Annals of Cancer Research and Therapy
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Effect of Perioperative Blood Transfusion on Prognosis of Gastric Cancer
Retrospective Evaluation Using the Proportional Hazard Model of Cox
Nobukuni TerataHaruo SanoMasashi Kodama
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1992 年 1 巻 1 号 p. 55-60,4

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抄録
1973年,Opelzらが腎移植において,手術前に輸血を行えば,移植腎の生着率が向上することを発表した.癌免疫学の分野でも輸血により同じような現象が起こり,担癌生体の予後をわるくするのではないかと考えられ,臨床例ではBurrowらが,最初の解析を発表した.ところが,その後の報告を見ると,輸血の予後に及ぼす影響の有無については,controversialである.これは,輸血の影響を解析しようとすると,retrospectiveな手法に頼らざるをえないことに問題があると考えられる.そこで,背景因子の片寄りによって生じるbiasを少しでも除外する目的で,Cox比例ハザードモデルを用いて,胃癌症例に対して輸血の影響に関する検討を行った.
[対象と方法]教室の1979年1月から89年12月にかけての,治癒切除が出来た胃癌247例について検討した.手術のために外科に入院している期間に全血あるいは濃厚赤血球輸血を受けたものを輸血群とした.輸血群は145例,非輸血群は102例であった.生存曲線はKaplan-Meier法で求め,有意差はlog-rank法およびgeneralized Wilcoxon法で求めた.多変量解析は,Cox比例ハザードモデルによりSASを用いてコンピューターで解析した.
[結果](1)全症例における生存率の解析では,輸血群の5年生存率は63.9%であり,非輸血群のそれは86.4%であった.有意に輸血群で生存率の低下が観察された(log-rank試験:p=0.0040,generalized Wilcoxon試験:p=0.0014).(2)この全症例において,輸血の予後にあたえる因子としての重みを検討する目的で,Cox比例ハザードモデルを適用してみた.輸血はここでは有意に予後を決定する因子ではなくなった.その理由として,非輸血群にstage I症例が片寄ってあまりにも多く含まれており,その因子としての独立性が失われたためと考えられた.(3)そこで,stage II,III,IV症例において生存率を検討すると,やはり輸血群において生存率の低下が観察され(log-rank試験:p=0.0177,generalized Wilcoxon試験:p=0.0057),背景因子では,年齢,腫瘍径,合併切除臓器に片寄りがあった.(4)stage II,III,IV症例でCox比例ハザードモデルによる解析を行うと,輸血は,ps,切除範囲についで予後を左右する因子であることがわかった.(5)輸血量はどのくらいのところで線を引けば,その量の上下の検定で有意差が出るかを調べた。輸血量の増加に従って,log-rank試験のp値の低下がみられ,900ml以上で5%程度の有意水準が得られた.
[結論]輸血の担癌患者に与える影響の研究は理想的には,retrospectiveなアプローチでなく,randomized control studyを組むべきであろうが,倫理的にそれは不可能であり,その点では,多変量解析は背景因子の片寄りを補うことが出来,この種の解析に有益であった.また,輸血量の解析から,少しでも輸血を減らす努力が必要であることが,再確認された.
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© by The Japanese Society of Strategies for Cancer Research and Therapy
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