アフリカレポート
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資料紹介
布留川 正博 著 『奴隷船の世界史』 東京 岩波書店 2019年 xv+234+6 p.
佐藤 章
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2020 年 58 巻 p. 24

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大西洋奴隷貿易は、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパをむすび、四百年以上にもわたって続けられた。連れ去られたアフリカ人は一千万人以上にものぼり、今日まで続くアフリカの低開発の一つの背景としても指摘されている。奴隷化されたアフリカ人から収奪された富のうえに、そののちの欧米諸国の資本主義的な繁栄が築かれてもいる。肌の色の異なる人々が暮らす多元社会が、南北アメリカ、ひいてはヨーロッパにもできあがった契機もここにある。大西洋奴隷貿易は、今日の世界の根底を形作ったと言ってもよい、きわめて大きな世界的出来事であった。

本書は、新書というコンパクトな分量で、この巨大な事象の全体像を知ることができるすぐれた著作である。奴隷貿易の歴史のなかでの大西洋奴隷貿易の特徴、「移動する監獄」たる奴隷船の構造と実態、船長や乗組員と「積み荷」たるアフリカの人々の船上での様子、イギリスでの奴隷貿易と奴隷制の廃止を求める運動の展開、ハイチ革命、奴隷制廃止後に登場した契約労働制度という新しい搾取、そして現在の奴隷制と、重要な論点が網羅的に取りあげられている。先行研究や奴隷貿易の航海データベースなどに則りながら、実際に起こったことが具体的に書かれており、たいへん読み応えがある。要所に盛り込まれた図版、地図、統計なども理解を助けてくれる。『ロビンソン・クルーソー』や映画にもなったアミスタッド号事件など、一般にも知られた話題が取りあげられるところにも著者のていねいな配慮が感じられる。

大西洋奴隷貿易の全体像を意識したこのような構成のなかで、西アフリカのシエラレオネ植民地に一定の紙幅が割かれているところが、アフリカ研究の立場からは興味深い。シエラレオネは、拿捕された奴隷交易船から解放された人々が起源になった土地として知られるが、それだけではなく、在英黒人たち――アメリカ独立戦争時にイギリス軍と行動をともにし、撤退とともにイギリスにやってきた者たちなど――を入植させる計画が展開した土地でもあるという。さらに、奴隷制廃止後の19世紀半ばには、シエラレオネ植民地の解放アフリカ人を契約労働者として西インドに渡航させることも行われたのだという。アフリカが軍事的、経済的な労働力の収奪が作用した場であったことを物語るエピソードである。アフリカ史を学ぶうえでも重要なヒントを読み取ることができる一冊として本書をおすすめしたい。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)

 
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