抄録
ステンレス鋼は核融合炉システムの主要構成材料であり、トリチウム(T)の放出・透過は重要な問題である。当センターのこれまでの研究で、SUS316ステンレス鋼からは室温においても長期間Tが放出されること、主な放出化学形が水蒸気状であること、表面にT濃縮層が形成されること等を見出した。そこで、Tの放出・透過機構の理解には酸化膜中での挙動解明が不可欠と考え、本研究ではX線光電子分光法により酸化膜中のOH-の挙動を調べた。自然酸化膜中には大量のOH-が存在したが、真空加熱するとその濃度は減少し、400℃でほぼ消失した。300あるいは400℃で1.2 kPaのH2ガスに曝露したが、OH-の生成は見られなかった。この温度・圧力でTガスに曝露すると、速やかな吸収と表面T濃縮層の形成が生じる。従って、T濃縮層の形成は、Tと酸化膜との単純な化学反応によるOT-の形成では説明できないと結論した。