日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第71回 (2024)
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シンポジウムB2:「地域食品研究のエクセレンス」 (全国食品関係試験研究場所長会・農研機構食品研究部門・産官学連携委員会共催)
石川県産食材を用いた外形が維持された簡便な軟化食材製造方法の開発
*武 春美
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p. 24-

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抄録

【講演者の紹介】

 武 春美(たけ はるみ)石川県工業試験場 化学食品部 食品加工技術研究室 研究主幹

 略歴:2006年金沢大学大学院自然科学研究科修了,同年, 石川県工業試験場に入庁.2023年より現職

 研究分野:食品化学,食品加工

 著書など:特許第7093088号「外形が維持された軟質食品素材の製造方法」(ヤクルト薬品工業株式会社と共同出願)

 高齢化社会において,摂食・嚥下障害者の増加により,噛む力・飲み込む力が弱くなった高齢者に向けた「食べやすさに配慮した食品」が求められている.石川県内においても,高齢者施設や病院等では,摂食機能に合わせて健常者食の形状を変化させた「刻み食」や「ペースト食」等が取り入れられてきた.しかし,このような高齢者向けの食事は,食べやすさが重視されるため,喫食できる食物の形態が限定されることに加え,見た目も良くないため,QOL(quality of life)が低下する原因となっている.一方,高齢者の健康維持には,多様な食品の摂取が有効で,高齢者に親しみのある地域産物などを献立に取り入れることが,QOLの向上に繋がると期待される.そこで,本研究では,石川県産食材の高齢者用ソフト食への利用促進するため,中小規模の食品製造業者に向けた食材の外形が維持された軟化食材製造方法の開発を検討した.

1.食材の外形が維持された軟化食材製造方法の検討

 石川県産食材について,常圧下で酵素及びミネラル成分の利用により,特殊な設備の導入と高度な技術習得を必要としない簡便な軟化食材製造方法を確立し,食べやすさに配慮した食品の規格であるUDF(ユニバーサルデザインフード)の規格基準を満たす軟化食材の製造方法を確立した.

2.食材の外形が維持された軟化食材製造方法の応用展開

 ①漬物への利用

 石川県産伝統発酵食品由来の機能性乳酸菌を用いたソフト漬物の製造方法を検討した.その結果,漬物製造に有用な菌株の選定を行い,選定した菌株により得られた漬物を酵素処理することで,UDF規格基準を満たすソフト漬物を製造する方法を確立した1).

 ②レトルト食材への利用

 レトルト殺菌の前処理条件を検討した結果,軟化に有効な加熱及び酵素処理条件を見出した.レトルト殺菌後でも食材の外形を維持し,UDF規格を満たすレトルト軟化食材製造方法を確立した2).

 本研究により確立した食材の外形を維持したまま硬さを調整できる軟化食材製造技術は,専用設備の導入と特別な技術習得を必要としない方法であり,県内の中小規模の事業者が高齢者など食べやすさに配慮した人に向けた食品を製造する方法として活用できる.また,確立した軟化食材製造方法の利用促進のために,製造現場用マニュアルを作成し,本マニュアルについて個々の企業の状況に合わせた改良を支援することで加工技術の普及が期待される.特に,石川県産食材を利用し,介護施設等で提供することで,地域の高齢者QOLの向上にも貢献が期待される.

1) 「石川県の地域資源を利用したソフト漬物の開発」石川県工業試験場研究報告,第69号,23-27.

2) 「レトルト殺菌に適した高齢者向け県産根菜素材の前処理方法の開発」石川県工業試験場研究報告,第72号,44-47.

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