アフリカレポート
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Alberto Alesina, Armando Miano, and Stefanie Stantcheva, “Immigration and Redistribution.” Review of Economic Studies, Vol.90, No.1, 2023, pp.1–39
福西 隆弘
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2023 年 61 巻 p. 25

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開発途上国からの移民受け入れは、とくにヨーロッパ諸国において国民の意見が分かれ、しばしば政権選択にも影響する問題となっている。経済学や政治学の先行研究では、移民が急増した国では彼らの受け入れに対する反対が高まるとともに、再分配政策を支持する意見が減少することが知られている。この論文は、ヨーロッパ5か国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン)およびアメリカの非移民の住民に対する調査から、彼らが自国の移民についてどの程度正しい理解を有しているのか、またその理解と自国の再分配政策への姿勢の関係について明らかにしたものである。

2018年に行われた調査は、まず、非移民が認識する移民の実態は事実と大きく異なることを示している。回答者が認識している移民の人口比は実際よりもかなり多く、例えばアメリカでは平均的な認識は36%であるが、実際には10%にすぎない(この調査では他国で生まれた住民を移民と定義しているので第2世代が移民に含まれないが、それを含めた実際の人口比は25%であった)。また、実際よりも移民はアフリカ・中東出身であり、イスラム教の信仰者が多く、失業率が高く、教育水準が低いと認識されている。さらに、事実よりも移民は受入国の公的な補助に依存しているという誤解が回答者にあり、とくに、高卒以下の学歴、移民の多いセクターで就労、保守的な思想という特徴をもつ回答者の間で、誤解が大きいことが示されている。また、移民と非移民の違いをことさら強調するようなステレオタイプな認識を形成しているという仮説については、十分な証拠が得られていない。

つぎに、著者たちは、移民に対する誤解のなかでも公的な補助への依存に関する誤解が、移民の権利擁護や再分配政策の支持と負の相関にあることを示している。すなわち、実際よりも移民は公的な補助に依存していると考える回答者は、移民の権利の拡充に否定的であり、累進課税や社会保障予算の配分に対して消極的である。さらに、移民についての正確な情報を動画で見せた場合、回答者の認識に一定の改善が認められるが、再分配政策に対する支持の増加は見られなかった。これらから、移民に対する認識と再分配政策への姿勢の間に一定の相関関係があるが、正しい認識を与えることで再分配の支持が増えるとはいえないようである。著者らは、調査において質問の順番を変化させ、最初に移民に関する質問した場合はその後の再分配の質問において否定的な意見が多くなることを示している。その結果を踏まえて、質問や動画を通じて回答者に移民を想起させると再分配政策に対して否定的な回答が多くなると解釈しているが、両者の関係は想像以上に複雑なことがわかる。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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