アフリカレポート
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論考
タンザニア未電化地域における小規模な太陽光発電の利用実態と不適正利用による問題
岡村 鉄兵黒崎 龍悟
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2021 年 59 巻 p. 110-121

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要約

太陽光発電による小規模な独立型電源(Solar Home System、以下SHS)は系統電力網が整備されていない地域で、安価に再生可能エネルギーによる電化が可能と期待され、アフリカ農村において2000年頃から急速に普及が進んでいる。しかし、SHSの世帯レベルの電気の利用状況に着目した事例研究は少なく、住民が問題を抱えるに至る要因やそれによって農村住民にもたらされる影響は明らかにされていない。そこで本稿では、タンザニア南西部の農村での現地調査をとおして、SHSの普及状況と不適正利用の実態とその要因を明らかにした。調査はSHSを所有する32世帯とSHS販売者へのヒアリング調査、およびSHSを所有する世帯から10世帯を抽出してデータロガーによる出力測定をおこなった。結果、ほとんどの世帯がシステムの要となるバッテリーの管理に問題を抱えており、そのための経済的損失が示唆された。アフリカの電化状況や関連政策の評価はこのような利用の実態をふまえることが不可欠である。

はじめに

開発途上国において農村住民が電力にアクセスできること、また脱炭素エネルギーを用いることは主要な開発目標のひとつとなっている[UNDP 2017]。途上国のなかでもアフリカ農村は大きく電化が遅れている現状があり[IEA 2014]、持続可能な開発の枠組みのなかで適切に電化が進められる必要がある。

太陽光発電による小規模な独立型電源(Solar Home System, 以下SHS)は、大規模な発電による送電網(系統電力)を必要とせず、比較的安価でかつ簡易な技術で運用できるため、途上国において農村電化の最も有力な選択肢のひとつとされている。アフリカにおけるSHSによる農村電化の進展に関する政策・経済的調査[Pillot et al. 2019]では、2000年代に各国政府の減税や技術的支援の後押しを受けて急速に普及してきたことが報告されている。

本稿が対象とする東アフリカ・タンザニアにおいても、2011年時点で6万5000世帯(1.7メガワット)に普及し、さらに20メガワット以上のポテンシャルがあるとされている[Sarakikya, Ibrahim and Kiplagat 2015]。電力会社(Tanzania Electric Supply Company Limited)による系統電力網は年々延伸されてはいるものの、地方の電化率は2019年の時点で23%1にとどまっており、SHSは農村電化の重要な選択肢のひとつとなっている。

今後もさらなるSHSの市場拡大が想定されるが、その一方で、農村住民やSHS販売者の知識不足・技術的な未熟さがSHS普及の障害となることが指摘されている[Ahlborg and Hammar 2011; Adenle 2020]。タンザニアにおけるSHSは供給者がパーツを販売し、農村住民が専門家の手を借りず自ら設置と維持管理をおこなうケースが多い。それが、SHSが普及するための利点でもあるのだが、一方で、このような状況のために不適正な利用も生じているのである。

一般的なSHSは図1に示すようにソーラーパネル、バッテリー(蓄電池)、チャージコントローラー(以下、コントローラー)、負荷(家電製品等)で構成される。このうちバッテリーは日中にソーラーパネルが発電した電力を充電し、日没後に電気を供給する役割がありSHSに不可欠な要素である。バッテリーの電圧は充電すると上がり、放電すると下がるという特性がある。しかしバッテリーに充電しすぎる状態(過充電)、もしくは電気を使いすぎる状態(過放電)が起きるとバッテリー液が減少したり内部の電極が劣化したりするなどし、いずれの状態が発生しても充電容量が小さくなったり、電圧が上下しやすくなったりするなどバッテリーの性能が大きく劣化してしまう。また場合によっては負荷である家電製品等に想定外の電圧を与えて故障させる原因になってしまう。そのような問題を防ぐために、コントローラーが用いられる。SHSを適正に運用するためにはコントローラーは必要不可欠な要素である。しかしタンザニアの農村では、コントローラー自体がなかったり、コントローラーが故障したままシステムを運用していたり、つなぎ方を間違えていたりするなど、SHSの不適切な利用がしばしば見られる。

