抄録
循環器領域で問題となっている急性冠症候群は、血管内膜に形成された不安定プラークの破綻、血栓形成、血管内腔の閉塞が重要な疾患原因となっている。プラークの形成には糖尿病、高血圧、高脂血症などの動脈硬化の危険因子が関わっており、これらが血管内皮細胞を障害することによりプラーク形成が促進される。その際、炎症性細胞が活性化されることもプラーク形成に大きな役割を果たしており、心血管イベントの独立した因子として血中CRP値が高いことが指摘されている。 血管内皮細胞の機能には内皮由来のNO、EDHF(内皮由来過分極因子)による平滑筋の弛緩作用、血管拡張がある。内皮機能が良好であれば、接着分子は発現せず、単球の接着も起こらない。また線溶系においてもt_-_PAが生産され、PAI_-_1などの血栓形成に働く因子の産生は低下している。ところが血管内皮細胞に酸化ストレスが加わるとNO、EDHF等の産生低下により血管が収縮し、接着分子の増加から単球の接着が起こり、血栓形成へと進む。このように血管内皮機能が炎症を規定していることから、血管内皮・平滑筋の機能不全を「血管不全」と捉えて疾患との関連を見て行きたい。 血管不全の危険因子として糖尿病が重要視されるが、糖尿病発症前または発症早期の病態の特徴である食後高血糖も、活性酸素の産生を亢進し血管内皮細胞への酸化ストレスを増大させる。過剰な活性酸素の産生を亢進し血管内皮細胞への酸化ストレスを増大させる。過剰な活性酸素は酸化LDLを増やし、マクロファージによる貧食から不安定プラーク形成を促す。そのため、食後高血糖が繰り返されることによる血管不全の発生から心血管イベントの発症が懸念される。 欧州で行われたDECODE studyでは、空腹時血糖値が正常でも経口ブドウ糖負荷試験2時間値が140~200mg/dLの境界型の段階から心血管イベントによる死亡リスクが上昇していることが判明し、食後高血糖コントロールの重要性が示唆されている。 軽症2型糖尿病の食後高血糖抑制に有用なナテグリニドやα_-_グルコシターゼ阻害薬を用い、血管内皮機能に及ぼす影響を試験したところ、血流依存性弛緩反応の改善、接着因子のVCAM_-_1濃度および高感度CRP濃度の有意な低下を認め、食後高血糖のコントロールが血管不全の予防に有効であるという成績を得ている。 EDHFの候補因子であるEETが膵β細胞でGPR40受容体を介してインスリン分泌を促進することも明らかになり、血管内皮と糖尿病発症の関係も注目されている。 本講演では、血管不全の予防・治療が心血管イベント発症の抑制に重要という観点から、糖尿病と血管不全、食後高血糖治療の意義を明らかにしたい。