学習できることを示唆している.

     ヒトにおいても同様に,香りと味を容易に連合することができ,甘味と対提示された香りは「甘く」感じられるし,酸味と対提示された香りは「酸っぱく」感じられることが報告されている(Stevenson et al., 1998).多くの先行研究などから,バニラやイチゴのような「甘い香り」は甘味を,レモンやグレープフルーツのような「酸っぱい香り」は酸味をそれぞれ増強させることが見出されている.我々は「甘い香り」を後鼻腔的(retronasally)に提示した時だけでなく,前鼻腔的(orthonasally)に提示した時も,同様に甘味を増強させることができることを報告した(Sakai et al., 2001).この結果は,我々の脳内で嗅覚情報と味覚情報が一次感覚野間で連合されていることを示唆する.この示唆は,ラットでは一次味覚野を破壊された動物は上記の味覚嗅覚連合を獲得できなくなること(Sakai and Yamamoto, 2001, Sakai and Imada, 2003)からも支持された. 

     その後の研究から,ヒトで醤油の香りは,MSGと同様に塩味を増強させることができるが,MSGが末梢的に塩味を増強させるのに対して,醤油の香りは中枢的に塩味を増強させることを明らかにした(Onuma et al., 2018).この結果から,香りを使った味覚増強(あるいは抑制)は,生後の食経験による影響を強く受けること,すなわち文化的に規定されることが示唆される. 

     一方で,ラットを使った研究から,ラットは味覚と嗅覚の間に質的連合を形成することも可能ではあるが,専ら情動的連合が優勢であることも示唆された(Onuma and Sakai, 2016). 

     味覚と嗅覚の連合は,食品の味において現象論的に非常に重要であるが,そのメカニズムについてはまだよくわかっていないことも多い.また,経験に強く依存するため,ヒトにおける応用可能性についても制限がある.今回これらについてディスカッションしてみたい.

  • 横山 壱成
    p. 32-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    横山 壱成(よこやま いっせい):九州大学大学院農学研究院 助教

    略歴:2021年3月北里大学大学院動物資源科学専攻博士後期課程修了,同年9月まで株式会社フード・ペプタイド,2022年3月まで北里大学獣医学部特任助手,2024年3月まで日本学術振興会特別研究員PD(日本大学生物資源科学部),2025年3月まで北里大学獣医学部特任助教を経て,同年4月より九州大学大学院農学研究院助教(現在に至る)

    1.食品の加熱香気とその生理的作用

     香りは我々の日常生活のさまざまな場面において存在し,生活の質を左右する.特に食品における香りは,そのおいしさを決定する重要な要因のひとつであり,我々ヒトが抱く食品への第一印象や食行動へのきっかけとなる.食品の製造工程や調理過程における加熱処理において,食品の香りは大きく変化する.この加熱による食品成分間反応の中でも,アミノ化合物と還元糖が関与するメイラード反応は,食品の品質だけでなく嗜好性向上にも高く貢献する.一方,演者らのグループはこのメイラード反応生成香気の吸入による生理的作用に注目し,その主要成分がもたらす影響についてラットやヒトにおいて報告してきた.メイラード反応生成香気は,食卓での加熱調理や加工食品から日常的に吸入することが予想され,その刺激による老化や嗅覚認知機能への影響が予想された.しかし,このような実験の評価系では,動物の飼育コストおよび実験者負担の増加,そして動物福祉の問題が懸念される.

    2.小さな生物 線虫C. elegansが拓く,大きな研究の世界

     線虫Caenorhabditis elegansC. elegans)は,老化研究の代表的なモデル生物である.線虫は体長わずか1mmと小さい生物ではあるが,筋肉,神経系,消化管など哺乳動物と同様の基本的な組織を有しており,生化学や遺伝学分野に留まらず,近年では食品機能・栄養学的な分野においても活躍する.また,本モデル生物は約70%のヒトと共通する遺伝子を有していることが知られ,ヒトの疾患モデルとしての活用も期待されている.さらに,2024年にノーベル生理学・医学賞の受賞に至った「マイクロRNA」の発見は,線虫で見出された大きな成果であることは記憶に新しい.こうした線虫の特徴を活かした研究成果は,いくつかの社会実装にまで結びついている。その中でも,線虫の嗅覚に注目したヒトや伴侶動物におけるがん診断への応用は社会へ広く浸透している.演者は,この高い嗅覚機能を有する線虫をモデル生物として,メイラード反応生成香気が示す抗老化作用などの新たな機能性について評価することができないかと着想した.

    3.線虫を用いたメイラード反応生成香気の機能特性解明

     香気刺激による老化への影響を線虫モデルで検討するにあたり,演者は線虫がメイラード反応生成香気に対してどのような挙動を示すかに注目した.これは香りに対する好き・嫌いといった嗜好が線虫にも存在し,誘引・忌避といった行動出力をもたらすからである.そこで,野生型の線虫を用いて,香気提示後の走化性行動について評価を行った.その結果,未加熱試料(アミノ酸と還元糖の混合溶液)に対する行動変化は認められなかったが,加熱(メイラード反応)後の試料に明らかな誘引行動を示すことが判明した.さらに,線虫における嗅覚シグナルの伝達不全を呈する変異体(odr-3)では見られないことから,この誘引行動が線虫の嗅覚シグナルを介して引き起こされていることを突き止めた.

     本講演では,ヒトだけでなく,線虫にとっても魅力的な香りであるメイラード反応生成香気の継続的な曝露による老化への影響について詳しく紹介するとともに,哺乳類との関連性についても論じる.

  • 長田 和実
    p. 33-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    長田和実(おさだかずみ): 日本大学 生物資源科学部, 食品開発学科 特任教授

    略歴: 2025年4月 – 現在 :同, 特任教授に就任2019年4月 – 2025年3月:日本大学 生物資源科学部, 食品開発学科 食品栄養学研究室, 教授 2004年4月 - 2019年3月:北海道医療大学, 歯学部 口腔生物学系 生理学分野, 准教授 1997年4月 - 2004年3月:大正製薬, セルフメディケーション科学研究所, 主任研究員 1999年4月 - 2000年9月:Monell Chemical Senses Center, Visiting Scientist 1995年4月 - 1997年3月:東北大学農学部, 栄養学研究室 受託研究員 1990年4月 - 1995年3月:大正製薬(株)本社企画部配属1986年4月 - 1990年3月:東北大学大学院農学研究科 食糧化学専攻 1982年4月 - 1984年3月:明治大学大学院農学研究科 農芸化学専攻 1978年4月 - 1982年3月:明治大学, 農学部, 農芸化学科

    「適塩」は現在社会に残された栄養学上の重要なテーマの一つである.本研究は,マウスに匂いをかがせて減塩効果を確認し,匂い中の活性成分を同定し,そのメカニズムを解明することを目的とする.嗅覚情報は辺縁系などに直接入力し,情動の発現,視床下部ホルモン分泌,自律神経調節などに強力に作用するため,生得的,効果的な塩味調節作用を発揮する可能性がある.食品の匂いが塩味調節作用を持つことを示唆する研究は多いが,活性物質の同定に至った研究は少なく,減塩を促進する匂い物質の解明が求められている.本研究は食品中の匂い成分を用いた食塩摂取調節に新たな可能性を追求するものである.

