アフリカレポート
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資料紹介
合田 真 著 『20億人の未来銀行――ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る――』 東京 日経BPマーケティング 2018年 202 p.
児玉 由佳
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2019 年 57 巻 p. 57

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本書は、モザンビークで電子マネーを浸透させようと活動している起業家が、自身の経験とその裏打ちとなる考え方を記したものである。易しい語り口で、各章の扉にはその章のポイントが記載されているなどビジネス書の体裁をとっているが、モザンビークの人々と電子マネーを結びつけようとする試みを具体的に紹介する興味深い内容となっている。

この本のユニークな点は、モザンビークにおける具体的な経験と共に、「お金」についての著者の哲学が語られていることである(第1章「新しいお金のものがたり」)。そこからは、なぜモザンビークで電子マネーなのかという疑問に誠実に答えようという意志が伝わる。複数の参考文献が巻末に挙げられており、著者自身も模索しながら自分の考えを整理していることが分かる。

著者が経営する会社は、もともとバイオ燃料開発から始まった会社であり、モザンビークでも、当初はバイオ燃料を現地で使用して電化を進める活動が中心であった。ところが、電化した店の売り上げ管理の難しさや盗難の問題などから、現地での電子マネーの有効性に気づくことになる(第2章「みつけた光明」)。そこから電子マネー事業へと発展するのだが、現地の通信事情を勘案した現実的な技術の取捨選択のプロセスは、事業としての冷静さが伺えて興味深い(第3章「いつも舞台は未開の地」)。それでも、異国での事業は一筋縄ではいかない。日々の事業運営上の問題や不安定な政治経済、スタッフの死などさまざまな困難に直面することになる(第4章「行く先々に岩と穴」)。最後の章(第5章「挑戦の行く末」)では電子マネーを利用して「地域通貨」を流通させる構想が開陳される。現在の仮想通貨の価値の乱高下の状況を考えると、安定した「地域通貨」の実現性には疑問が残るが、次々と新しいアイディアを実行していく姿勢には圧倒されるものがある。一方で、事業とはいえ、FAOや日本政府などからの補助金によって可能になった部分もあり、著者自身もより採算の取れる事業を展開する必要性を認識している。ユーチューブとの連携や他国への展開など「ネクストステップ」を探っているようである。

途中で挿入されている著者の幼少時からモザンビークでの事業にいたるまでの経歴も興味深い。想定されている読者はビジネスマンと思われるが、教科書での勉強とは異なる価値観を知ることができるという意味では学生にも薦められる。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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