アフリカレポート
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資料紹介
砂野 唯 著 『酒を食べる――エチオピア・デラシャを事例として――』 京都 昭和堂 2019年 iv+203+xiii p.
児玉 由佳
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2021 年 59 巻 p. 19

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本書は、エチオピア南部に居住する民族デラシャと、彼らが主食としているパルショータという醸造酒についての著者の長年の調査をまとめたものである。酒を「ほとんど唯一の食事」とする食文化は世界でも少ない。本書は、この不思議な食文化の解明をめざしたものである。

第1章では、パルショータの作り方を、科学的な分析結果を交えながら解説している。2、3カ月寝かせて乳酸発酵させることで乳酸菌が他の菌よりも優勢になり、風味を増すとともに安全性も向上させる工程は興味深い。第2章では、パルショータを中心としたデラシャの人々の食文化を説明している。幼児の頃からパルショータを飲み始め、大人になると一日5キログラムは飲むようになるという。第3章では、「パルショータだけで生きていけるのか」というほとんどの読者が思うであろう疑問に答えるべく、栄養価の分析を行っている。パルショータのおもな原料は、デンプンを主成分とするモロコシやトウモロコシと、ケールや近年スーパーフードとして注目されているワサビノキ科のモリンガのような植物の葉である。これらの原料を発酵させることで、必須アミノ酸を含んだタンパク質が作り出されていた。人々は、毎日大量にパルショータを飲むことで、一日に必要なカロリーやタンパク質を確保していたのである。第4章で農業の営み全般を紹介するとともに、デラシャは移住してきた人々であることが示される。できればここで、いつパルショータ中心の食生活になったのか、そしてそのきっかけについての検討などについても言及してほしかったところである。第5章では、大量のパルショータをつくるための原料となるモロコシの貯蔵方法を紹介している。デラシャが使用している地下貯蔵穴ポロタは、モロコシを数年から20年位までの長期間保存できるという。その仕組みも、科学的根拠にもとづいて説明されている。また、地下に掘られているため移動できないポロタをめぐる社会関係についての言及も興味深い。

著者が同じ生活を試みて大量のパルショータを飲み続けることができず栄養失調に陥ったり、酒ばかり飲むことで噛む機会が無くなり口が半開きになっていることを人に指摘されるといった逸話が冒頭に挿入されているが、科学的な分析に紙幅を割いているのが本書の特徴である。そのため読みにくい箇所もあるが、「酒を食べる」という食文化を理解するためには必須であろう。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)

 
© 2021 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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