     まず,マウスの二瓶選択実験の系を作成し,自作の匂い発生器と二瓶選択法を用いてC57BL/6J雌マウスに対して水と0.15 M NaCl水溶液の24時間の摂取率を計測し食品中におい成分の適塩作用を確認した.その結果,オレガノ(Oregano),再仕込み醤油,ベーコン燻煙臭,などに活性があり,中でもオレガノの活性は高かった.次にオレガノの揮発性成分を固相マイクロ抽出法およびGC-MSを用いて揮発性物質プロフィールを明らかにし,揮発性有機酸やアルコール類,モノテルペン類などが含まれていることが分かった.このうち,全体の66%はCarvacrolであった.気相中の匂い成分を簡便正確に定量する方法を開発し(Osada, et,al. 2021: Biosci Biotechnol Biochem. 2021;85(12):2343-51.),Carvacrolを一定の濃度で24時間継続的にマウスに暴露する実験系を用いてCarvacrolがOregano の活性成分の主体であることを突き止めた.

     次に,Oregano(Carvacrol)の顕著な適塩作用に着目し,適塩効果の濃度依存性,雌雄差,について研究した.Oreganoの匂いによりマウスの食塩水嗜好率の低下は雌雄共に誘起された.一方Carvacrol単独の場合,雌では適塩作用を誘起したが,オスでは弱かった.また24時間の食塩水摂取量の抑制は濃度依存的に起こったが,適塩活性を発揮する閾値はメスの方が低かった.したがってOreganoの効果は雌雄同様に見えるがCarvacrol 単独では雄の活性が低いことから,少なくとも雄に関してはCarvacrol以外の揮発性成分も減塩効果に関与している可能性が示唆された.

     オレガノの十分な適塩効果を確認した後に,嗅球,扁桃体,視床下部などを採取して各組織のcDNAを定量PCRに供した.食塩摂取に関与するホルモンや神経伝達物質等のシグナル物質及びその受容体を解析したところ,オレガノ群にて嗅球と扁桃体のセロトニン受容体の有意な増加が確認され,セロトニン神経系の活性化が適塩効果と関連することが示唆された.さらに視床下部ではオレキシン系の低下とオキシトシンの弱い増加が見られた.これら脳内シグナル系の転写活性の増加を介して適塩作用が発揮されているものと解される.

     最後に,免疫組織化学的手法を用いて,Oregano揮発成分が塩分の食欲を司る脳領域に及ぼす影響を探った.その結果,Oregano揮発成分が塩分摂取の中枢である分界条床核腹側部(VST)を雌雄ともに有意に刺激することが確認された.これらの結果は,Oreganoの揮発成分の嗅覚刺激が,VSTに作用して適塩作用を誘導していることを示唆している(Osada, et,al. 2025: Biosci Biotechnol Biochem. Apr 89(5):776-786).現在Oregano(Carvacrol)VST以外の食塩調節中枢に対する作用についても検討しており、匂いによる適塩誘起サーキットを明らかにする研究を進めている。

シンポジウムB3: 『食』と『健康』のフードサイエンス最前線
  • 山口 勇将
    p. 34-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    山口 勇将(やまぐち ゆうすけ)日本大学 生物資源科学部 食品開発学科 准教授

    略歴: 2014年 日本学術振興会特別研究員DC2、2015年 University of the Philippines visiting researcher、2016年東京農工大学大学院 連合農学研究科 応用生命科学専攻 卒業 博士(農学)、2016年東京農工大学 グローバルイノベーション研究院 特任助教、2017年〜日本大学 生物資源科学部 助手・助教・専任講師・准教授(現職)

    タンパク質、ペプチドおよびアミノ酸は栄養素としての役割(一次機能)に加え、腸管内の代謝や反応を経て生理調節作用(三次機能)を発揮することが知られている。食品成分の健康機能性を最大限に発揮させるためには、腸管内での変換過程とその変換物による機能発現機序を解明することが重要である。しかし、in vitroで確認された機能が、in vivoで再現されない例も多く、これは腸内細菌や消化酵素、腸管上皮細胞など腸管内環境の複雑さに起因する。

     本研究では、食品成分の腸管における代謝反応が機能発現の鍵となるという視点から、米アルブミン由来ペプチドおよびニンニク由来のアリイン(S-アリルシステインスルホキシド, ACSO)の二成分について検討した。米アルブミンは腸管内で高分子ペプチド(HMP)および低分子ペプチド(LMP)へ消化され、それぞれ異なるメカニズム(HMP:グルコースの吸着と拡散遅延、LMP:腸管糖輸送体SGLT1の発現抑制)により食後血糖上昇抑制作用を示すことを明らかにした。また、アリインは腸管内でジアリルジスルフィド(DADS)などに代謝され、これらの代謝物が肝臓において抗酸化・解毒酵素の発現誘導を介して肝障害を抑制すること、およびその作用がNrf2転写因子の活性化を伴うことを新たに見出した。さらに、アリイン自体にも同様の作用があることを示した。

     本研究を通じ、食品成分が腸管内で代謝され機能を発揮する重要性を明確にし、機能性食品素材の開発において腸管内反応を考慮する必要性を提示した。

  • 乙木 百合香
    p. 35-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    乙木 百合香(おときゆりか):東北大学大学院農学研究科 助教

    略歴:2017年東北大学大学院農学研究科にて博士号取得.同大学学術研究院,Food Science and Technology, University of California, Davis 博士研究員などを経て2019年より現職.

    プラズマローゲンは,抗酸化作用や細胞膜の流動性への関与,さらにはシグナル伝達分子としての機能など,さまざまな生理作用が報告されているが,その詳細には未解明な点が多く,いまだ“謎多き脂質”の一つである.私たちは質量分析を駆使して,プラズマローゲンの詳細な構造解析と機能解明に取り組んできた.本講演では,特にその抗酸化作用に焦点を当て,我々の最新の知見を紹介する.

     一重項酸素は,炎症反応や光増感剤の作用によって生じる,極めて反応性の高い活性酸素種の一つである.プラズマローゲンは,この一重項酸素に対してクエンチング作用を持つことが知られている.実際に我々は,一重項酸素の関与が示唆される急性膵炎患者の血漿において,病態の進行に伴いプラズマローゲンが顕著に減少することを見出しており,プラズマローゲンが一重項酸素をクエンチングすることで消費された可能性を示唆している.一重項酸素による酸化反応は,脂質分子中の二重結合に作用して,ヒドロペルオキシドやエンドパーオキサイドを形成することから始まる.プラズマローゲンはそのsn-1位にビニルエーテル結合を有しており,ここが一重項酸素と反応してヒドロペルオキシド(またはエンドパーオキサイド)となることで,抗酸化作用を発揮すると考えられている.ただし,この反応の実証はこれまでなされていなかった.私たちは近年,質量分析(MS)を用いたヒドロペルオキシ基の位置決定法を確立した.この手法により,「プラズマローゲンが一重項酸素により酸化された際,そのヒドロペルオキシドが本当にビニルエーテル部位に生じているか」を推定可能であると考えた.そこで,この手法を用いて一重項酸素酸化を受けたプラズマローゲンの構造解析を行うこととした.

