2020 年 26 巻 1 号 p. 1_40-1_45
本稿の第一著者は、脚本家である自身の専門性から発想し、地域資源の記録とその魅力の発信を目的とした映像制作を研究テーマとしている。本稿で省察の対象とする短編映画「Missing」(図1)の制作にあたり、二度にわたる大災害により伝統的な風景を喪失した福井県を舞台にする上で、ドキュメンタリー映像の手法による景観の描写は、魅力ある景観資源の映像化を目指す立場にとっては不利な選択であった。むしろ「今ある福井県の景色をモチーフにしながら、失われた風景を想う映像を記録する」表現を試みることが効果的と考え、その表現手法として「物語」を導入した短編映画の形式が有効であると判断した。そこで「喪失と再生」をテーマとしたストーリーを作成し、現実と虚構が入り混ざる「時間」が映画の中で幾重にも重なる多層的な時間構成の映像表現により、地域資源の映像化を試みた。