Annals of Cancer Research and Therapy
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Transient Expression of c-myc Gene in Rat Colon Mucosa-Induced by Single Instillation of N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine and Deoxycholate
Hideo ImasekiHaruyuki HayashiMasanori TairaYasushi ItoSusumu KobayashiShigeru SakiyamaKaichi Isono
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1992 年 1 巻 1 号 p. 49-54,4

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抄録
ヒト大腸癌においてc-myc遺伝子の発現増大が認められ,さらに大腸ポリープにおいてその組織学的悪性度と発現量との間に正の相関が認められている.このことから大腸癌の発生と維持にc-mycの発現増大が密接に関与している可能性が考えられた.ラット大腸の化学発癌実験は,大腸癌発生過程の解析を行ううえで有用なモデルと考えられている.そこで先の仮説を実験的に検証するために,ラットの化学発癌モデルを用いて,発癌物質であるMNNGと発癌プロモーターであるデオキシコール酸注腸投与後の大腸粘膜におけるc-myc遺伝子の発現変化につき検討した.
6週齢の雄SDラットを用いてMNNG 17μmol,またはデオキシコール酸12μmolを注腸投与した.1回投与実験では,投与後経時的にラットを犠死せしめ,大腸粘膜を採取した.発癌実験では,MNNGを2週間連日投与し,さらにデオキシコール酸を30週間毎週1回投与した.33または43週目に犠死せしめ腫瘍を採取した.凍結保存した組織よりguanidinium isothiocyanate/CsCl法によりRNAを抽出し,ノーザンブロット法により各遺伝子mRNAの発現を検出した.
長期投与発癌実験:腺腫3例と腺癌12例よりRNAを抽出しノーザンブロット分析を行い,各遺伝子の発現量をデンシトメーターにより定量化した.図2に示すように,腫瘍におけるc-mycの発現は非癌部粘膜に比し1.8∼8.4(平均4.2)倍に増大していた.この結果はヒト大腸癌における結果(約6倍)とよく一致した.一方,c-fos, H-ras, ornithine decarboxylase (ODC)の発現増大は認められず,この結果もヒト大腸癌と同様であった.
1回投与実験:MNNG,デオキシコール酸投与30分後にc-fosの,さらに2∼4時間でc-mycの一過性の発現増大が認められた(図3).またデオキシコール酸投与ではこれらに加え,0.5∼2時間でODCの一過性の発現増大が認められた.
今回の検討により,ラットの化学発癌で発生した腫瘍においても,ヒト大腸癌と同様にc-mycの発現が増大していることが確認された.一方,検討した他の遺伝子の発現は,ヒトでもラットでも発現増大は認められなかった.これらの結果よりc-mycの発現増大は種を超えて認められる大腸腫瘍の特徴であり,その維持に重要な機能を果たしていることが考えられた.MNNGやデオキシコール酸により大腸粘膜においてc-mycをはじめとする数種の遺伝子の発現増大が認められたことより,発癌作用またはプロモーター作用には,これらの遺伝子の発現増大が関与していることが想像された.一方,発生した腫瘍においてはc-mycの発現のみが高いレベルに維持されていた.このことより,c-mycの発現増大が一過性のものから恒常的発現に変化する過程が,大腸細胞の癌化に重要なステップの一つとなっている可能性が考えられる.
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© by The Japanese Society of Strategies for Cancer Research and Therapy
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