     プラズマローゲンの標準品(1-(1Z-octadecenyl)-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine (PlsEtn 18:0/18:1))をローズベンガルの存在下,光を照射し,一重項酸素酸化を行った.一重項酸素酸化させたPlsEtn 18:0/18:1をNa⁺の存在下でMSにインフュージョンし,Q1マススペクトルを取得したところ,m/z 785 [M+2O+Na]⁺が検出され,酸化物の生成が確認された.そこでこのプロダクトイオンを解析したところ,専らビニルエーテル基に生成したヒドロペルオキシドに起因するプロダクトイオンが検出された.プラズマローゲンはsn-2位にも不飽和脂肪酸由来の二重結合を有するが,本結果から¹O₂は,sn-2位の不飽和脂肪酸よりも,sn-1位のビニルエーテル基と速やかに反応し,おそらくエンドパーオキサイドではなくヒドロペルオキシドを生成することが示唆された.ところでQ1マススペクトル上には,m/z 785の他,多量のm/z 767 [M+2O-H₂O+Na]⁺が認められた.そこでこの化合物の構造情報を得るため,LC-MS・多波長HPLC分析を行ったところ,この化合物はビニルエーテル基に生成したヒドロペルオキシドの脱水反応で生じていると予想された.以上の結果から,ヒドロペルオキシドが確かにビニルエーテル基に生成されること,さらにビニルエーテル基に生成されたヒドロペルオキシドは速やかに脱水反応を引き起こす可能性が示された.生成物は生体にとって無毒なエステルと水であるため,こうしたプラズマローゲンの一重項酸素クエンチング機序は非常にユニークと言えるであろう.

  • 津田 真人
    p. 36-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    氏名(ふりがな):津田 真人(つだ まさと)

    略歴:2003年 日本大学生物資源科学部食品科学工学科卒業,2005年 日本大学生物資源科学研究科生物資源利用科学専攻博士前期課程修了,2008年同博士後期課程修了,2010年 米国Cedars-sinai Medical Centerにて博士研究員,2015年 日本大学生物資源科学部食品生命学科 助教,2018年より専任講師,2023年より食品生命学科 准教授(現職).

    近年,「免疫機能の維持に役立つ」ことをヘルスクレームとした機能性表示食品が登場し,消費者の食品を介した免疫機能の維持・増進に対する意識や関心が高まっている.難消化性オリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクスは,ヒトの消化酵素で消化されず,腸内環境の変化を介して,宿主の健康増進に有益な効果を発揮する食品成分である.特に,感染防御増強作用や抗アレルギー作用などの免疫調節作用も期待され,様々な研究が進められている.プレバイオティクスによる免疫調節作用の機序を考慮すると,腸内細菌の多くが存在する大腸部位で主な作用を発揮することが推察される.しかしながら,免疫指標については全身免疫系やパイエル板などの小腸の免疫組織を標的とした解析が主流であるため,プレバイオティクスによる免疫調節の起点になると考えられる大腸の免疫系への影響を明らかにすることが重要であると考えられる.

    そこで,我々は大腸の免疫系について,特に,免疫誘導組織である腸管関連リンパ組織の抗体産生能に着目した研究を進めてきた.小腸のパイエル板はIgA抗体の主要な誘導組織であることがよく知られているのに対し,BALB/cマウスの盲腸粘膜に存在するCecal patches (CeP)では,IgAとは異なるIgG2bアイソタイプの抗体を発現するB細胞が豊富に存在していることを見出した.無菌マウスや抗生物質を投与して腸内細菌叢を制限したマウスを用いた解析から,CePのIgG2b陽性B細胞の誘導には腸内細菌叢の存在が必要であることや,CeP由来B細胞が産生するIgG2b抗体は腸内細菌に高い結合性を示すことも明らかにしている(Tsuda et al., J Immunol Res,2022,Okada et al. Biosci Microbiota Food Health. 2025).近年,健常なヒトやマウスの血液中に腸内細菌反応性IgG抗体が存在し,全身性細菌感染に対する防御反応にはたらくことが報告されていることから,CePがその供給の一端を担う可能性を推察している.

    食品成分により上述のような大腸免疫系を介した抗体産生応答を調節できるか?についても検討を進めている.代表的なプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖(FOS)を含む飼料をマウスに摂取させたところ,腸管や血液中のIgAやIgG2b抗体量が増加すること,CeP内の抗体産生に関わる細胞応答を促進することも示されている.現在,FOSによる抗体産生応答の促進に寄与する腸内細菌叢の変化やその腸内細菌による免疫調節作用について解析を進めている.

  • 山下 陽子
    p. 37-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    山下 陽子(やました ようこ):神戸大学大学院農学研究科准教授(管理栄養士)

    略歴:2005年神戸女子大学家政学部管理栄養士養成課程卒業, 2007年神戸女子大学大学院家政学研究科博士前期課程修了,2007年4月〜2009年8月神戸女子大学家政学部管理栄養士養成課程助手,2009年9月〜2010年3月神戸大学教育研究補佐員, 2013年神戸大学大学院農学研究科博士課程後期課程修了, 2013年〜2019年神戸大学大学院農学研究科特命助教, 2019年~現職

    黒大豆は日本で古くから食されてきた食品であり,黄大豆と比較して種皮に多くのポリフェノールが含まれていることが特徴である.黒大豆種皮中には,アントシアン類やフラバン-3-オール類が主要な化合物として構成されている.これらの化合物が存在することで,種皮が黒色を呈している.私たちの研究室では,これまでに黒大豆種皮ポリフェノールの持つ様々な機能性について明らかにしてきた.本シンポジウムでは,その成果の一部である脳機能を介した健康効果とそのメカニズムについて紹介させていただく.黒大豆種皮ポリフェノールのうちフラバン-3-オール類は,ほとんど小腸から吸収されないが,小腸に存在するL細胞に作用して,インクレチンホルモンであるglucagon like peptide-1(GLP-1)の分泌を促進することを明らかにした.この効果は,フラバン-3-オール類のうち,4量体であるシンナムタンニンA2で高かった.また,黒大豆種皮ポリフェノールは,GLP-1分泌を促進することで,迷走神経求心路を介して脳に刺激を伝達し,食欲の低下やエネルギー代謝を促進して肥満や高血糖予防効果を発揮していることが明らかになった1,2).一方で,黒大豆種皮に含まれるアントシアン類のシアニジン3-グルコシドは,高脂肪食摂取によって誘導される, 脳のミクログリア活性化による炎症症状と食リズムの乱れ(休眠期の摂食行動)を是正し,これが肥満の予防に寄与していることが判った3).また,その活性本体は,アントシアン類のシアニジン3-グルコシドとその代謝産物であるプロトカテク酸であることが明らかになった.プロトカテク酸は,脳の視床下部に到達し,細胞内に取り込まれた後,IKKβのKinase活性を阻害することで,NF-kBの活性を介した炎症を抑制していた.さらに,黒大豆種皮ポリフェノールを66週間摂取させると,加齢による認知機能の低下を抑制した.これに関しても,脳の海馬におけるミクログリア細胞の活性化予防を介した炎症抑制が,タウタンパク質とアミロイドβの蓄積予防に関与していた.以上のことから,黒大豆種皮ポリフェノールは様々な経路を介して,脳機能に作用することで,健康維持増進に寄与する食品成分であることが判った.

    1) Yamashita Y.al., Cinnamtannin A2, a Tetrameric Procyanidin, Increases GLP-1 and Insulin Secretion in Mice. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 77(4), 888–891,2013.

    2) Yamashita Y., Physiological functions of poorly absorbed polyphenols via the glucagon-like peptide 1. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 88(5),493-496, 2024.

    3) Hironao K.al., Black soybean seed coat polyphenol ameliorates the abnormal feeding pattern induced by high-fat diet consumption. Front Nutr. 9,1006132, 2022.

