2020 年 58 巻 p. 87
現在の国際関係論において「アフリカ」がどのようにみられているか、日本の国際政治学において「アフリカ」がいかに位置づけられているか、アフリカをめぐるそうした言説上の位置づけを学ぶことができることが、アフリカニストにとっての本書の第一の面白さかもしれない。
本書は、「新しい地政学」「地政学の再台頭」などとされる現象に注目し、理論面とあわせ、イシューや地域別の分析を加えた10の論文で構成されている。アフリカ大陸がほとんど射程に入ることのなかった20世紀末までの古典的な地政学とは異なり、論述の対象を欧米やロシア、中国など大国にとどまらず、中東はもとよりアフリカまで広げたことが本書のひとつの特徴である。
たとえば、理論編に収められた篠田英朗「国際紛争の全体像と性格――紛争解決と地政学」は、現代世界において「武力紛争の多発するベルト地帯」が存在することを指摘して、考察においてサハラ砂漠南縁の地域を意味する「サヘル」地帯をはじめとし、多数のアフリカの事例を取り上げている。そのほか編者による序章以下、収められた論文の多くは、濃淡の差はあれアフリカの諸国家やAUなどの国際的組織、あるいはアッシャバーブなどの暴力主体に目配りしている。
さらに本書には、アフリカに特化した章として遠藤貢「『アフリカの角』と地政学」が設けられている。本章は、政治的不安定性を特徴とする北東アフリカ地域をとりあげ、ヨーロッパやアフリカの研究者による最新の研究成果を踏まえながら、中東諸国も射程に入れたうえで、地域特有の錯綜する歴史と最新情勢を手際よくまとめている。本章から自ずと浮かび上がってくるのは、現在の国際関係における北東アフリカ地域の地政学的な重要性である。
なおアフリカからはやや離れるが、詫摩佳代「国際協力という可能性――グローバル・ガバナンスと地政学」は、国際的な保健協力をテーマにすえ、エイズなどの感染症への取り組み、世界保健機関(WHO)設立に至る攻防など2019年までの歴史的経緯をたどって読み応えがある。出版時期から考えて新型コロナウイルス流行の前に書かれたとみられ同ウイルスへの言及はないが、2020年現在のパンデミックに直面する私たちに、得難い知識を与えてくれる一章となっている。
津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)