日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第71回 (2024)
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シンポジウムB1:健康寿命の延伸に向けて~サルコペニア・フレイル対策の現状と未来~
オリーブ果実由来マスリン酸の機能性と食品素材開発
*山内 優輝
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p. 191-

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抄録

    【講演者の紹介】氏名:山内 優輝(やまうち ゆうき)株式会社ニップン ヘルスケア事業部 略歴:2010年 日本製粉株式会社入社(現・株式会社ニップン)2023年 筑波大学大学院 理工情報生命学術院 生命地球科学研究群 博士課程修了(博士(食料革新学))

    日本は世界に先がけて超高齢社会を迎えており,世界有数の長寿国である.その一方で,「健康寿命」と「平均寿命」の差が問題となっており,元気に自立して過ごすことのできる期間を延ばすことが求められている.自立した日常生活を送り続ける上で,心身機能の維持及び向上は不可欠であり,筋肉や筋力は重要な要素の一つである.サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の減少、筋力もしくは身体機能が低下する状態のことを指し,日本人を含むアジアの疫学データをもとにしたAWGSでは,サルコペニア判定指標を筋力,身体機能および骨格筋量と定義している.

    1960年代,地中海沿岸地域に住む人々を対象に大規模コホート研究が行われ,心臓疾患や食事に起因する慢性疾患の発症率が世界で最も低いことが示された.この研究から,地中海式食事法が注目され,演者らは特にオリーブ果実に着目,慢性疾患の原因の一つである“炎症”を抑制する成分をスクリーニングした結果,抗炎症成分としてトリテルペン類の一種であるマスリン酸を同定した.さらに独自技術で食品工場の副産物であるオリーブ油搾り粕から希少成分マスリン酸を高含有する機能性食品素材の製造に成功した.マスリン酸は植物界に存在するワックス成分であり伝統的なアジア医学で使用されている薬草から地中海の食事に含まれる野菜や果物に至るまで,さまざまな天然資源に含まれ,食経験が豊富である.加えて,演者らはオリーブ果実由来マスリン酸の安全性を健常な日本人男女者を対象にしたヒト過剰摂取試験により評価している.

    演者らは,マスリン酸の健康機能について基礎研究からヒト臨床研究まで産官学連携のもと検討を行い,筋肉量及び筋力の維持向上,膝関節の違和感の軽減や,運動後の疲労感及び筋肉痛の軽減等を明らかにしてきた.本シンポジウムでは筋肉への有用性に焦点を当て,日本で初めてマスリン酸を関与成分とする「筋肉をつくる力のサポート」が期待できる機能性表示食品の開発に至ったヒトでの有用性評価とそのメカニズム検討について紹介する.

    ニップンでは食品製造で生じる粕や副産物を「もったいない」と捉え,それらを活用して健康成分を利用した機能性素材を開発している.2022年には食品廃棄物のリサイクルフローを構築している点や,抽出された成分が持つ健康機能を評価する技術に対し,「第9回食品産業もったいない大賞・農林水産省大臣官房長賞」を受賞した.今後も食品産業で排出される副産物や粕を有効活用し,持続可能な社会の実現に向けた素材開発を通して,人々のウェルビーイング(幸せ・健康・健康)を追求したい.

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