2026 年 62 巻 2 号 p. 42-50
深海は,圧力・温度・光条件などが地上とは大きく異なる極限環境である。「深海インスパイアード化学」は,深海の博物学的知見から自然の普遍原理を抽出し,その着想をもとに新たな材料科学やプロセス設計の原理を拓くことで,海洋利用を資源経済から知識経済へと転換する新しい科学的枠組みである。本稿では,その理念のもとで展開してきた,圧力により秩序-無秩序転移を可逆的に制御できる高分子材料(バロプラスチック),深海熱水噴出孔の動的高温環境に着想を得たナノ乳化プロセス(monodisperse nanodroplet generation in quenched hydrothermal solution, MAGIQ) および乳化多糖の連続生産技術,さらに深海微生物の生存戦略に学んだ高感度酵素反応解析法(surface-pitting observation technology, SPOT) を概説し,深海環境の原理が材料設計や反応工学に応用可能であることを示す。