これまでの研究では、適正な利用が前提の事例研究が多く[たとえばCarrasco et al. 2014]世帯ごとのSHSの利用に着目した事例研究はほとんどない。そのために住民が不適正利用に至る過程、また電力利用上の問題などの実態が不明であった。そこで本研究では、タンザニア農村においてSHSの利用世帯とSHS販売店を対象にヒアリングと観察等に基づく調査をおこなった。本稿では以下、SHSシステム、関連機器の普及状況と不適正利用の実態・要因を、とくにコントローラーの使用状況に着目しながら明らかにしたのち、SHSで期待されている電化の効果に対してどの程度、利用の実態が伴っているかを検証する。

出所:筆者ら作成。

1. 調査地概要および調査方法

(1) 調査地概要

調査地は図2に示すタンザニア南西部のルクワ(Rukwa)州モンバ(Momba)県に位置するM村である。村全体は415世帯で構成される。主要な居住民族はバントゥー諸語系のニャムワンガである。同地域の気候は明瞭な雨季と乾季にわかれ、11月頃から3月頃にかけて600~900ミリメートル程度の降雨がある。特定の換金作物はなく、雨季におもにトウモロコシ、シコクビエ、モロコシ、インゲンマメなどを自給用に栽培し、その余剰を販売にまわすことで生計を立てている。国内でも経済的な周縁地として位置づけられる。

タンザニアではこの数年で系統電力が延伸され、近隣地域までは届くようになったものの、この村までは引かれておらず、いつ系統電力が整備されるかは明らかではない。M村に最も近い都市として、南におよそ80キロメートルの位置にトゥンドゥマ(Tunduma)がある。トゥンドゥマはタンザニアからザンビアに抜ける東西の幹線道路と、タンザニア北西部に伸びる幹線道路の交差地点に位置し、物流の拠点として近年大きく発展してきた。M村から幹線道路までは15キロメートルほどの未舗装道路となっているが、幹線道路に出ればバスに乗って1時間弱でトゥンドゥマへアクセスできる。またトゥンドゥマからさらに東へ80キロメートルの位置にタンザニア南部最大の都市ムベヤ(Mbeya)がある。これらの都市でM村の住民は太陽光発電関連の資材を購入することができる。とくにトゥンドゥマは、ここを中心に広がる未電化地域へSHS関連資材を供給する最寄りの都市として位置づけられる。M村周辺は、後に述べるように10年ほどのSHSの使用実績があり、また系統電力が届かないため現在もSHSは普及しつつある。いわばSHSの最前線であることから、使用の実態を検証するうえで適した地域として本研究の対象とした。本稿の内容は、おもに2015年6月から2019年8月にかけて断続的に実施した現地調査に基づく。

出所:筆者ら作成。

(2) 調査方法

① SHSの普及と電気製品の利用状況の調査

M村は415世帯、3つの村区(村の下位行政単位)で構成される。村全体では126世帯がSHSを所有している[伊谷 2021]。本稿では、インテンシブな調査の対象としてひとつの村区(以下C村区)を抽出した。C村区では130世帯中32世帯がSHSを所有している。各戸を訪問しソーラーパネルの出力、バッテリーの容量、コントローラーの有無、所有する家電製品、SHSを購入するための資金源、利用上の問題について回答を得た。なお、SHS調査と並行して住民の電気機器の所有・利用状況についても調査した。

② SHSに関連する機器の販売価格と、コントローラーの購入を推奨しているかどうかについての調査

住民がアクセスする可能性のある都市トゥンドゥマとムベヤにおいて、それぞれ5店舗と2店舗のSHS販売店を訪問しSHS関連機器の販売価格の聞き取りをした。本研究では価格の平均値を商品価格とした。また販売店でコントローラーの購入を推奨しているかどうかを知るために、販売者にインタビューを実施した。

③ 住民のSHS出力状況の調査

コントローラーの有無によるバッテリーの状態の違いを検証するために電圧をデータロガー(VR-71、 ㈱テイアンドデイ)で記録した。調査当時、コントローラーを有しているのは村全体で8世帯あり、そのうち、2(1)で説明するコントローラーが一体化したパッケージ型SHSは5つであった。この村で最初にパッケージ型SHSを取り入れた世帯がC村区とは別の村区にあり、運用歴の長い事例をサンプルに取り入れたいという理由から、この調査については対象をC村区だけでなくM村全体にした。そのうえでコントローラーを用いない7世帯と、コントローラーを用いる3世帯(上述のパッケージ型SHSの1世帯を含む)を抽出した。記録期間は電圧の日変動が見られるように48時間以上とした。

2. 結果

まず、SHS普及の状況について述べていく前に、SHSの導入に至る住民たちの電気利用の実態を知るため、SHSを所有していない世帯に光源とその他の電気機器の利用についてインタビューした結果を簡潔に述べておく。C村区の世帯を世代ごとに区分し、SHSを所有していない世帯を対象に、それぞれの世代から合計30世帯を抽出しインタビューした。

