2021 年 59 巻 p. 24
本書はアフリカにおける首長制(chieftaincy)の現在をテーマとする論文集である。執筆者の大半は人類学者だが、歴史学者や政治学者も含まれる。各章で取り上げられる事例は、カメルーン、ガーナ、南アフリカ、ジンバブウェ、シエラレオネ、ブルキナファソ、コンゴ民主共和国、モザンビークの8カ国に関するものである。
独立後、多くのアフリカ諸国では国民国家建設と近代化の推進が重要課題であり、この過程において、前近代の遺物と見なされ、植民地支配の一端を担ってもいた首長制は消滅するものと考えられていた。ところが実際には、冷戦崩壊後、アフリカの複数の国々において首長(チーフ)はローカルなコミュニティの代表者としてますます重要な役割を担うようになり、その権限も強化されている。20世紀末以降のアフリカにおけるチーフの「復権」をいかに説明するか――これが本書の中心的な問いであり、その答えはアフリカを取り巻くグローバルな政治経済環境という外的要因の変化とチーフ自身による新たな環境への適応の両方に求められる。
外的要因として編者が最も重視していると評者が感じたのは、構造調整以降の経済的な自由化と地方分権化の推進、そして企業やNGOなどが中央政府を迂回して、直接、ローカルなコミュニティの開発に関わるようになったことである(第1章)。慣習的な土地権下にある土地で鉱山会社が鉱物資源の採掘を行う際に、チーフがローカルな場での交渉役となっていること、ただしその役割がさまざまな矛盾をはらんだものであることが複数の章で語られている(第8章南アフリカ、第11章コンゴ等)。ガーナの事例(第10章)では、鉱山会社に対して99年借地権での金採掘を認めたチーフが村に住めなくなってしまった。露天採鉱により、適切な補償がなされないまま人びとから農地や泉といった生計手段が奪われることになり、チーフはその責任を負うと見なされたからである。
アフリカの複数の国でチーフの「復権」が見られるとはいえ、首長制が完全に廃止された国があるという指摘(第2章)や、チーフの権力の源泉が国により異なることがガーナと南アフリカの比較を通じて明らかにされている点(第3章)も、本書から得られる重要な知見である。各章の考察は詳細かつ具体的で、取り上げられている国の歴史(とくに政治史)を知らないと理解が難しい章もある。英文も時に難解である。だが、21世紀のアフリカを知るうえで、首長制やチーフは無視することのできない重要なテーマであるという本書のメッセージは明快で、辞書を引き引きでも読む価値のある本である。
佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)