アフリカレポート
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資料紹介
Zoë R. Groves, Malawian Migration to Zimbabwe, 1900-1965: Tracing Machona. Cham: Palgrave Macmillan 2020 xvii+254 p.
佐藤 千鶴子
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2021 年 59 巻 p. 103

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本書は、英領植民地時代のジンバブウェ(南ローデシア)に移民労働者として渡ったマラウイ人(当時は英領ニアサランドのニアサ人)を扱った学術書である。著者は英国の若手研究者で、キール大学に提出した博士論文が本書のベースとなっている。副題にあるマチョナ(Machona)とは、マラウイのチェワ語で「失われた人々」を意味し(p.2)、移住して出身地との絆が途絶えてしまった人々を指す。

国境を越えた労働移動は、南部アフリカ近現代史研究における中心的テーマのひとつであるが、既存研究の多くは南アフリカの鉱山への単身男性による還流型の出稼ぎ労働に焦点を当てている。それに対して本書は、移民労働先としてジンバブウェを取り上げている点、そして公的機関によるリクルート以外の方法で国境を越えて移動した人々に注目した点に独自性がある。自発的な移住者に着目することで、女性による移民労働の経験や、移住先の都市タウンシップにおける社会的活動、移民の政治運動へのかかわりなど、鉱山労働者とは異なる、南部アフリカにおける労働移動の多面性を浮き彫りにすることに本書は成功している。

ジンバブウェとマラウイは、ザンビア(北ローデシア)とともに1953年から1963年までローデシア・ニアサランド連邦(中央アフリカ連邦)を形成していた。連邦解体後、マラウイとザンビアが独立する一方で、ジンバブウェでは白人入植者による少数派支配が強化された。本書では3カ国の運命を決定する過程において、ニアサ人による南アフリカや南ローデシアへの移民労働の経験や両国にいるニアサ移民からの献金が重要な役割を果たしていたことが明らかにされている。移民労働を通じて両国における白人支配を目の当たりにしたことが、白人支配を自国に拡大してはいけないという意識の醸成、ひいてはニアサランドにおけるアフリカ人政治組織の発展に寄与したという説明は興味深かった。

他方で、本書にはひとつ不満がある。それは、第二世代や第三世代移民の存在について触れながら、深くは掘り下げられていないことである。鉱山への単身男性による還流型の出稼ぎ労働が近現代の南部アフリカにおける国境を越えた人の移動のほんの一部に過ぎず、実際には女性や永住した移民労働者などの多面的な国際移動が存在したとするならば、第二世代や第三世代移民の統合やアイデンティティの問題は重要な研究テーマである。本書の意義は、この新たな課題に取り組むための出発点を提供していることにもあるといえよう。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)

 
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