  • 山西 芳裕
    p. 38-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

    山西芳裕(やまにしよしひろ):名古屋大学大学院情報学研究科複雑系科学専攻 教授

    略歴:2005年京都大学大学院理学研究科博士課程修了,2005年仏国 École Nationale Supérieure des Mines バイオインフォマティクスセンター ポスドク,2006年京都大学化学研究所 特任助手・特任助教,2008年仏国Curie Instituteバイオインフォマティクスユニット常勤研究員(Principal Investigator),2012年九州大学高等研究院・生体防御医学研究所システムコホート学分野 准教授,2018年九州工業大学大学院情報工学研究院生命化学情報工学研究系 教授,2023年名古屋大学大学院情報学研究科複雑系科学専攻 教授(現職)

    近年,世界的な医療費負担の増大が社会問題となっており,その要因の一つに健康寿命と平均寿命の乖離が挙げられる.この課題に対し,疾患予防や先制医療の観点から食品の機能性への関心が高まっている.健康寿命を伸張するためには,疾患の予防が大きな要となる.一般に医薬品は疾患の診断および治療が目的であるため,予防には利用できない.また予防は継続性が必要であり,日常生活を変えることなく遂行できるものが望ましい.食品は多種多様な成分化合物を含むことから,未知の機能性を秘めている可能性が高く,健康寿命の伸張を担う最適な要素となり得ると考えられる.食品には多種多様な成分化合物が含まれており,これら成分化合物は体内の微生物によって代謝され,新たな生理活性物質となることも知られている.しかし,食品数は膨大であり,その成分化合物も未同定のものが多く,また微生物による代謝経路も複雑であるため,全ての食品機能性を実験的に特定することは事実上不可能である.

     本研究では,食品の機能性およびその作用機序を網羅的に予測する機械学習手法を提案する.これまで蓄積された食品,生体分子,微生物,疾患に関するビッグデータを情報解析し,食品・成分化合物・標的タンパク質・適応疾患ネットワークを推定するのが特長である.当日は,実際の食品への応用例や漢方薬への応用例を紹介する.

シンポジウムB4: 国産チーズ・乳酸菌利用の新たな展開と挑戦
  • 小林 美穂
    p. 39-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】氏名(ふりがな):小林 美穂(こばやし みほ)略歴:宇都宮大学大学院農学研究科修士課程修了.農林水産省畜産試験場(現 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)畜産研究部門)を経て,現在,農研機構 食品研究部門 食品加工・素材研究領域バイオ素材開発グループ 上級研究員.博士(農学)

    酪農家などがチーズ製造に取り組む際には,原料乳の生産地や乳牛の飼養方法などが製品差別化の要素となりうる.しかしチーズの製造に不可欠なチーズスターター(乳酸生成を担う乳酸菌や,チーズの種類や特徴を決定づける外観,味,香り,食感をもたらす乳酸菌など発酵微生物)は輸入市販品であり,外国産ナチュラルチーズとの明確な差別化が難しい.市販チーズスターターは,乳酸菌他チーズ製造に特化した数種類の発酵用微生物の混合で,それらの微生物は伝統的なチーズを分離源とし,その構成は目的とする種類のチーズを安定して製造できる菌叢となっている.スターター由来の乳酸菌は,チーズ製造の初期には乳酸発酵により原料乳のpHを低下させ,後には菌体内外の酵素によって乳成分の低分子化に働きチーズの熟成に寄与する.一方,チーズの熟成には,スターター由来ではない非スターター性乳酸菌も関与する.非スターター性乳酸菌は,原料乳や製造環境に由来し,熟成中に増殖してチーズの主要な菌叢となり品質に影響することから,フレーバー改善や特徴の付与,あるいは熟成促進効果をねらい,品質の良い熟成チーズから分離した非スターター性乳酸菌を,補助スターターとして乳発酵用スターター(メインスターター)に併用する試みが様々報告されている.しかし乳系食品以外から分離した乳酸菌のチーズスターター利用は,プロバイオティック機能に着目した機能性チーズ開発の目的以外での報告例は少ない.しかしそのような乳酸菌の菌体酵素活性は,チーズ由来菌のものとは異なり,チーズ製造に利用できれば多面的な差別化特徴の付与が期待できる.日本各地には,様々な漬物や,味噌,醤油,日本酒など乳酸菌が関わる伝統的な発酵食品があり,それらからは食経験のある乳酸菌を分離することができる.発酵食品中の乳酸菌叢は,各々の発酵食品によって典型的な菌種が占有しているが,熟成チーズから分離実績の高いLacticaseibacillus casei, Lacticaseibacillus paracasei, Lacticaseibacillus rhamnosus, Latilactobacillus curvatus, Lactiplantibacillus plantarumなどの乳酸桿菌は,チーズ以外の国産発酵食品からもしばしば分離される.講演者らは2017年から,北海道および栃木県の公設試等とコンソーシアムを形成して「国産スターターを用いたブランドチーズ製造技術の開発 “Jチーズプロジェクト”」を実施した.プロジェクトでは,地場食品190点から分離した676菌株の“ご当地乳酸菌”から,非スターター性乳酸菌種を優先的に選抜し,ゴーダチーズの旨味増強や熟成促進効果を指標として4種の乳酸菌を選抜し,補助スターター用途の国産チーズスターター(Jチーズスターターと呼称)を開発した.Jチーズスターターの添加効果は,遊離アミノ酸分析,揮発成分分析,味覚センサー試験などにより確認したほか,消費者嗜好調査においても好ましい評価を得た.現在Jチーズスターターは普及を進めており,本講演では,国産チーズスターター開発のプロセスとともに,社会実装に向けた取り組みについても解説する.

  • 中村 正
    p. 40-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】氏名(ふりがな):中村 正(なかむら ただし)略歴:東北大学大学院農学研究科修士課程修了,帯広畜産大学 助手,Alexander von Hunboldt特別研究員,帯広畜産大学 講師を経て,現在,北海道国立大学機構 帯広畜産大学 生命・食料科学研究部門 准教授.博士(農学)

    日本におけるチーズの消費量は漸増傾向にある.これにはワインブームによるテーブルチーズや,ピザやドリアをはじめ様々なチーズ料理が料理店だけでなく広く知られるようになり,一般家庭の食卓でも日常的に提供されるようになったことなどが要因として挙げられる. 北海道は数多くの農産物の生産拠点であるだけでなく主要な酪農地帯でもあり,その生乳生産量は日本全体の生産量の50%以上を占めている.北海道には大手乳業メーカーのチーズ工場のほか100戸以上のチーズ工房が各地域で様々なナチュラルチーズを製造している.近年,北海道をはじめ日本国内のチーズ工房で製造されているチーズの中には,海外のチーズコンテストでも上位入賞する製品もあり,その品質の良さは国内外に知られるところとなっている.一方,世界には1000種類以上のチーズがあり,それぞれで原料乳の種類(ウシ,ヒツジ,ヤギなど)や調製方法(殺菌,無殺菌,成分調整など),使用する微生物(乳酸菌,カビ,酵母など)の種類,発酵様式,製造工程,熟成方法などが異なっている.そのため,チーズ中にはスターターとして添加した乳酸菌だけでなく,原料乳由来の微生物(非スターター性乳酸菌など)が製品の個性につながっているものも数多く存在している.それらと比較して,日本のチーズには「個性が感じられない」といった声も聞かれるが,その要因の1つとしてチーズの製造に使用されるスターターのほとんどが海外からの輸入品であることが考えられる.そこで演者らは,2017年から「国産スターターを用いたブランドチーズ製造技術の開発 “Jチーズプロジェクト”」に参画し,北海道産食品から乳酸菌を分離・同定するとともに,チーズ製造に適した乳酸菌の選抜を行った.選抜された北海道株のうち有望株であったLacticaseibacillus paracasei OUT0010株, Lacticaseibacillus rhamnosus P-17株およびLatilactobacillus curvatus 33-5株をゴーダタイプチーズの製造試験に供し,一般成分分析,遊離アミノ酸分析,官能評価,味覚センサー試験などにより添加効果について総合的に評価した.これにより評価の最も高かったLacticaseibacillus paracasei OUT0010株の使用対象について検討するため,カマンベールタイプチーズなど他のチーズの製造試験にも供し,その効果について評価した.これらの知見をもとに,JRA畜産振興事業(2021~2023)「国産チーズ・イノベーション事業」において,チーズ工房での実証試験ならびに製品化がすすめられ,一部の製品が国内のコンテストで受賞するなどの実績をあげている.現在,これら国産チーズスターターの使用を希望するチーズ工房が多く聞かれるようになり,地方競馬全国協会の支援の下,日本乳業技術協会により,これらチーズスターターの普及に向けた様々な取り組みがなされており,本講演ではそれらを通じた知見や普及状況についても紹介する.

