アフリカレポート
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Lindsay Whitfield, Ole Therkildsen, Lars Buur, and Anne Mette Kjaer, The Politics of African Industrial Policy ――A Comparative Perspective――. Cambridge: Cambridge University Press 2015 343+xi p.
武内 進一
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2017 年 55 巻 p. 107

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特定産業育成のための政策介入――すなわち、産業政策――は、近年アフリカ開発をめぐる議論の中心的論点となっている。1980年代以降の経済自由化路線のなかで産業政策は否定されてきたが、2000年代に入る頃から経済発展における国家の役割が再評価され、産業政策の必要性についての認識が一定程度共有されるようになった。

本書は産業政策の必要性を前提として、それが成功する条件を検討する。本書の特徴は、産業政策の成否を政治権力構造から説明するところにある。カーン(Mushtaq Khan)の政治的決定(political settlement)論に基づく本書の枠組みは、支配エリート、国家官僚、ビジネスセクター(特に民族資本家)という3つのアクターに着目する。そして、支配エリートと民族資本家が特定産業育成の利益を共有できるか、支配エリートが国家官僚による効率的な政策介入を保障できるか、国家官僚の政策介入によって分配されたレントを民族資本家が生産性向上のための学習へと振り向けることができるか、という3点を産業政策成功にとってのカギと見る。

モザンビーク、タンザニア、ガーナ、ウガンダが検討対象とされ、それぞれ製糖業と漁業、小農による米作と輸出向け製造業、ココア生産とパームオイル製造業、漁業と酪農業を事例として、振興政策の成否が政治権力の性格と関連付けて説明されている。ウガンダで酪農振興政策が成功したのは、ムセベニ政権中枢に牧畜に深い利害を持つグループが存在することと深く関連しているといった具合である。

産業政策の成否を政治権力の性格から説明する本書のアプローチは興味深く、多くの有益な論点を提示している。本書の主張によれば、アフリカで産業政策が成功しにくいのは、技術力を持った資本家が少なく、政治権力が分散しているためである。この指摘は総じて首肯できるものの、それでは権威主義体制下なら産業政策は成功するのかという疑問が湧く。関連して、本書の分析枠組みがエチオピアやルワンダなど政治権力が集中した国々にどの程度適合するのかについても、検討する余地がある。事例研究の多くが第一次産業であり、産業政策の検討対象として妥当かという批判もあり得るだろう。読後に完全に納得したとは言えないが、「産業政策の政治」という重要な領域の理解に貢献する、読むに値する研究であることは間違いない。

武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所・東京外国語大学)

 
© 2017 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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