糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: DL-5
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レクチャー:糖尿病の成因と病態の解明に関する研究の進歩(2)
UCP1遺伝子導入による肥満・糖尿病に対する治療法開発の試み
*片桐 秀樹
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抄録

肥満・糖尿病患者の増加が注目を集めているが、その治療法としては現在でも食事療法や運動療法が中心である。これらの病態ではインスリン抵抗性やレプチン抵抗性がその発症に関与している。そこで我々は、モデル動物に肥満・糖尿病を発症させた後、エネルギー消費に関わる蛋白を発現させ、これら病態の発症機構や治療効果について検討した。
脱共役蛋白UCP1(uncoupling protein 1)は、褐色脂肪細胞でエネルギーをATPに合成することなく熱として放散させる分子として知られ、またその遺伝子多型と2型糖尿病の関連についても報告されている。そこで、まず、高脂肪食により肥満・糖尿病を発症させたマウスの肝臓にUCP1遺伝子を導入したところ、約13%のエネルギー消費の亢進がもたらされた。肝臓では、AMPKが活性化・SREBP1cの発現抑制による脂肪肝の改善が認められ、さらに、このような肝における局所効果のみならず、内臓脂肪組織の脂肪蓄積の減少やレプチン抵抗性の改善といった多臓器における代謝改善効果が認められた。その結果、肥満・糖尿病・高脂血症の改善といった著明な治療効果が観察された。一方、標準餌にて飼育している非肥満・非糖尿病マウスに対しては、肝臓へのUCP1発現導入にてもエネルギー代謝は亢進せず、そのため体重や血糖値、肝や内臓脂肪組織の脂肪蓄積量にも影響を認めないという結果が得られた。このことから、肝臓内に発現した異所性UCP1は、エネルギーバランスを感知し、余剰カロリーのみを効果的に消費するが、必要カロリーについては影響を受けにくいという機序が示唆された。このことは実際の治療への応用を考えた場合、非常に好ましい結果であると考えられる。
次に、肥満・糖尿病の病態発症後の腹腔内脂肪組織におけるUCP1遺伝子導入を行ったところ、さらに強力な治療効果が認められた。高脂肪食負荷にて肥満・糖尿病を発症させたマウスの副睾丸周囲脂肪組織に組換えアデノウィルスを用いてUCP1の発現導入を試みたところ、その発現は局所的・限定的であり、全身のエネルギー消費量には有意な増加を認めない程度であったにもかかわらず、体重増加は抑制され、血糖値・血中脂質値の有意な低下、血中インスリン値・レプチン値の著明な低下を認めた。また、糖負荷試験・インスリン感受性試験・レプチン感受性試験にて、耐糖能・インスリン抵抗性・レプチン抵抗性の著明な改善が観察された。しかし、興味深いことに、皮下脂肪組織へのUCP1遺伝子導入においては、同様の発現が得られたにもかかわらず、これらの治療効果はほとんど認められなかった。このことから、腹腔内脂肪をターゲットとし、そのキャラクターを改善させる事が、メタボリックシンドロームに対する有効な治療になりうることが示唆された。
以上、本レクチャーでは、肥満・糖尿病において、細胞におけるエネルギー消費を亢進させることによる全身代謝に与える影響や病態への関与と、それを応用した新規治療法開発の可能性ついて論じてみたい。

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© 2005 日本糖尿病学会
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