  • 三浦 孝之
    p. 41-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 准教授 略歴:2002年 酪農学園大学大学院修了, 2005年 北海道大学大学院 農学研究科 博士課程修了, 2006年 日本獣医生命科学大学 助教着任 現在に至る

    ナチュラルチーズ製造時に排出されるチーズホエイの活用は乳業界にとって長年の課題であり,古くから国内外で研究および産業レベルでのあらゆる取り組みが行われてきた. 現在, 大企業ではスプレードライヤー等で粉末化し新たな食品資材にするなど一定の解決方法が定着しているが, 中小規模工場の場合は設備やコストの面から粉末化するのは現実的ではないため,大半は廃棄物として浄化槽などで処理するしかない状況である. 日本のナチュラルチーズ生産者は現在300社以上あるが,その大半が中小規模であるため,国内のチーズ生産者の殆どがチーズホエイ処理の課題に直面している状態である. チーズホエイは糖分やタンパク質などの有機物を含んだ貴重な資源であるため,廃棄するだけではなく付加価値をつけてアップサイクルする事ができれば環境的にも経営的にも有益だと考えられる. そのため,近年ではホエイドリンクなど新たな乳製品, 化粧品や石鹸など様々な製品にアップサイクルして有効活用する生産者が増えている.私達はこのアップサイクルの流れにホエイを煮詰めて作る「ブラウンチーズ」を推進しており,その理由としてSDGsの観点も大切であるが,今後あらゆる生産コストが増加していく中で,貴重な乳原料を最大限に活用して利潤を産む手段になり得ると考えたからである.ブラウンチーズはノルウェー原産の乳製品で,チーズホエイを加熱濃縮して得られた茶色い固形物である. 乳糖とミネラルによる仄かな甘みと塩味,そしてメイラード反応によってキャラメルのような優しい風味が特徴である. もしも,日本各地の中小規模生産者が高品質なナチュラルチーズと日本独自のブラウンチーズを生産販売することが出来れば、新たな食文化創生の一助にもなり得る.  そこで私たちは、日本の生産者と市場に適した日本独自のブラウンチーズの開発を行った. ノルウェーでは小規模な工房でも200 Lの大きな加熱濃縮機でブラウンチーズを製造していたが, 日本の生産者の場合, せいぜいガスコンロと鍋を使い10-30L程のホエイを根気よく煮詰めることになる.  このようにして作ったブラウンチーズは色調が白っぽくなり, 一般的なイメージとは程遠いばかりが, ホエイに含まれるミネラルの「塩味」を強く感じるものが出来上がる. これはホエイ量が少ないため加熱濃縮に要する総時間が短くなり, 色味を形成するメイラード反応が十分に進まないことが原因である.  そこで, 私達はラクターゼを用いてラクトースをグルコースおよびガラクトースに分解し、メイラード反応を促進させることで加熱時間が短くても茶色味が増した好ましい色調に仕上げることが可能になった. また、ラクターゼ処理したブラウンチーズはメイラード反応の風味と強化された甘味によってミネラル由来の塩味を抑え, あたかもチョコレートやキャラメルをイメージさせる風味になった.  消費者に広く普及するにあたって, 食経験がない新規な風味よりも, 美味しいと感じるポジティブな食経験と製品の風味がリンクすることは大変重要なことである. 開発から5年余り, これらの技術はすでに多くの国内チーズ生産者が活用し日本独自のブラウンチーズ文化が形成されつつある.

  • 佐藤 薫
    p. 42-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】佐藤 薫(さとう かおる)略歴:1985年東北大学大学院農学研究科食糧化学専攻(博士課程前期)修了,同年雪印乳業㈱入社,1996年東北大学大学院農学研究科にて博士(農学)号取得,2013年北海道文教大学教授,2016年日本獣医生命科学大学応用生命科学部准教授,2020年より教授

    麹菌(Aspergillus属)は,米,麦,大豆等を原料とした味噌,醤油,日本酒などの製造に必須であり,国菌と位置づけられる日本独特の発酵微生物である.麹菌はプロテアーゼ,リパーゼ,アミラーゼなど多様な酵素を産生する.我々は日本の強みである醸造技術に着目し,麹菌をチーズの熟成に応用し,日本独自のチーズを開発することに取り組んだ.しかし,麹菌が産生する酵素は,タンパク質や脂質の過剰な分解による嗜好性の低下を招く可能性がある.そのため熟成チーズに適した麹菌を選抜し,製造工程の確立と熟成条件の最適化を図った.ここでは産学連携による日本独自のチーズとして麹菌熟成チーズの開発と実用化例を紹介する.1)チーズに適した麹菌の選抜とチーズ製造技術の確立熟成チーズに適した麹菌を選抜する上ではすでに食品に応用されていること,繁殖速度が速いこと,異なる酵素活性を有していることなどを種麹メーカーから麹菌株を入手した.チーズ表面に接種してチーズの熟成状態を調べたところ,白色から黄緑色の外観とチーズ内部が溶け出して変形するものなど様々な組織を呈していた.試食による評価では全体的に旨味が感じられ,一部脂肪分解臭を生成するものもあった.酵素活性の比較からリパーゼ活性が低く,プロテアーゼ活性の高い菌株に絞り込み,最終的に得られた麹菌は,チーズに適している株としてKoji Cheeseの頭文字をとり,麹菌KC43株(Aspergillus oryzae KC43)と命名した.麹菌熟成チーズの社会実装化を達成するためには,現場で実施可能な製造工程にする必要がある.麹菌熟成チーズはカマンベールチーズと同様のソフトタイプの製造工程とし,麹菌を表面に接種する方式を採用した.麹菌接種において麹菌の分生子が飛散しやすいという課題があることから,麹菌分生子をカプセルに充填して使用することとした.滅菌水に分散させ,グリーンチーズを浸漬することで他のチーズ製品に影響を与えることなく麹菌を接種することを可能とした.熟成条件は,麹菌の繁殖に適した温度に設定する必要がある.味噌や醤油の醸造工程では30℃前後で麹菌を繁殖させているため,麹菌熟成チーズもこの温度帯で熟成させることとし,チーズの外観,風味,保存変化の観点から最適化した.30℃前後の熟成温度はチーズにおいて一般的ではないが,短期間でうま味の強いソフトタイプチーズを得ること,生産効率の面でメリットがあると考えた. 2)麹菌熟成チーズの特性と社会実装化麹菌熟成チーズは,旨味成分のグルタミン酸量が市販のカマンベールチーズと比べて5倍程度多く含まれている.これまでのソフトタイプチーズには無い特徴であり,ラクレットなどのハードタイプチーズに近いグルタミン酸量である.さらに麹菌熟成チーズ中の熟成成分や香気成分解析から,カマンベールチーズやブルーチーズとは異なる特徴を明らかにした.麹菌熟成チーズは,複数のチーズ生産者で実際に技術導入し,商品販売に至っている.西欧のチーズ文化と日本の醸造技術の融合により,麹菌熟成チーズという日本発のチーズが広く普及し,酪農乳業に貢献できれば幸いである.

