【目的】
地球温暖化, 地政学的不安定化などの要因が重なり, 小麦は価格高騰に留まらず輸入そのものができない事態が予測される.本リスクに対処するためには国産小麦の輪作穀物である大麦, とうきび, 大豆を混合したパンの実需拡大が有効であるが,これらの非グルテン含有穀物は混合比率を高めるとパンが膨らみにくくなり嗜好性が劣ってくる.筆者は大麦混合パンの膨化性阻害因子を明らかにし, 膨化性や嗜好性が従来パンと同等の" 20 %大麦粉+20 %全粒粉混合パン” を実用化した.本研究では穀物種類を大麦からとうきびや大豆へ拡げ,混合比率を20 %から30 %に拡大することを目的とした.
【方法】
達成手段として,粗大細胞壁破片を酵素(ヘミセルラーゼ,200 ppm, 1h)で微細化処理後,それらが取り込まれるグルテン連続相の伸展性補強を意図した多糖類の添加を試みた.配合条件は強力粉70 %,穀物粉30 %,塩1.5 %,砂糖6 %,ごま油4 %,液種酵母8 %, 水60-70 %とし,対照は強力粉100 %とした.穀物粉は大麦(キラリモチ,横山製粉), とうきび(コーングリッツ, 江別製粉),失活大豆粉(みたけ食品)を用いた.多糖類として①アルギン酸エステル(PGA, キミカ),②セルロースナノファイバ(日本製紙),③シロキクラゲ(ユニテックフーズ),④シトラスファイバ(鳥越製粉),⑤マンナンペースト(サン食品),⑥スピルリナ(DIC)を,各1 %添加した.製パン試験方法は,既報(NSKKK 69 (11) 2022, 71 (2) 2024)に従い,2斤山型食パンを調製後,膨化率測定および官能評価を行った.
【結果】
3種類の穀物粉は多糖類添加前の酵素処理条件下で異なった膨化率を示した.多糖類種類の影響としてPGAが高い膨化率を示したが,他5種類の膨化率改善効果はいずれも小さかった.無処理パンの嗜好性は劣ったが,複合処理パンのそれは許容できる範囲であった.