造船産業では構造不況期と呼ばれた成熟期・衰退期を20年近く経た後に再び爆発的な成長期への再突入が生じたが,再び訪れた成長機会を当時もっとも資源蓄積に優れた大手企業はことごとく逃した。収益機会を逃した背景には成熟期・衰退期への戦略的適合がある。具体的には,①船価維持を狙った選別受注戦略(高付加価値船と良質な国内顧客に集中),②衰退期に適合的な収穫戦略(設備投資を回避し,過剰生産能力を縮小して船価維持),③多角化戦略(資源蓄積に優れる大手は積極的に陸上部門に多角化)の3つの戦略をとっていた。戦略の成功はことごとく裏目にでて,成熟期・衰退期への適合は成長期への逆突入の際に桎梏に変化した。①選別受注戦略の結果,国内顧客に集中し成長市場の顧客に目が行かなかった。②収穫戦略の結果,新規需要をとりこむ生産能力を失った。③多角化戦略の結果,造船部門の発言力が低下し設備投資による生産能力拡張が出来なかった。