  • 冨田 理
    p. 43-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】氏名: 冨田 理(とみた さとる)略歴: 2010年 東京農業大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 博士後期課程修了.2011年Top Institute Food and NutritionおよびNIZO food research, Health Division, Postdoc researcher.2013年 農研機構食品総合研究所食品分析研究領域 特別研究員を経て2015年 応用微生物研究領域 任期付研究員.その後、2018年 農研機構食品研究部門食品生物機能開発研究領域 主任研究員を経て,2024年より食品加工・素材研究領域 上級研究員

    乳酸菌は,世界中で幅広い発酵食品の製造に関わる有益な微生物の一群であり,また,歴史的な食経験から安全性の高さが広く認知され,その健康増進効果の研究・利用が盛んに進められている.乳酸菌の基礎的な分離培養技術が普及した時代からみて,現在ではDNAシークエンスやゲノム編集など飛躍的な技術革新が生じている.とはいえ,乳酸菌を利用する研究開発において,生きた微生物資源,すなわち菌株コレクションから優良菌株を選抜しようという試みは,現在でも実用的な戦略の一つである.農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構,NARO)は12の国立研究機関を統合・再編する形で2001年4月に設立され,その後も2016年までに6機関との統合を経て,現在の組織体制へと至っている.近年,その複数の研究拠点で過去に収集された分離菌株を「NARO乳酸菌コレクション」として統合・一元管理を進めるとともに,内外の発酵食品研究に役立てることを目的としてデータベースの運用を開始した.現在,NARO乳酸菌コレクションとして集約された菌株数は6,000を超える.そのほとんどは分離源が明らかであり,約3,000菌株が農作物や発酵食品などの食品を由来とし,残りの約3,000菌株は動物消化管や飼料,植物やキノコなどの非食品から分離された.食品由来株に注目すると,植物質(野菜・穀物・果実)に関連する分離株が中心であるが,その内訳には少なくとも70種に及ぶ漬物類が含まれる.したがって新規特性や望ましい性質を有する菌株の存在を期待させるが,研究リソースが限られる中では,数千株の中から供試菌株を選択する判断材料に乏しい.そこで当コレクションでは,データベース上での予備選抜を可能とする各種の特性情報(メタデータ)を収集しシステム構築を行った.本稿執筆時点,NARO乳酸菌コレクションの系統分類学的データとしては乳酸菌群のLactobacillales目を構成する6科すべてに渡る約31属191菌種が含まれる.さらに,ゲノム解析を基にアノテーションされた遺伝子情報やタンパク質機能およびドメイン情報も500菌株超が格納されている.生理生化学的および発酵特性データとしては,主に,分離株が生育に利用できる糖類資化性情報,牛乳および豆乳の発酵能(凝固・到達pH),豆乳中での主要な代謝物生産・変換能(約30成分)などの情報を収集した.また,機能性データとして,マウス由来細胞株に対するIL-12遺伝子の発現誘導能が中心に格納されている.NARO乳酸菌データベース(https://lacticbacteria.nfri.naro.go.jp)ではこれらの特性情報を横断的に検索可能であり,目的とする乳酸菌の探索を省力化できる.筆者が担当した発酵豆乳の成分分析では約3,000菌株のデータを収録した.個別の代謝物を標的にした検索にはもちろんのこと,標的のない探索にも有用である.たとえばLactiplantibacillus属の分離株数は数百に及ぶが,代謝物プロファイリングによってこれらは約10の異なるクラスターへ分類される.この予備選抜により実質的に遺伝的背景の相違する菌株を選択できるため,時間的・経済的コストの低減が期待できる.本データベースをさらに拡充していくとともに,微生物資源の拠点としてNARO乳酸菌コレクションが研究開発に役立つよう活動を継続して行っている.

シンポジウムB5: 国際交流シンポジウム(IUFoST-Japan―国際交流委員会共催 協賛:一般財団法人旗影会)
  • Jane Chao
    p. 44-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【Introduction of speakers】

     Dr. Jane C.-J. Chao obtained her Ph.D. degree from the Department of Human Nutrition and Food Management at the Ohio State University in 1993. Subsequently, she had the post-doctoral training in the Division of Foods and Nutrition at the University of Illinois at Urbana-Champaign from 1993 to 1994, and returned to her alma mater Taipei Medical University (TMU) since 1995. She is currently in the position of Dean in the Office of Global Engagement, Professor in the School of Nutrition and Health Sciences at TMU, and in the position of President in the Nutrition Society of Taiwan since 2021.

    The Nutrition Society of Taiwan was established in 1974 (the 63rd year of the Republic of China), and is now for 51 years. The Society was founded by a group of professionals from various fields including nutrition, food science, agriculture, public health, and medicine, and all founders shared a noble vision. The passion and dedication of our pioneers focus on promoting public nutrition and health not only for establishing the foundation of the society but also for inspiring younger generations to carry on their missions. Over the past five decades, the society has grown steadily, and experienced twelve presidents. Membership continues to increase each year with a current total of 6,662 members including 1,580 lifetime members, 3,978 professional members, 1,080 student members, and 24 corporate group members. With the belief that “the nutritional health of the national people is an indicator of national strength, and a reflection of cultural standards”, the society is committed to cultivating the professionals in preventive healthcare and nutritional care with humanistic concern as well as global and interdisciplinary visions via the work tasks of 9 committees. Additionally, the important mission of the society is to strengthen international academic collaborations in the fields of nutrition and food science. In this spirit, we propose to enhance our engagement with the Japanese Society for Food Science and Technology through a range of academic exchange activities which include co-hosted symposium/conference on emerging topics in food science and nutrition, scholar exchanges between both societies, and joint student exchange programs to foster mutual learning and development.

    By promoting such interactions, we aim to create an environment that supports the exchange of knowledge, research innovation, and educational opportunities between Japan and Taiwan. Furthermore, we believe that the initiation through these collaborations can further contribute to the development and promotion of public health nutrition policies in both countries. We are looking forward to future opportunities for the partnership that will benefit academic communities and promote better health outcomes across borders.

  • Shin-Ping Lin
    p. 45-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    Education:

    PhD. Institute of Biotechnology, National Taiwan University, Taiwan, May 2017

    Professional Experience:

    Researcher, Material and Chemical research laboratories, Industrial Technology Research Institute, Taiwan

    Senior researcher fellow, Research and Development, Phalanx Biotech Group, Taiwan.

