日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第71回 (2024)
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シンポジウムB4:AI・データサイエンスが変える食品・農業の近未来
PCによる機能性分子の設計
*中野 祥吾
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p. 36-

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抄録

    【講演者の紹介】

    中野 祥吾:略歴:2012年3月広島大学大学院理学研究科博士課程後期修了 (博士: 理学), 2012年4月〜2015年3月 ERATO浅野酵素活性分子プロジェクト 博士研究員, 2015年4月〜2021年3月 静岡県立大学食品栄養科学部 助教, 2021年4月から同 准教授, 現在に至る。この間に2021年10月〜2024年3月 JST「自在配列と機能」さきがけ研究者 (非常勤)

    近年の分子生物学・生化学と情報科学の融合研究の発展が著しい.例えばDeepMind社が開発した深層学習システムを基盤とするAIツールであるAlphaFold2は,これまで難しかったタンパク質立体構造の極めて高精度な予測を可能とし,タンパク質を応用利用する各分野に多大なインパクトを与えている.その他にも世界中の研究グループが様々なAIツールを開発しており,それらの多くはGithubやGoogle colaboratoryから無料で利用できるなど, AIを用いたタンパク質研究が身近なものになっている.今後は上記ツールを使いこなし,人工タンパク質分子をはじめとした機能性分子を自在に設計することが重要となる.  本発表では情報科学 (AIツールを含む) を用いて,機能性分子デザインに挑戦してきた研究や,その背景について紹介する.一例として最新のAIツールを用いた人工酵素のデザインや,これを用いた医薬品に代表される有用物質生産の現状について発表する.加えて発表者が開発してきたタンパク質バーチャル進化法「GAOptimizer法」についても紹介したい.本法は機能を向上させたい目的タンパク質とそのホモログ配列を入力データとし,「機能を向上させる有用変異点の同定」と,「遺伝的アルゴリズムを用いて多点の有用変異の組み合わせを最適化しつつ目的タンパク質に導入」することができるタンパク質デザイン法である. 本法は適応度関数依存的に選抜される変異の種類により,世代数依存的に導入される変異の数と質が決定される.つまり適応度関数と世代数を変更することで,目的タンパク質に異なる質と量を有する多点変異を,その組み合わせを最適化しつつ導入することが可能である.これまでに本法を用いて3つの異なる酵素の高機能化に成功している (H. Ozawa et al., Cell Reports Physical Science, 5(1), 101758, (2024)).  最後にAIツールを用いた人工タンパク質デザインは,「タンパク質アミノ酸配列 (文字列)」と「タンパク質立体構造 (ネットワーク)」を入力値とした機械学習を基盤としており,そのアルゴリズムやデザインの思想は,食品科学を含め広く応用利用できると考えている.発表と討論を通して,タンパク質工学と食品科学の融合研究の可能性についても考察したい.

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