アフリカレポート
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時事解説
エチオピア第6回総選挙展望
児玉 由佳
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2021 年 59 巻 p. 65-71

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はじめに

2021年6月にエチオピアでは第6回総選挙が行われる。開票結果は6月中に判明する予定である。アビイ・アハメッド(Abiy Ahmed)が2018年に首相に就任して初めての国政選挙となる。

本稿では、まず2015年の第5回総選挙からアビイ首相就任までの政治状況をまとめ、そのあとアビイ首相就任以降の政治状況の変化を概観する。次に選挙の概要を説明し、最後に野党の状況を検討する。

1. 2015年第5回総選挙からアビイ首相就任まで

2015年第5回総選挙では、連合政党であるエチオピア人民革命民主戦線(Ethiopia Peoples’ Democratic Revolutionary Front: EPRDF)とその協力党が下院にあたる人民代表議会(House of Peoples’ Representatives)の全議席とすべての州議会の全議席を獲得して圧勝した。その背景にはEPRDFによる長年にわたる野党勢力への政治的弾圧があった。とくに顕著だったのは、2005年の第3回総選挙の後である。第3回総選挙では野党や無所属の議員が議席の32%を占め、第2回総選挙のときの10%弱から大幅に増加した。しかし、野党は選挙で不正が行われたとして大規模な抗議デモを行い、治安部隊によって鎮圧されて200名近い死者を出し、野党指導者たちは暴力行為謀議の疑いで逮捕された[BBC 2006]。野党のなかで最多議席を得た「統一と民主主義のための同盟」(Coalition for Unity and Democracy: CUD)の指導者たちを中心に43人が逮捕されている。2007年7月には逮捕された43人のうち37人が恩赦によって釈放されたが、かれらの多くは国外に移住した[International Federation for Human Rights 2007]。

その後も野党への弾圧は続き、2010年の第4回総選挙直前には野党のメンバー450人が逮捕されたという[Malone 2009]。このようなEPRDFによる弾圧の結果が、前回2015年の第5回総選挙でのEPRDFとその協力党の全議席獲得である。

ただし、このような弾圧によって人々の不満も蓄積し、エチオピアは政治的に不安定な状況となった。とくに、最大民族であるオロモが居住するオロミヤ州を中心に抗議デモや暴動などが相次いで起きた。州政府、連邦政府ともにそれを鎮圧できずに2016年10月には非常事態宣言をだし、2018年2月に、当時の首相ハイレマリアム・デサレン(Hailemariam Desalegn)はこのような状況に対して引責のような形で辞任した1。その後を引き継いだのが、アビイ首相である。アビイ首相はオロモ出身であり、オロミヤ州における事態の鎮静化を期待されての選出でもあった[児玉 2020]。

2. アビイ首相就任後の政治状況

2018年のアビイ首相就任後、エチオピアの政治状況は大きく変化した。

まず、就任直後のアビイ首相の主導で、テロリスト・グループと認定していた複数の団体が合法化されたことが挙げられる。2018年7月にアビイ内閣は人民代表議会にグンボット7(Ginbot 7)2、オロモ解放戦線(Oromo Liberation Front: OLF)、オガデン民族解放戦線(Ogaden National Liberation Front: ONLF)のテロリスト認定取り消しに関する決議を提出し、全会一致で承認された[Mohamed 2018]。その年の9月にこれらの政党の主要メンバーがエチオピアに帰国したときの人々の熱狂的な歓迎ぶりは大きく報じられた[Addis Fortune 2018; Fick 2018]。

次に起きた大きな政治変化が、2019年12月のアビイ首相によるEPRDF解体と繁栄党(Prosperity Party)の結成である。EPRDFは4つの地域政党による連合政党だが、アビイ首相は、それらの地域政党を解消してひとつの党に統合することを参加政党に呼びかけた。EPRDFで長年権力の中枢にいたティグライ人民解放戦線(Tigray People’s Liberation Front: TPLF)は参加を留保したが、TPLFを除いた他の3政党3と、EPRDFの協力政党のほとんどが繁栄党に参加し、繁栄党は12月に発足した。一方、TPLFは、2020年1月に繁栄党に参加しないことを正式に表明した[Ezega News 2020]。その結果、TPLFは政治的に孤立していくことになる。

本来第6回総選挙は、2020年5月に予定されていたが、選挙の準備が整っていないという理由でいったん8月に延期され、さらに連邦議会は6月になって新型コロナウイルス感染拡大を理由に1年後の2021年6月に延期することを決定した[NEBE 2020; Zecharias 2020]。

TPLFは、この延期の決定に対し議員の任期を5年と定めている憲法に反していると抗議し、連邦政府の警告にもかかわらず、2020年9月20日にティグライ州で地方選挙を行った。この選挙でTPLFは圧勝したが、連邦議会は州予算をティグライ州政府を経由せずにその下の行政機関に直接配分すると決定し、TPLFと連邦政府との対立は決定的となった[Mulugeta 2020; Crisis Group 2020]。