     Bacterial cellulose (BC) is a nano-scale biomaterial produced from microorganism. Among of BC producing microorganisms, Komagataeibacter xylinus is the most commonly used microorganism due to its high BC production. Compared to plant cellulose, BC presents higher purity without lignin, pectin, or hemicellulose. Owing to its excellent mechanical property, high water content, and biocompatibility, BC has been applied to biomedical dressing, food packaging and cosmetic mask applications. However, its lack of specific biological activities, including antimicrobial and antioxidant properties, limits its broader utility. To address this challenge, we developed an in situ modification strategy using a foaming culture system to produce foaming BC (FBC). Various additives were incorporated into FBC during cultivation to obtain the specific functional FBC. First, chitosan was added to produce chitosan/FBC composites with antimicrobial ability. The chitosan/FBC was found that can significantly inhibit Staphylococcus aureus and Escherichia coli growth by approximately 2 log CFU/mL. Second, agar was used to regulate pore size of FBC, and facilitate the adsorption and controlled release of carvacrol, a bioactive compound with known antimicrobial activity. The release rate of carvacrol was positively correlated with pore size of agar/FBC, enabling sustained microbial inhibition. In food packaging applications, the carvacrol-loaded agar/FBC effectively suppressed the growth of Shewanella putrefaciens and reduced lipid oxidation in fish during storage, demonstrating strong potential as an active packaging material. Last but not least, FBC also served as a superior scaffold for microbial co-culture. Co-cultivation with recombinant E. coli enabled the in situ biosynthesis of violacein-loaded FBC. The violacein/FBC composite exhibited strong metal ion adsorption capacity, particularly for Cu(II), highlighting its potential for use in functional packaging and wastewater treatment. Overall, the FBC production system serves as a modification strategy that enables the in situ incorporation of additives or microorganisms into the cellulose fiber during cultivation. The approach allows for the fabrication of BC materials with specific functionalities. Future work will focus on incorporating a broader range of modifiers to explore the applicability of FBC across different fields.

  • Young-Suk Kim
    p. 46-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    Education

    Ph. D. Rutgers University, 1997

    MS. & BS. Seoul National University, 1992, 1990

    Professional Experience

    Professor, Ewha Womans University, 2000-present

    Principal Scientist, Griffith Laboratories Company, 1999-2000,

     The Korean Society of Food Science and Technology (KoSFoST), founded in 1968, is a leading academic society dedicated to advancing food science and technology in Korea. Through its academic conferences, peer-reviewed journals, industry collaborations, and educational initiatives, KoSFoST plays a central role in bridging academia, government, and industry in the field of food science and technology. As global food systems face increasing challenges - from sustainability and functional foods to novel processing technologies - the importance of international collaboration continues to grow. In particular, since Japan and Korea share similar food cultures, scientific interests, and regional challenges, bilateral collaboration between JSFST and KoSFoST can be highly synergistic. The cooperation can be further strengthened through joint research initiatives, collaborative workshops, and student/researcher exchange programs. KoSFoST aims to strengthen bilateral cooperation by fostering deeper academic ties and innovation-driven partnerships.

  • Jin-Kyu Rhee
    p. 47-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    Education:

    Ph.D. Biotechnology, Yonsei University, Seoul, Korea December 2006

    M.Sc. Food and Biotechnology, Yonsei University, Seoul, Korea December 2000

    Professional Experience:

    CEO and Founder, 2019-Present, SuFAB Inc., Seoul, Korea

    Professor in Department of Food Science and Biotechnology, 2015-Present

    Amidst escalating concerns over marine ecosystem degradation, climate change, and the unsustainable exploitation of wild fisheries, the global food sector is urgently seeking alternative protein sources that can ensure both nutritional security and environmental resilience. In response, the Republic of Korea has launched a large-scale national R&D initiative under the auspices of the Ministry of Oceans and Fisheries (MOF), aimed at pioneering the development of aquatic cultured meat. This effort forms a critical pillar of Korea’s emerging blue bioeconomy strategy and is designed to future-proof the seafood supply chain.

    This presentation introduces the MOF’s flagship research consortium for aquatic cultured meat, which brings together a multidisciplinary team of leading academic institutions, biotechnology firms, and marine science experts. The consortium’s mission is to establish a next-generation platform for the production of high-quality, sustainable fish- and shellfish-based cultivated foods. The initial target species include yellow grouper (Epinephelus awoara), oyster (Crassostrea gigas), scallop (Patinopecten yessoensis), and kuruma prawn (Marsupenaeus japonicus)—all of which are economically and culturally significant in the seafood market.

    The consortium integrates advances in marine cell culture, biomimetic scaffold engineering, and AI-assisted food design to recreate the complex structure and sensory properties of real seafood. The following major technical achievements are expected: (1) successful immortalization of muscle and fat cell lines from the selected species; (2) development of serum-free, marine-derived culture media that reduce both cost and environmental burden; (3) fabrication of edible scaffolds from marine collagen and seaweed hydrogels that mimic native extracellular matrices; and (4) development of a digital modeling platform to simulate the structural and textural transitions of cultivated seafood during processing and consumption.

    This approach supports the creation of high-fidelity cultivated seafood products that closely resemble the texture and eating experience of conventional seafood, thereby improving consumer acceptance. The presentation will outline Korea’s strategic vision and technical roadmap for scaling aquatic cultured meat technologies and emphasize the growing importance of international collaboration to drive a sustainable “blue revolution” in future food systems.

  • Momoko Ishida
    p. 48-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【Introduction of speakers】

     Education:

     Ph.D. in Agriculture, Ehime University, Japan, Mar 2017

     Professional experience:

     Assistant Professor, Graduate School of Agriculture, Ehime University, Apr 2020–Present

     Researcher, Graduate School of Agriculture, Ehime University, Mar 2017–Mar 2020

    Phytochemicals such as polyphenols, carotenoids, glucosinolates, and alkaloids are bioactive compounds found in fruits, vegetables, grains, and other plant-based foods. In plants, these compounds are primarily produced as part of defense mechanisms against pests, pathogens, and environmental stress. Although phytochemicals are not classified as essential nutrients like vitamins and minerals, they contribute to human health and may help to prevent various diseases. They exhibit a wide range of beneficial health functions, including antioxidant, anti-inflammatory, and anti-allergic effects. This presentation will introduce research on the functional properties of phytochemicals in citrus fruits and spices.

    p-Synephrine is an alkaloid found in Citrus species and is widely used as a dietary supplement for weight loss, weight management, and enhancement of athletic performance. Several studies have demonstrated its anti-inflammatory effects. However, the specific cellular targets and detailed mechanisms underlying its anti-inflammatory effects remain unclear. This study aimed to investigate the anti-inflammatory effect of p-synephrine on macrophages, which play a key role in the innate immune response, and to elucidate the underlying mechanisms in vitro using mouse macrophage cell line, RAW264.7 cells. p-Synephrine significantly inhibited the production of proinflammatory cytokines in lipopolysaccharide-stimulated RAW264.7 cells. It is supposed that this anti-inflammatory effect is mediated by β-adrenergic receptors and attributed to the downregulation of the p38 MAPK and NF-κB signaling pathways.

    The anti-allergic effects of the compounds from spices such as coriander and cumin have been demonstrated in several studies. While many studies have focused on the lipid-soluble components in spices, our research has been directed toward the water-soluble components. For example, a hot water extract from the aerial parts of coriander was found to inhibit the degranulation of rat basophilic leukemia cell line, RBL-2H3 cells, and the active compound in the extract was identified. This compound is considered to be the primary contributor to the anti-allergic effect of the hot water extract.

