アフリカレポート
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資料紹介
Taku Iida ed. Heritage Practices in Africa. Osaka: National Museum of Ethnology, 2022, 255 p.
網中 昭世
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2023 年 61 巻 p. 22

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本書は、アフリカにおける文化遺産をめぐる諸現象・実践に関する11本の論文からなる論集であり、2013年に国立民族学博物館(みんぱく)で開催されたシンポジウムならびに2020年にロンドン大学で開催された批判的文化遺産学会(Association of Critical Heritage Studies: ACHS)で報告された論文をもとに編まれている。ACHSが設立された2012年の翌年にみんぱくでシンポジウムが開催されていることからも、みんぱくの研究者がこの分野を牽引してきたことがうかがえる。

本書は、有形・無形を問わず、文化遺産と認定されたことで生じた諸現象、文化遺産の保護や観光資源としての活用の取り組み、さらにその結果として生じた問題も含め、文化遺産をめぐるさまざまな現象と実践に光を当てている。文化遺産としての認定にともない生じた新たな現象の是非とは別に、認定された文化の継承にかかわる人々が織りなすダイナミズムについておもに人類学的観点から論じられているが、なかには建築学の観点に立つ論考も含まれている。また、UNESCOが牽引する世界遺産にかかわるだけに文化政策の潮流にも触れた学際性を有する論集である。さらに世界遺産に登録されているような狭義の文化遺産のみならず、文化的表象も含めたより広義の枠組みを設定している。

本書は3部構成となっており、対象国と事例は次のとおりである。UNESCO世界遺産に焦点を当てた第1部では、タンザニアのキルワ島、マリのジェンネ、ケニアのミジケンダのカヤの森、マダガスカルのザフィマニリの人々の木彫りについての論文が所収されている。「現地文化をグローバル化する」と題された第2部には、アフリカの伝統医学、セネガルにおける文化表象、スミソニアン博物館におけるアフリカ文化展示についての論文が含まれている。そして「現在における過去、未来における現在」と題された第3部ではブルンジの伝統司法、植民地期アフリカにおける埋葬をめぐる政治、ザンビアにおける文化運動といった実践に関する論文が収められている。

いずれの論文も、過去から引き継がれた文化遺産の存在が、現代的文脈のなかでダイナミックに人々の新たな営為を引き起こしていることを明らかにしている。文化遺産をめぐる人々のさまざまな営為は、おそらく同時代の他地域でもみられる現象だろう。そのなかで、アフリカ地域の特殊性はどのようなものか。思わず本論集が含まれている巻末のSenri Ethnological Studiesのバックナンバー一覧に目を走らせてしまった。好奇心を掻き立てられる論集である。

網中 昭世(あみなか・あきよ/アジア経済研究所)

 
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