この対立が頂点に達したのが、2020年11月4日に始まったティグライ州での両者の武力衝突である。ティグライ州において、TPLF配下の軍隊が連邦政府軍の基地を襲撃したことが発端となった。この襲撃を理由に連邦政府はTPLFに対して戦争を宣言し全面的な攻撃に転じた。11月28日にはティグライ州州都メケレを連邦政府軍が奪還して表面上は1カ月足らずで連邦政府側の勝利で終わった。ただし、この後TPLFはゲリラ戦へと転じ、TPLFと連邦政府軍双方による民間人殺害の報道が相次ぐなど、ティグライ州の治安状況は非常に悪化しており、国内外に多くの難民が流出している状況にある[Africa Confidential 2020]。このような状況のためにティグライ州には救援物資を十分に届けることができず、餓死者の報告もある[Addis Standard 2021b]。TPLFは、2021年5月3日に、OLFからの分派であるシャネ(Shane)4とともにテロリスト・グループに認定され[Helen 2021]、政治活動が禁じられることとなった。

このような状況のため、2021年6月の総選挙はティグライ州では行われず延期となった。現在のティグライ州の人々の窮状については国際的にも注視されているが、連邦政府は公式には戦争は終結したものとしている[Reuters 2020]。今回の総選挙で有力な野党とされる「社会正義を求めるエチオピア市民」(Ethiopian Citizens for Social Justice: EZEMA)も、この戦争についてはアビイ首相を支持していた[Africa Confidential 2020]ことを考えると、TPLFとの関係については選挙の大きな争点になることはないであろう。

3. 第6回総選挙の概要

エチオピアの国会は、小選挙区制で選出された議員546人5で構成された人民代表議会と、各州の州議会が選出した135人6で構成された連邦議会のふたつからなる(憲法第45条)。6月5日に行われる予定の総選挙は、人民代表議会と州議会の選挙である。また、6月12日には首都アディスアベバとディレダワ市議会の選挙も行われる予定である7

投票するためには事前に有権者登録を行う必要がある。コロナ対策のために登録所にも人数制限があって予定どおりに登録が進まず、登録のしめきりは2021年3月30日から5月7日まで延長された。5月7日時点で3172万人が有権者登録を行ったと発表されている[Xinhua 2021c]。選挙権のある人口は約5000万人であることを考えると、その6割強に相当する。エチオピア全国選挙委員会(National Electoral Board of Ethiopia:NEBE)は、多くの州で登録のしめきりをさらに延長し、ソマリ州とアファル州については5月14日、オロミヤ州、アムハラ州、ベニシャングル・グムズ州は21日までとなったため、最終的な登録者数はさらに増える見込みである[Xinhua 2021b; 2021c]。

一方、立候補者については、2021年3月11日のNEBEによる発表では、8209人(うち125人が無所属)が登録している[Xinhua 2021a]。また、4月時点で49政党が登録し、そのうち32政党は州議会、17政党が人民代表議会に候補者を立てているという[Loza 2021]。

4. 野党の状況

2018年のアビイ首相による複数の政治団体に対するテロリスト・グループ認定の取り消しを契機として、さまざまな政党がエチオピア国内で活発に活動するようになった。しかし、総選挙投票日が近づくにつれて、政府による野党へのさまざまな政治的弾圧が報道されている。

オロミヤ州を基盤とする野党であるオロモ連邦会議(Oromo Federalist Congress: OFC)とOLFは、政府による不当逮捕や活動妨害を理由に3月上旬に相次いで選挙からの撤退を表明した。NEBEも、OFCとOLFの抗議を受けて、「与党は野党候補者を逮捕する慣習をやめるように助言した」という[Borkena 2021; Addis Standard 2021a]。OFCとOLFは、アビイ首相と同じオロミヤ州を基盤としていて支持者も多く、繁栄党とは異なる政策を主張していることから、政府による妨害も大きかったと考えられる。

アビイ首相の政策方針は、地域政党を解体して繁栄党に統合するという経緯からもわかるように、これまでの民族連邦主義にもとづく民族主義を後退させ、汎エチオピア主義的な思想も採り入れるというものである[Girmachew 2018]。それに対して、OFCとOLFは、その政党名からも明らかなようにオロモ民族主義が第一の主張である。

OFCは、連合政党であるエチオピア連邦民主統一フォーラム(Ethiopian Federal Democratic Unity Forum: MEDREK)の中核政党である。MEDREKはOLFよりも穏健な民族主義をとっており、前回の総選挙にも参加している。結局当選者はでなかったが、270名の候補者を登録していた[Amnesty International 2016]。これまで複数のOFCの主力メンバーが逮捕されているが、逮捕者のなかには著名な政治活動家のひとりであるジャワル・モハメド(Jawar Mohammed)が含まれている。首都アディスアベバや地方の選挙事務所も政府によって閉鎖され、再開の目途が立たない状況に陥ったために撤退を表明したという[BBC 2020]。

一方もともと武力闘争も行っていたOLFであるが、合法化を受けて武力闘争を放棄した。それによって武力闘争を主張するシャネなどが分裂するなど、内部での路線対立があるとみられるが、ミッションは「オロモの人々の自決権の追求」であり、オロモ民族主義を前面に押し出している8。OLFも200名以上の党員が逮捕され、アディスアベバ事務所やオロミヤ州にある15の事務所も政府によって閉鎖させられたという[Addis Standard 2021a]。