    The development of functional foods based on phytochemicals holds significant promise for improving health conditions. However, several challenges must be overcome to fully realize their potential. These include demonstrating scientific efficacy through human trials, enhancing bioavailability, ensuring stability and safety, and addressing economic and consumer-related concerns. Collaborative efforts among researchers, food technologists, regulatory agencies, and industry stakeholders are essential to promote the development of functional foods that are safe, effective, and widely accessible. Accordingly, this presentation will introduce the industry-academia collaboration based on research into food functionality conducted at the Food and Health Function Research Center, Ehime University.

研究小集会①食品と水
  • 山本 和貴
    p. 49-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     山本和貴(やまもとかずたか)

     略歴:1994年 東京大学大学院農学系研究科博士課程修了、農林水産省入省・食品総合研究所配属;1997-1999年 スイス連邦工科大学チューリッヒ校博士研究員;2000-2002年 農林水産省農林水産技術会議事務局出向;2002年 独立行政法人食品総合研究所;2004年同所企画調整部食品高圧技術チーム長;以降、組織改編・再編・役職定年等を経て、現在、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 食品加工・素材研究領域 食品加工グループ 主任研究員。

     食品高圧加工[1]では、非熱的に、つまり熱を積極的に使うことなく、微生物制御が可能であり、新鮮な色、香り、栄養成分の変化を最小化した高品質加工が実現する。それ故に、肉製品、ジュース等の高圧加工食品は、世界的に市場が拡大する傾向にある。高圧処理により圧縮され、体積が減少して密度が最大化されるが、この際に、食品主要成分の水が重要な役割を果たす。水は、巨視的には、食品素材の空隙を埋めるべく浸透し、微視的には、分子間・分子内の空隙を満たし、食品成分を水和し、特に澱粉、蛋白質等の高分子については変性を引き起こす。これら一連の変化により、微生物制御が実現すると考えられる。一方、水分が少ない状態で高圧処理すると、巨視的には水で満たされることなく空隙が潰れ、微視的には不十分な水和のために蛋白質等の変性が抑制される。

     微視的な事例としては、澱粉の圧力糊化[2]がある。高圧処理により圧力糊化が進行するが、水分含量が十分でないと糊化は起こらない。一方、十分な水の存在下では、温度・処理圧力が高い程、糊化し易い。圧力糊化澱粉においても、熱糊化澱粉と同様に、30-60 %の水分含量で再結晶化が進み、老化する。また、食品高圧加工における微生物制御の対象は細菌[3]であり、食中毒菌又は腐敗菌の殺菌/静菌が求められるが、微生物制御でも水が重要な役割を果たす。従来から処理方法を問わず、殺菌における水分活性の視点は重要であるが、同じ水分活性でも溶質の種類によって高圧殺菌の効果は異なる。また、清涼飲料水等のように、水分含量が99 %以上と高いと比較的殺菌しやすいが、肉類等の水分含量が60 %近傍では、分子クラウディングの視点から興味深い知見が得られる。高圧殺菌に限ることではないが、殺菌しても死滅せずに損傷菌として生残する場合があるので、注意が必要である。損傷菌の発生及びその回復の視点を踏まえて評価しないと、殺菌効果を過大評価してしまう可能性がある。

     巨視的に観察できる事例として、液体含浸がある。「高い圧力で押し込めば、水は食品素材の中にまで入る」と考えられがちであるが、実は、高圧処理だけでは水は十分に含浸しない。水は、むしろ脱気処理の方が効率的に含浸される。脱気処理後に高圧処理すると、更に効率的な液体含浸が実現する。野菜果実によっては、水に浮くもの沈むものがあるが、リンゴのように浮くものは空隙率が高く、ニンジンはその逆である。リンゴまたはニンジンを色素液に入れ、脱気密封後に高圧処理すると、200 MPa以上ではいずれも顕著に組織が破壊されて食感が損なわれるが、リンゴの方が顕著に損なわれる[4]。

     ここでは、微視的・巨視的視点から事例を挙げ、食品高圧加工における水の役割について概説する。

    1. Yamamoto K, Biosci. Biotechnol. Biochem., 81(4), 672-679 (2017).

    2. Kawai K, et al., Carbohydr. Polym., 87(1), 314-321 (2012).

    3. Yamamoto K, et al., Food Eng. Rev., 13, 442–453 (2021).

    4. Gao M, et al., High Press. Res., 43(2), 142-155 (2023).

研究小集会②卵
  • 児玉 大介
    p. 50-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/09/02
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    【講演者の紹介】

     児玉 大介(こだま だいすけ): キユーピー株式会社 研究開発本部 未来創造研究所 機能素材研究部 

     略歴:2008年 名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物工学専攻修了,同年 キユーピー株式会社入社,研究開発(ファインケミカルの商品開発,タマゴ・マヨネーズの基礎研究),グループ会社出向(工場,営業戦略室,経営企画室)を経て2021年より現職, 研究に加えて五ツ星タマリエの資格を活かし卵の認知啓発活動にも取り組む.

     キユーピーグループでは,卵アレルギーに不自由のない世界を実現したいという想いで、様々な研究に取り組んでいる.今回は,ゲノム編集技術を活用した「オボムコイド(鶏卵の主要なアレルゲン)を含まない卵(以下,アレルギー低減卵)」に関する研究を紹介する.

     食物アレルギーの原因食物は,第一位の鶏卵が約27%を占め,木の実類,牛乳,小麦がこれに続く.鶏卵のアレルゲンとなる物質は,主に卵白に含まれるタンパク質(オボアルブミン,オボトランスフェリン,オボムコイド,リゾチームなど)である.オボムコイド以外のタンパク質は熱に弱いため,十分に加熱すればアレルゲン性が低下するが,オボムコイドは熱にも消化酵素にも強く,加熱調理等の加工を施しても,アレルゲン性が失われない.そこで,オボムコイドを含まない鶏卵ができれば,加熱処理した本鶏卵または本鶏卵を使用した卵加工品であれば,卵アレルギーの方でも食べられるのではないかと考え,2013年から広島大学とゲノム編集を活用したアレルギー低減卵の基礎研究を開始した.ゲノム編集ツールは,広島大学が開発したプラチナTALENを用いることで,オボムコイド遺伝子のみをピンポイントで働きを止めることに成功し,アレルギー低減卵を作出することができた.

     2022年より国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による産学連携プログラム「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の「共創分野(本格型)」に採択され,応用研究を進めている.2023年には共同研究パートナーである独立行政法人国立病院機構相模原病院が提案した「重症鶏卵アレルギー患者におけるアレルギー低減卵の臨床的安全性の検証」が,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した令和5年度「免疫アレルギー疾患実用化研究事業」に採択され,臨床研究が進んでいる.

     アレルギー低減卵の物性・加工適正に関しては,広島大学・東京農業大学との共同研究で分析を行っており,通常卵と比較して食感などに若干の違いはあるものの,十分な調理・製菓適性を有することを確認している.さらに,現在は特に製菓メニューの検討を進めており,アレルギー低減卵を用いることで,通常卵と同等のおいしさを有しながら,アレルゲン性が大幅に低い菓子(クッキー,プリン等)を開発できる可能性を確認している.なお,オボムコイドはプロテアーゼインヒビターの機能を有することから,微生物リスクに対して評価を行ったところ,殻付卵・液卵において,オボムコイドの有無による静菌性の差は確認されなかった.

     社会実装に向けては,ゲノム編集技術に対する社会コミュニケーションなども含めて多くのハードルがあると考えているが,卵アレルギーに不自由のない世界の実現に向けて,今後も引き続き協働パートナーと研究を進めていく.

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