抄録
消化器病領域では、肝炎ウイルスやHelicobacter pyloriなど感染症を基盤とした疾患の病態解明および治療に一応の目処がたった今日、生活習慣に基づく疾患研究が大きなテーマとなってきている。なかでも食習慣の変化による疾患構造の変化は著しい。いわゆるメタボリックシンドロームに伴う肝障害としては肝細胞の脂肪化が挙げられる。とりわけ脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH, non-alcoholic steatohepatitis)の発症が注目されている。このNASHからは肝硬変さらに肝細胞がんへの進展が示唆されている。欧米ではNASHにおける肝臓移植が重要な課題となっている。また、本邦で150万人とも200万人ともいわれるC型肝炎患者にみられる肝細胞の脂肪化が、線維化などの促進因子となり、インターフェロンへの抵抗性と関連し、肝硬変や肝細胞がんへの進展に強く係わっている。 肝細胞の脂肪化には、以前より内臓脂肪蓄積による門脈からのFFA流入増大など複数の要因が係わることが知られているが、adipocytokineの役割も明らかにされてきている。脂肪肝やNASH患者では内臓脂肪面積の増大を認め、血中adiponectin減少が観察されている。これらの臨床観察はadiponectinノックアウトマウスを用いた実験により一部で裏付けられている。 NASHでは肝細胞の脂肪化に加えて、好中球などの炎症細胞浸潤や線維化が出現する。脂肪肝からNASHへ進展するメカニズムは明らかでなく、その進展は必ずしも肥満の程度には依らず、促進因子として酸化ストレスの関与など複数の仮説がある。本邦ではNASHから肝硬変、肝細胞がんへと進展する症例は欧米に比較すると少数であるが、今後増加する兆しは十分にある。また、肝細胞の脂肪化はC型肝炎の進展における危険因子としても臨床上きわめて重要である。 本シンポジウムではメタボリックシンドロームの一分症である肝細胞の脂肪化による臨床像、病態についてお示し、症例によってはメタボリックシンドロームにおける肝障害が生命予後にかかわることを強調したい。