OFCやOLFの総選挙からの撤退の結果、議席獲得が期待される野党はEZEMAにほぼ絞られたといえる。EZEMAは、2019年7月にグンボット7を中心に7つの政党とともに結成された政党連合である[ENA 2019]。「市民ベースの政治」を掲げ、汎エチオピア主義にもとづいた主張をしている。

EZEMAのマニフェストのタイトルは「アディスアベバのための希望」であり、マニフェスト本文でもアディスアベバ市議会選挙での勝利を目的に掲げていることから、アディスアベバを中心とした都市部での議席の獲得をめざしていると考えられる9。人民代表議会、市議会、州議会合わせて370の選挙区に候補者を立てたということだが、アディスアベバのような都市部以外でどこまで支持を伸ばせるのかは未知数である。また、野党についてもアディスアベバの人民代表議会の選挙区とアディスアベバ市議会選挙にのみ候補者を立てるという「真の民主主義のためのバルデラス」(Balderas for True Democracy)などがあり、野党間で票が割れる可能性もある[Brook 2021]。

おわりに

小選挙区制の場合、複数の野党が参加すると票が分散して、与党が有利となる。また、野党が全国のすべての選挙区に候補者を立てることが難しいことを考えると、人民代表議会、州議会、アディスアベバ市議会、ディレダワ市議会のすべてにおいて与党である繁栄党の有利は動かせない。しかも最大の対立野党となるはずだったTPLFはテロリストと認定され政治の表舞台から姿を消した。そして繁栄党とは異なる民族主義的主張をもつOFCやOLFが相次いで選挙からの撤退を表明した結果、今回の総選挙は、繁栄党への信任投票の趣が強く、争点がぼやけてしまったことは否めない。

それでもなおエチオピアの政治が民主的な方向へと進むことができるのかを占うためには重要な選挙となるであろう。この選挙で野党がどこまで議席を獲得できるのか、そしてその結果を与野党ともにどのように受け入れるのかを注視していきたい。

[追記]2021年5月15日、NEBEは、有権者登録や投票所開設などが遅れているとして総選挙延期を発表した(NEBE Facebook、2021年5月18日)。有権者登録が終了している地域では21日に投票が行われるが、それ以外の地域はさらに延期される見込みである[Fana 2021]。

(2021年5月21日記)

本文の注
1  EPRDFとそれを継承した繁栄党(本文で後述)は、人民代表議会と州議会の全議席を獲得している。そのため、連邦政府と州政府は緊密に連携していることが多く、とくに治安関係については、両者が同時に行動することも多く、報道においても厳密に区別されることは少ない。連邦政府と州政府について明示的に示されている場合以外は、両者の連携を前提に政府と記述する。

2  グンボット7とは、エチオピア暦の5月15日のことであり、第3回総選挙が行われた日である。

3  繁栄党に参加したのは、オロモ民主党(Oromo Democratic Party: ODP)、アムハラ民主党(Amhara Democratic Party: ADP)、南部人民民主運動(South Peoples’ Democratic Movement: SPDM)の3党である。

4  連邦政府の文書ではOLF/Shaneとしているが、正式名称はオロモ解放軍(Oromo Liberation Army)であり、OLFと混同させようと意図しているとして、OLFは抗議している[Addis Standard 2021c]。なお、英語表記ではShaneとSheneの両方が見られるが、本稿ではオロモ語の発音に近いShaneを使用する。

5  前回選挙で選出された議員数。憲法では650人を超えない数と定められている(第54条3項)。

6  連邦議会には、各民族からひとりに加えて、その民族の人口100万人あたりひとりが追加される。選出方法は州に委ねられており、各州の州議会議員から選出するか、直接選挙を行うなどの選択肢がある(憲法第61条)。連邦議会の議席数については憲法では明示されていないが、2010年以降は135人となっている[Tesfa 2015]。

7  今回の選挙ではティグレ州が除外される。したがって、人民代表議会は前回のティグレ州の議席38を除くと議席の合計は508前後と考えられる。州議会については、前回の選挙結果では1987議席であり、ティグライ州の152議席を除外すると今回の議席は1835議席前後と考えられる(NEBEホームページ: https://nebe.org.et/am/past-elections, 2021年4月30日アクセス)。また、特別行政都市であるアディスアベバとディレダワの市議会は、民族を代表する機関ではないため連邦議会に議員を送ることはない[Tesfa 2015, 401]。なお、6月5日には、南部諸民族州南西部で、5つのゾーンを統合して州として独立するための可否を問う住民投票も行われる[Lidet, Lyons and Verjee 2021]。

8  OLFホームページ“Mission”(http://oromoliberationfront.org/english/mission/, 2021年5月11日アクセス)。

9  EZEMAホームページ“Manifesto”(https://toyouniv.webex.com/toyouniv/j.php?MTID=m141fcc17b5d28d9aacc286ad3f68ca40, 2021年5月13日アクセス)。

参考文献
 
© 2021 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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