抄録
原子炉構造材料の中性子照射による損傷をイオン照射で模擬することの妥当性は長い間議論されてきた問題である。照射イオンとして使用するプロトンの材料中への残留はその中の一つであり、水素の残留は被照射試料の硬度試験に大きな影響を与える可能性がある。そこで本研究では、ステンレスにプロトンを注入し、放出されずに試料中に残留した水素の量を弾性反跳粒子検出法によって測定した。50 keVのH2+イオンを、鏡面研磨された試料面垂直方向に対して70°の方向から照射した。電流量は、ビーム垂直方向の断面で5 μA/cm2、照射時間は50分間とした。注入時の試料温度は80℃以下であった。その結果、ステンレスへ注入された水素は検出限界以下の濃度まで放出されることが分かった。