糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: CL-15
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レクチャー:糖尿病療養指導に必要な知識(3)
周術期の血糖管理
*河村 孝彦
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抄録
糖尿病患者は易感染性宿主(コンプロマイズドホスト)の一つにあげられ、感染症に罹患しやすいうえ、感染を併発すると遷延化、重篤化しやすい。易感染性の原因には高血糖に起因する脱水、好中球機能の低下、糖尿病性血管合併症の存在などが考えられている。糖尿病患者が感染を併発すればカテコラミンなどの拮抗ホルモンの上昇で血糖コントロールは乱れるため、シックデイとして水分、栄養の補給に加え血糖管理が必須とされる。一方、手術といった強いストレス状態でも同様に血糖コントロールは乱れ、手術の侵襲による生体防御の破綻と高血糖が相まって易感染性は一層増強する。そのため周術期の血糖管理は感染併発を始めとする術後の経過や予後に大きく影響することになる。心臓外科手術後の患者を対象とした研究で、血糖値が220mg/dlを越えた症例では約30%に感染の併発を認め、220mg/dl以下に比べその危険性が約3〜6倍に上昇するとの報告がある。このような報告もふくめ従来は周術期の血糖値が200〜220mg/dlを越えないようにすることが一般的とされていた。しかし、ICUにおいて糖尿病の有無にかかわらず、強化治療により血糖を80〜110mg/dlに管理した群では180〜200mg/dlの群に比し、術後の死亡率が有意に低下し、その原因にもなる敗血症など重篤な感染併発も約46%に低下したとの報告がなされた(N Engl J Med 345: 1359, 2001)。 さらに最近ではICUで治療をうけた多数の患者の分析から、血糖値の集中的なモニタリングを行い、血糖値が140mg/dlを越えた時点からスライディングスケールによってインスリンの投与を行い、血糖値を80〜110mg/dlにコントロールすることで死亡率、腎不全発生率、輸血の必要性などが低下、またICU在室期間の短縮も得られたとの報告がある。これらの報告はICUという特殊病態下での重症患者における血糖管理のあり方について、新たな方向付けを行うものである。しかし、一般的な周術期の血糖管理についてもより正常に近い、厳格な血糖コントロールを行うことが感染症の併発や術後経過の改善、さらには在院日数の短縮につながることは確かと言えよう。厳格な血糖管理では低血糖対策など十分な注意が必要なことは言うまでもないが、今後、周術期の血糖管理については見直される必要があるものと思われる。
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© 2005 日本糖尿病学会
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