アフリカレポート
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資料紹介
遠藤 貢・阪本 拓人 編 『ようこそアフリカ世界へ――シリーズ 地域研究のすすめ――』  京都 昭和堂 2022年 vii+261 p.
箭内 彰子
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2023 年 61 巻 p. 21

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6月の南アフリカに赴く際、どの厚さのコートを着ていくか迷っていたら、「アフリカなのにコートが要るの?」と友人に驚かれたことがある。わずか数年前の話である。本書の編者も指摘しているとおり、日本で日常的に得られるアフリカの情報は非常に少なく、「アフリカ」という語から私たちが想像するイメージはかなりパターン化されているように思う。貧困でやせ細った子供たちや強い日差しで干上がった大地、あるいは広大なサバンナを移動する動物などであろうか。本書は、さまざまな角度からの鋭い分析を通じて、エッジの効いた色鮮やかな3D画像としてアフリカの多様性を描き出しており、本書を読むことにより、アフリカに対して抱いている漠然としたイメージが払拭される。

本書はアフリカ地域研究にむけた入門書として編まれており、地理や自然、社会、信仰、歴史、政治、経済、人の移動、感染症、教育、社会的マイノリティ、国際関係、日本との関わりという多岐にわたるテーマが扱われている。そもそも、対象となるアフリカは南北8000㎞、東西7400㎞にも及ぶ大陸に50以上の国が存在する多彩な地域である。多様性がデフォルトの要素となっており、それを多面的に描き出そうとすると、得てして散漫になってしまう。しかし本書は、ふたつの特徴からまとまりのある一冊の教科書として読み進めることができる。ひとつは、各章が多様性を前提にしながらも、あえてシンプルな分析や類型化を試み、複雑な状況を簡潔に記述しようとしていることである。どの章の執筆者も、それぞれがもつ大量の専門知識のなかから必要なエッセンスだけを取り出し、執筆者が考えるアフリカの姿を端的に示してくれている。

もうひとつは、各章が有機的につながっていることである。たとえば難民問題に関して、人の移動を扱っている章で論じられているだけではなく、他の章のなかでも難民に対する教育や難民たちのあいだで語られる神話、難民が発生する背景となる失敗国家や国際関係について記述されている。さらに明示的ではないながらも社会的マイノリティに対する排除のメカニズムに関する記述も難民問題を想起させる。各章のテーマとは別に、こうした「隠れた横軸」を探しながら読むのも面白いかもしれない。各章がそれぞれに読みごたえがあるので、興味が湧く章だけを読むのもよいが、全体をとおして読むと、また違った角度からアフリカを学ぶことができる。入門書としても研究書としてもお勧めしたい一冊である。

箭内 彰子(やない・あきこ/アジア経済研究所)

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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