糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: BL-2
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レクチャー:糖尿病の成因と病態の解明に関する研究の進歩(1)
1型糖尿病発症機構の解明:遺伝因子からのアプローチ
*池上 博司
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抄録

1型糖尿病は自己免疫性と特発性に分類される。自己免疫性は免疫学的機序により膵β細胞が破壊されて発症する臓器特異的自己免疫疾患である。本講演では自己免疫性1型糖尿病に関して、特に遺伝因子の側面から見た成因と病態に関する最近の知見をお話したい。
主シグナル:主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(IDDM1
1型糖尿病は遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用により発症する多因子疾患である。遺伝因子は複数の疾患感受性遺伝子により構築されており、なかでもMHC(ヒトではHLA)領域の疾患感受性遺伝子(IDDM1)の影響が最も強い。HLAの中でもクラスIIのDRおよびDQ遺伝子が疾患感受性に強く関与するが、それに加えてクラスI領域の第2の遺伝子が疾患感受性や発症年齢を修飾し、IDDM1が複数のコンポーネントより構成される遺伝子複合体であることが明らかとなっている。クラスII MHCは自己抗原の提示により自己免疫開始のシグナルとして、クラスI MHCは標的細胞破壊の際のシグナルとして膵β細胞傷害に関与する可能性が考えられる。
副シグナル: CTLA4(IDDM12
免疫反応はMHCによる抗原提示を介する主シグナルと、これを正あるいは負に調節する副シグナルによって巧みに調節されている。負の副シグナルが障害されると免疫抑制が不十分となり、自己免疫の疾患感受性が高まることが予想される。負の副シグナルに関与する代表的な遺伝子CTLA4の多型が、mRNAのサブタイプの量的変化を介して1型糖尿病ならびに甲状腺自己免疫の感受性に関与することが報告されている。免疫系の抑制に関与する細胞内シグナル伝達の修飾分子PTPN22SUMO4Cblbがいずれも1型糖尿病に関与することも報告されており、抑制性シグナルの異常が自己免疫発症において重要な役割を担っていることが示唆される。
自己抗原と免疫寛容:インスリン遺伝子(IDDM2
膵β細胞のみに発現すると考えられていたインスリンが胸腺にも発現していることが明らかとなっている。インスリンに限らず自己免疫疾患の標的抗原はすべて胸腺細胞に発現しており、これと反応する自己反応性T細胞を除去することによって免疫学的寛容の維持に寄与しているものと考えられる。インスリン遺伝子領域のIDDM2は胸腺におけるインスリンの発現低下を介して1型糖尿病発症に関与することが示唆されている。

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© 2005 日本糖尿病学会
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