アフリカレポート
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資料紹介
サラ・ロレンツィーニ 著 『グローバル開発史――もう一つの冷戦――』 三須拓也・山本健訳 名古屋 名古屋大学出版会 2022年 384 p.
佐藤 章
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2023 年 61 巻 p. 20

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本書は2019年に刊行されたSara Lorenzini, Global Development: A Cold War History (Princeton University Press) の翻訳である。「冷戦時代における、グローバル・プロジェクトとしての開発の歴史を描いた」(p.3)本書では、他国に対する援助・支援・連帯のかたちで行われる開発の理念と実践について、東西両陣営の取り組み、さまざまな国際機関の創設とその活動の様子、被援助国側の受け取り方などをとおして詳細に描き出される。前史として両大戦間期の帝国と植民地の関係についても論じられている。また、資源や環境をめぐるグローバルな問題意識の台頭をふまえ、持続可能な開発という今日につながる考え方が成立してきた過程についても詳しく記されている。全体として本書は、かならずしも冷戦期に限定せず、20世紀初頭から今世紀にわたる時間軸のなかで大きな歴史の見取り図を提示したものといえる。

序章の記述が1975年のモザンビーク独立式典から始まることに鮮明に表れているように、サハラ以南アフリカに関する記述が豊富に盛り込まれているのが本書の特徴である。アフリカ地域研究にとって示唆に富む内容も随所にみられる。アフリカ地域研究の立場からみた開発援助は、西側的な価値観の強制、経済発展至上主義、構造調整に代表される新自由主義などといった側面から捉えられる傾向があるといえるが、このような開発観が一面的であることに本書は注意を促している。その実例として、スターリン没後から1960年代にかけてソ連や東欧諸国が、西側とは異なる社会主義的な近代というモデルを掲げ、かつ中国への対抗も意識しながら、開発援助における独自の位置を占めていたことが本書では詳しく語られる。こうしたソ連が体現する近代の姿に強く惹きつけられたアフリカの国々もまた存在したことが本書では記されている。時代と各陣営の方向性により開発のあり方は変転していたことがわかる。

最近のウクライナ危機のなかで、アフリカ諸国が独自の立ち位置を示すことが注目され、その背景として、アフリカとソ連(ロシア)・東欧諸国のあいだに培われてきた固有の歴史的関係が注目されている。本書は開発という切り口からこの歴史的関係について多くを教えてくれる本である。近年関心が高まるロシアのアフリカ進出について理解するうえでもこのような歴史的関係の知識は大きな意義をもつだろう。グローバル世界におけるアフリカを考える際に西側偏重ではない視点が欠かせないこともまた本書が教えてくれる重要な知見といえる。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)

 
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