アフリカレポート
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資料紹介
Xinshen Diao, Margaret McMillan and Dani Rodrik, “The Recent Growth Boom in Developing Economies: A Structural-Change Perspective.” In M. Nissanke and J.A. Ocampo eds., The Palgrave Handbook of Development Economics: Critical Reflections on Globalisation and Development. Cham: Palgrave Macmillan 2019 pp.281-334.
福西 隆弘
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2021 年 59 巻 p. 107

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アフリカ諸国における産業構造変化(structural change)に関する研究が、近年増えてきている。独立直後から1970年代までは工業化を目標とした産業政策を採用する国が多かったが、1980年代以降は経済自由化政策のもとで、競争的な市場の整備を通じて比較優位をもつ産業を成長させるという方針が続いてきた。その間、産業構造に関する関心は低調であったが、資源価格の高騰から始まる経済成長を経て、どの産業が成長するかが経済成長の持続に重要であるという認識が、アフリカ経済を観察する研究者のあいだで広がっている。

本論文は、多くのアフリカ諸国で2000年代以降に農業から農業以外の産業へと雇用が移動していること、雇用の成長は資源やエネルギー産業以外の製造、建設、流通、金融などの産業で広くみられることを明らかにしている。近年のアフリカ諸国の経済成長においては一次産品の輸出増加が目立っていたが、その他の産業も同時に拡大しており、一次産品に依存する産業構造から変化しつつあることが示されている。しかしながら、雇用が成長している二次・三次産業において労働生産性の成長が低い傾向にあることも明らかにし、アフリカ諸国で生じている構造変化はアジア諸国が経験したものとは異なり、現状のままでは持続的な経済成長に結びつかないと論じている。

なぜ生産性成長の低い産業に雇用が移動しているのか。この疑問に対して、産業構造変化のモデルをもとに、一次産品輸出の増加によって国内所得が増えた結果、農産品よりも工業製品やサービスの需要が増えたためと説明している(これはエンゲルの法則にもとづく)。近年のアフリカの経済成長を検討した研究は数多いが、モデルにもとづいて構造変化を分析した点が本論文の特徴である。類似する研究としてGollin et al.(2016)があり、モデル分析から、一次産品輸出の増加が都市のインフォーマル部門を拡大させる可能性を指摘しているが、それは、本論文の示す生産性成長の鈍い二次・三次産業の成長という事実と一致していると解釈できる。先行研究の仮説を、産業統計を利用して実証している点に本論文の貢献がある。

ただし、アフリカの産業レベルの統計は十分整備されていないので、本論文で利用されるデータに改善の余地は大きい。また、産業構造変化のモデルも発展途上であり、本論文によるアフリカ経済の説明は仮説のひとつと位置づけられる。今後の発展が期待される研究分野である。

Gollin, Douglas, Remi Jedwab, and Dietrich Vollrath 2016. “Urbanization with and without Industrialization,” Journal of Economic Growth, 21: 35-70.

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2021 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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