同村で主たる光源とされてきたのは薪や灯油ランプであった。しかしLEDの電池式ランタンや懐中電灯が地方都市に普及すると、村人は故障したLEDランタンや懐中電灯のなかの小さなLED素子を取り出し、消耗した乾電池に結びつけて懐中電灯を自作するようになった。調査した30世帯中7割がこの自作LED懐中電灯を使用していた。非常にわずかな光であるが、安価で長持ちするということで受け入れられている。なお、経済的に余裕のある世帯は、乾電池式のLEDランタンや懐中電灯、ごく小型のソーラーパネルが一体化したポータブルの充電式LEDランプを使用している。

光源を除く電気機器については、ラジオと携帯電話の回答があり、ラジオと携帯電話の両方を所有しているのが10世帯、ラジオのみが9世帯、携帯電話のみが1世帯、何も所有なしが10世帯であった。ラジオは乾電池式のものがほとんどだが、充電式ラジオも一部で利用されていた。充電式ラジオや携帯電話は、SHSを所有する家で充電してもらっていることが多かった。このようにSHSを所有していない住民であっても、その多くが電気製品を所有し利便性を体験する機会がある。

さて、図3にC村区内のSHSの所有世帯数の推移を示した。2012年には1世帯しか所有していなかったが、2014年から2018年にかけて大きく増加し、2019年には32世帯となった。C村区の全世帯数は130世帯あるので、4分の1近くがSHSにより電力の利用をしていることになる。SHS所有者が使うソーラーパネルの出力は最小で10ワット、最大で115ワットであった。32世帯中、27世帯が10~30ワットの範囲のものを使っている。バッテリーの容量は最小で6アンペアアワー、最大で70アンペアアワーであった。32世帯中21世帯が6~9アンペアアワーの範囲のものを使用している。これはバイク用に販売されている小型バッテリーの規格と同程度である。つまり、ほとんどの世帯がごく小規模のSHS利用ということになる。

出所:現地調査をもとに筆者ら作成。

(1) 設置の状態

32世帯のうち、コントローラーを使用しているのは、後述するパッケージ型SHSを利用する3世帯と、筆者らが参加する研究プロジェクトが提供したコントローラーを使用する2世帯のみであった。コントローラーを使わない世帯では、ソーラーパネルとバッテリーを直結している。電圧計や、テスターなどを使用して電圧をモニターするということもないので、バッテリーの充放電は管理されずソーラーパネルが発電した分だけバッテリーに供給され、電気機器を使った分だけ電力が放出されている状態であると考えられた。この詳細については2(6)において述べる。

ここでいうパッケージ型SHSとは、ソーラーパネルとコントローラーが内蔵されたバッテリーと、専用のLED照明やラジオ、テレビなどをセットにしたSHS商品を指す。このような商品を提供する代表的な会社がMobisolと呼ばれるもので、タンザニアでは2013年から本格的に販売を始めた2。同社はドイツに本拠地をおき、タンザニア国内の地方都市に拠点を拡大し、対象地周辺では2017年頃から聞かれるようになった。同社が販売するセットはソーラーパネルの出力やセット内容によって値段が異なる。月賦払いも可能だが、支払いが滞ると遠隔操作でシステムの使用が止められる仕組みとなっている。

(2) 使用電気機器

表1はSHSを有する世帯が利用している電気機器の割合を示している。まず、LED照明が最もポピュラーで、すべての世帯が所有している。このLED照明はSHS用として売られているもので、1~3ワットというごく小さな消費電力のものが主流となっている。最小1灯、最大6灯を使用している世帯があり、2~4灯が平均的な使用範囲となっている。先述したように、LED素子を利用した微小な光を光源とする世帯が多いことを考慮してみても、LED照明はSHSの購入の大きな動機となっていることを示唆している。つぎに多いのは携帯電話の充電で、27世帯(84.4%)が回答した。携帯電話はすでによく知られているように、コミュニケーションだけでなく、送金や貯蓄に利用されていて、もはや農村部での基本的なインフラになりつつあるといっても過言ではなく、充電のニーズは非常に高まっている。そしてつぎに多かったのがラジオで、16世帯(50.0%)が利用していた。ニュースで情報を得るため、スポーツや音楽などの娯楽を楽しむために住民に広く利用されている。また、3世帯が現地で「サブウーファー」と呼ばれるSHS用のデジタルミュージックを再生する機器を利用している。スピーカーと小型のアンプが一体化した機器で、USBメモリやSDカードに取り入れたデジタルミュージックを再生して楽しむものである。住民は近隣の町などでパソコンを経由してダウンロードしてもらい、それを持ち帰って聞いている。

