日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第71回 (2024)
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シンポジウムA1:おいしさ設計の基盤となる味と匂いの先端科学
香りのデジタルトランスフォーメーションによる食品風味設計の高度化
*伊地知 千織
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p. 14-

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抄録

    【講演者の紹介】

   伊地知 千織(いじち ちおり)

    略歴:1994年 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了,同年味の素株式会社入社 中央研究所・医薬研究所にて医薬部門の基盤技術開発,肝疾患・生活習慣病の探索薬理に従事,薬事部にて海外薬事に従事.2014年よりイノベーション研究所,2019年より食品研究所にて味嗅覚生理研究に従事

    専門分野:分子生物学,生理学,薬理学

    香りは食品の重要な要素であり,味,食感と共においしさを構成する重要な要素である.食品風味設計においては,これまで食品に含まれる香気成分の精密な分析と精緻な官能評価によりその特徴や機能が記述され,活用されてきた.私たちはそれに加えて,嗅覚受容体(OR)活性を指標とする香りのデジタル化を基盤とした食品風味設計の高度化・自動化を可能にする技術開発を進めている.

    そのコア技術として,食品添加物として認可されている匂い分子(物質)を中心に約3000種の匂い分子に対するヒトOR活性プロファイルを取得し,それらの分子構造や物理化学的特徴,匂いの記述子の情報を関連付けたデータベース(以下,「嗅覚DB」)を構築した.

    食品の複合的な香りをOR活性プロファイルによりデジタル化し,数理解析および当社独自の「嗅覚DB」との連携により,以下のような技術開発を行ったので紹介する.

    1)オフフレーバーマスキング物質探索

    食品のオフフレーバー分子とそれが活性化するORを同定し,その組み合わせによるOR活性を阻害する物質を香料群の中からスクリーニングした.阻害活性を示した物質のオフフレーバーマスキング機能を官能で評価したところ,マスキング機能を有する物質が見出された.

    2)商品比較 ORマッピング

    様々なフレーバーのグミ23種のOR活性プロファイル(352次元)を取得した.これを主成分分析に供した結果,第1主成分(寄与率12.6%,シトラス-フルーツ),および第2主成分(同8.6%,フレッシュ-完熟)が得られ,各商品の香りの特徴を反映したマップを構築できることが示された.さらに各商品の特徴に寄与するOR活性を判別し,それに紐づく香りの記述子や成分を嗅覚DBから抽出できる可能性を示した..

    3)商品比較 嗜好性+ORマッピング

    国内外のインスタントコーヒー8種のOR活性プロファイル(352次元)を取得した.これを当社独自の嗜好性評価・解析技術「AJI-PMap®」に供した結果,各商品と消費者の嗜好点を反映した嗜好空間において嗜好と相関するOR活性35軸を得た(p < 0.01).さらにこれらの活性化成分を嗅覚DBから選択できる可能性を示した.

    この技術開発により減塩・減糖など健康ニーズやサステナブルな社会の実現を満たしながら,おいしさを保つ風味設計を可能にするだけでなく,嗅覚DBを様々なデータと連結することにより,飲食の価値を最大化する風味設計技術の開発を目指している.

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