アフリカレポート
Online ISSN : 2188-3238
Print ISSN : 0911-5552
ISSN-L : 0911-5552
資料紹介
落合 雄彦 編著 『アフリカ安全保障論入門』 京都 晃洋書房 2019年 vii+315 p.
佐藤 章
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 57 巻 p. 59

詳細

アフリカはいまどのような安全保障上の脅威に直面しているのだろうか。その脅威の克服のためにこれまでにどのような努力が積み重ねられてきたのだろうか。さらにこれからの課題にはどんなものがあるだろうか――アフリカの歴史と未来とに深くかかわるこれらの問いに対して、総勢25人の執筆陣が答えてくれるのが本書である。本書は、龍谷大学の共同研究プロジェクトの成果として刊行されたものであるが、主たる想定読者は学生や社会人に設定されているとのことで、全編にわたり平易な表現で記されているのが特徴である。各章はおおむね10数ページ程度とコンパクトにまとめられており、的確に絞り込まれたテーマについてまとまった知識を簡潔に得られることも利点である。

アフリカの安全保障にかかわる諸論点に幅広く目配りしている点も本書の特徴である。まず、安全保障にかかわる装置から始まり(軍隊、警察、民間軍事・警備会社を論じた第1~3章)、続いてアフリカの国家にかかわる考察へと進んでいく(紛争、崩壊国家、国境、「アラブの春」を論じた第4~7章)。近年のアフリカで安全保障上の脅威としてとくに注目を集めている集団にも詳しい解説がなされる(海賊、ボコ・ハラム、シャバーブを論じた第8~11章)。さらに、主に国際安全保障、平和維持活動、移行期正義などの側面においてアフリカと関わる国際的な主体が取りあげられる(アメリカ、フランス、中国、韓国、国連、国際刑事裁判所が第11~16章で論じられる)。アフリカ人自らの主体的な取り組みの中心となるアフリカ連合と地域経済共同体については、他の章よりも手厚く念入りな記述がなされている(第17、18章)。最後に、人間の安全保障、食料安全保障、食料主権という、広い意味で人びとの生存にかかわる安全保障の問題が取りあげられる(第19~21章)。このほか、アフリカにおける核の問題を取りあげた2つのコラムが掲載されている。各章末の参考文献リストと、多数に上る略語をまとめた巻末の略語表はたいへん有用性が高く、リファレンスブックとしてのニーズにも応える内容をも備えている。

アフリカに関して、信頼性の高い基本的な情報を日本語で手軽に得られる出版物はなかなかない。そのような現状のなかで、本書のようなコンセプトで作られた書籍は得がたく、たいへん貴重なものであり、アフリカに関する知識を底上げしてくれる一冊といえるだろう。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
feedback
Top