テレビは村のバーに設置されていて、多くの住民が集まるなど、魅力的な娯楽として認識されている。しかし、価格が高価かつ消費電力が大きいために小型のSHSでは利用することが難しい。C村区内では1世帯を除いて利用者はいない。なおこの世帯がC村区で最大の出力のソーラーパネルを備えている。太陽光発電の直流電源を交流電源(いわゆる家庭用電源)に変えるためのインバーターは3世帯のみが使用していた。しかし、SHS市場が拡大するなかで、インバーターを介さずとも直接SHSシステムにつなげる(直流電源を利用する)テレビやラジオ、デジタルミュージック再生機、直流を利用した携帯電話の充電器の普及によって、その必要性は薄れてきている。

n=32(複数回答)

出所:現地調査をもとに筆者ら作成。

(3) コスト

SHSの導入コストはシステムの出力の大きさによって異なる。また、パッケージ型SHSは専用のコントローラー内蔵型バッテリーを用い、専門の人員が設備の据え付け作業をするため、長期にわたって適切な運用ができるが、導入費用が高い。一方、ソーラーパネルやコントローラー、バッテリー、ケーブルなどのパーツを電気店で購入し、自分で設置する場合はコストが低くなる。C村区ではパッケージ型SHSを3世帯が、自作SHSを29世帯が選択している。パッケージ型SHSと自作した場合のSHSにかかるコストを図4に示す。これによるとパッケージ型SHSに比べ自作SHSはおよそ4分の1のコストであり圧倒的に安く導入できる。また、図5に示す通り、自作SHSにおいて、システムのなかでコントローラーの占めるコストの割合は、最も出力の小さい10ワットのシステムでおよそ4割強と最も大きく、出力が大きくなるにつれてコントローラーの占めるコストの割合は小さくなる傾向がある。すなわち、出力の小さいSHSシステムほど、他のパーツと比較した時にコントローラーのコストを負担に感じやすいといえる。

注:自作SHSの構成はパッケージ型SHS製品と同等のものとし、ソーラーパネル、コントローラー、バッテリー、LED電球、ケーブルを含む。

出所:現地調査をもとに筆者ら作成。

出所:現地調査をもとに筆者ら作成。

(4) SHS購入資金の出どころ

SHSを購入するための資金源は作物販売が最も多く、全体の81%(26人)であった。続いて、アルバイトと答えたのが13%(4人)、そして大工仕事と答えたのが6%(2人)であった。大きな部分を占めた作物販売に関して、とりわけ目立つのが代表的な主食と副食にあたるトウモロコシとインゲンマメの販売で、トウモロコシの販売と答えたのは7人、インゲンマメの販売と答えたのは12人、その両方と答えたのは1人であった。アルバイトの内容はおもに農作業の手伝いであった。大工仕事は専門職というわけではなく、農業のかたわら副業としている住民がするものである。SHS購入の負担がほとんどのケースで農業によって賄われていることが明らかとなった。トウモロコシを例にとると、収穫期の売値は100キログラムあたりおよそ1500~2500円である。一方で最も小さい10ワットのSHSの価格がおよそ2300円ほどであり、そのうちバッテリーの価格はおよそ1000円と半分近くを占める。トウモロコシ100キログラムはおよそ成人1人の3カ月分の主食に相当する。住民の多くは自給的な農家であるため、小さなSHSであっても経済的な負担は大きいと考えられる。

(5) 電気店がコントローラーの購入を推奨しているかどうかについて

調査村から近い都市での電気店7店舗で、充放電を管理するコントローラーを使う必要があるかを店員に尋ねた結果、7店舗中3店舗がコントローラーは必要ないと回答した。さらに別の3店舗はソーラーパネルが一定の出力以下と条件を限定したうえで、コントローラーは必要ないと回答した。この結果からほとんどの電気店がコントローラーの必要性を正確に理解していないか、あるいは顧客に対して提示すべき情報としていないことが考えられる。またSHSを所有する世帯に対する聞き取りのなかでも、電気店でコントローラーの説明を受けている住民は皆無であった。

