糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: LS-9
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ランチョンセミナー
インスリン治療の医療経済
*大石 まり子
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キーワード: 医療経済
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抄録

医療技術の進歩、慢性疾患の増加に伴い医療にかかる費用は増加し続けている。一方、医療にかけられる費用は限られており、効率の良い有効な使い方が求められている。 医療経済学とは医療活動の経済的アウトカムを評価するものであり、その目標は疫学データやエビデンスとなる研究成績をもとに医療資源をもっとも効率よく配分する方法を探ることである。しかし、臨床研究で明らかにされるのは治療の一部であり、その効果は厳密に管理された条件下で観察されるものである。現実の医療では、患者の不十分な治療遵守や治療中断など、種々の要因により治療効果は減弱するのが常である。 医療活動のプレイヤーは支払者(行政)、医療提供者(医療機関)、消費者(患者)の三者であるが、しばしば三者間の利害は対立する。それぞれの立場にとっての糖尿病医療費、そして公平な社会の立場から見た糖尿病医療について、インスリン治療を中心としたいくつかの研究成績をもとに紹介する。 糖尿病医療費は、合併症を含めると2兆円を越していると推測され、単一疾患としては最も費用がかかっていると考えられる。糖尿病医療費を上げる要因は合併症と患者数の増加である。近年の調査で糖尿病患者および予備軍の増加は明らかであり、行政にとっても糖尿病予防対策は急務であり、医療費抑制への圧力も強くなっている。一方患者にとっては、自己負担金のみが医療費と感じられる。自覚症状の乏しい2型糖尿病では自己負担金の増加は受診率を低下させることが報告されている。その結果は治療中断による合併症の進行であり、将来の医療費を増大させる。 糖尿病は生涯にわたる継続治療が必要である。治療ガイドラインは、医療経済的には最適で効率の良い医療を展開するスタートラインと考えることができる。必要な検査、必要な治療を適切な時期に実施する指標である。インスリン治療においては、インスリン強化療法が健康改善効果とともに、費用効率のよい治療法であることが示されている(熊本スタディ)。 近年、医療活動と時間を管理し、治療効率を上げるクリティカルパスや、糖尿病の予防、そして診断から治療までを総合的に管理する「疾病管理」の考え方が導入されつつある。これらの経済的評価については不十分で未知数とはいえ、医療の質を保ちつつ、望ましい経済的アウトカムを達成するためには質の高い臨床研究と医療提供システムの構築が期待される。

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© 2005 日本糖尿病学会
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