(6) 具体的な問題

SHSを利用する世帯では、使用する電気機器の調子が悪い、故障するという事例が多く聞かれた。そのほとんどが、照明が点かなくなった・光が弱くなったということに関連し(19世帯)、その他にはラジオが壊れた(2世帯)、インバーターが壊れた(2世帯)といったものがあった。なお、インバーターの故障のうちの1世帯以外はすべてコントローラーを設置していない世帯からの回答であった。これらの理由として、①家電製品自体の品質から自然に故障したケース、②間違った利用方法・配線によるケース、③バッテリーの過充電が起きて定格よりも電圧が高くなり接続した機器が故障したケース、④バッテリーが過充電と過放電を繰り返したため劣化が起きて、貯められる電力が極端に小さくなったケースが考えられた。

①についてはコントローラーを用いて電圧制御をしているにもかかわらずインバーターが故障してしまったケースがあり、おそらく家電製品自体が不良であったため故障が起きたのではないかと考えられた。タンザニア国内にはメーカーの保証がない質の高くないとみられる家電製品が多く普及している現状がある。また②については6ボルト仕様のラジオを12ボルトのバッテリーにつないで壊してしまった事例などが聞かれた。①と②の故障のケースは、コントローラーの有無にかかわらず発生していると考えられるものの、ほとんどの電気機器の故障や不調がコントローラーのない世帯で発生しており、①と②についてはおもな故障要因ではないと推測できる。

つぎに当初から問題の核心と考えられていたバッテリーの運用に関連する③と④のケースについて考えてみる。村全体から抽出した10世帯におけるバッテリーの電圧データを、データロガーを用いて収集し分析することで③と④のケースの可能性ついて検証した。その結果、コントローラーを用いている3世帯は正常な電圧を維持し、バッテリーの過充放電の問題は起きていなかったことを確認できた。一方、コントローラーのない7世帯では、正常な範囲を大きく超えて電圧が上下し、過充電と過放電が多く見られた。コントローラーのない7世帯中3世帯では、日中のバッテリー電圧が18ボルト以上と定格(およそ10.5~14.5ボルト)を大きく超える過充電の状態で、接続した家電製品が故障しかねない状態であった。また、残りの4世帯のうち3世帯においてもバッテリー電圧が15ボルトを超えて過充電が疑われる状態があった。さらに過放電についてはコントローラーのない7世帯すべてで確認された。7世帯のうち3世帯では日没から1時間以内にバッテリー電圧が10ボルトを下回り過放電状態となっていた。残りの4世帯でも日没から4時間以内に電圧が10ボルト以下に下がり、コントローラーのないすべての世帯で、夜のうちにLED照明が消えてしまうほどまでバッテリー電圧が下がっていた。つまり、ソーラーパネルやバッテリーのサイズに関係なく、コントローラーを用いていない世帯ではバッテリーが充電能力を失っており、日中に電圧が跳ね上がる一方、日没後や曇天時には電圧がすぐに降下し、SHSが電力供給源としての機能を著しく欠いていた。

また、住民の使い方の問題として、ほとんどの世帯がとくに理由なく一晩中照明のスイッチをオンにしているということが聞かれた。住民はLEDの光が消えた時点でバッテリーの電気がなくなったと解釈しており、使い切りの乾電池のような感覚で蓄電用のバッテリーを利用している3。LEDの光が消えた時点でバッテリーの電圧は深刻な過放電の状態であると推測される。普段からそのように使っていることから、バッテリーがほとんど充電機能を失っていることが考えられる4。これらの結果から、上記の問題にはコントローラーを使わないことや、電圧管理をしないことによるバッテリーの機能低下が強く関連していることが示唆された。

なお、自発的にコントローラーを購入して設置している住民やパッケージ型SHSの所有者は、このようなバッテリー劣化を何度も経験したことや、あるいは他地域での導入例を見聞きしたことから、適切な運用ができることを重視してそれらを購入していた。ただし、高価格のこのシステムを購入できていたのは、ローカル・バーの経営者や、小学校教員、行政関係の役職にある者が主であった。

3. 考察

調査地域のSHS所有者は年々増加しており、携帯電話、LED照明、ラジオの利用が主となっている。ほとんどの住民が自作のSHSシステムを導入しているが、コントローラーを設置しておらず、その必要性もよく知らないこと、販売店においてもコントローラーの購入を積極的に推奨していないことが明らかになった。

データロガーによる検証から、コントローラーを設置していないSHSのすべてのバッテリーが過充放電の問題を抱えていることが明らかになり、蓄電機能の不良や電気機器の故障原因になることが示唆され、LED照明が点かなくなったり、他の家電製品が故障するということが日常的に起きているという住民の話が裏付けられた。コントローラーのない世帯では充電や放電をストップさせるなどの過充放電への対処はしておらず、むしろLED照明のスイッチを一晩中オンにするなど、バッテリーの容量や性質を考慮することなく電気を消費するため、バッテリーは導入からすぐに、たとえば1カ月程度で電力供給能力を大きく損なっていた可能性がある。

以上のことから、実際の農村住民の電力の利用状況は、導入されるSHSの定格数値とはかけ離れていると考えられる。ソーラーパネルの普及数や出力のみを頼りにタンザニア農村の電化が評価されれば、このような実情がまったく反映されず実態と数倍もかけ離れた結果となることが危惧される。

またコントローラーを用いない世帯では、家電製品の故障や短期間のあいだに劣化したバッテリーを買い替えるなど経済的な負担が増す状況にあることが考えられる。対象地域周辺の農業は不規則な降雨による影響を受けており、近年では安定的な生産を保つことが難しくなっている。現金収入のない世帯の多くは、時に自家消費分の農業生産を取り崩してSHSの購入費に充てており、たとえ安価なSHS構成を選択したとしても、故障した機器の買い替えが必要となれば大きな経済的な負担になっていると考えられる。

SHSの適切な運用のためには、テスターで頻繁に電圧をモニタリングする、コントローラーを備える、パッケージ型SHSを購入するといったことが対応策として考えられる。しかし、多くの住民がバッテリーの特性に関する知識がないことや、トレーニングの機会を得られないためにこうした対応が主流になり得ていない。また、知識や技術が普及したとしてもコントローラーやパッケージ型SHSの購入はその価格のために敬遠される可能性も考えられる。現状では、SHSは手っ取り早く電気のニーズを満たすということはできるものの、以上のような問題を抱えており、有効な農村電化の手段とみなすには留保が必要である。

本論文では電圧からの検証が中心であったが、2(6)でも触れたように、関連機器の質の問題や、配線ミス、間違った利用方法などとの関連の検証も必要であろう。また、電圧に加え電力についての利用量を明らかにすることで、農村電化のソーラーパネルのサイズや数量から算出する見かけの電化状況に対し、電力利用の観点から実態に即した農村の電化状況を数量的に示すことが可能である。そのようなデータを集めていくことで、農村電化におけるSHSの有用性についてのより正確な理解を得られるだろう。そのことが、国家・地域レベルのSHSによる電化の統計情報や政策評価の見直しにつながり、タンザニアの農村の実態に即した持続的な農村電化の対策を考えるための基礎情報になると考える。

謝辞

本研究はJSPS(15H02591)の成果の一部である。ここに記して感謝いたします。

本文の注
1  国際エネルギー機関ホームページ https://www.iea.org/reports/sdg7-data-and-projections(2021年4月1日アクセス)。なお全国では40%となっている。

2  Mobisolホームページ https://plugintheworld.com/about/#the_engie_mobisol_story(2020年4月1日アクセス)。

3  コントロ―ラーを使用していれば、バッテリーの電圧が規定以下になると負荷への回路は自動的に遮断されるので、スイッチをオンのままにしていても過放電の問題は生じない。

4  本稿では具体的な数量データは示せなかったが、ソーラーパネルを所有していない人がバッテリーのみを購入し、他の村人の所有するSHSで充電してもらうというケースも聞かれた。過放電状態のバッテリーをSHSに持ち込むと、接続先の正常なバッテリーを過放電状態にしてしまう可能性がある。過放電状態のバッテリーは自己放電により電力を消費していたり、内部短絡を起こして充電しても電圧が上がらなくなっていたりするため、接続先のバッテリーのエネルギーを消費し、接続先のバッテリーが正常な範囲を超えて電圧が下がることが起こりえるからである。また持ち込んだバッテリーの充電をする場合は、コントローラーを介さずに直接SHSのバッテリーに接続することが多いため、コントローラーを用いているシステムにおいても防止機能が働かずに過放電を起こしてしまう可能性がある。このように過放電状態のバッテリーがSHS利用者のあいだで出回ると伝染するかのようにバッテリーの故障が広がってしまう可能性もある。実際、M村の住民は弱った中古バッテリーをSHSが導入されつつある近隣村の住民に販売している。今回の調査ではコントローラーのある世帯で過放電は確認されなかったが、このような状況が続けば充放電を制御しているシステムにおいても過放電の問題が顕在化する可能性がある。

参考文献
 
© 2021 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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