アフリカレポート
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資料紹介
Ariane De Lannoy, Malose Langa, and Heidi Brooks eds. Youth in South Africa: Agency, (In)visibility and National Development. Johannesburg: Mapungubwe Institute for Strategic Reflection, 2021, xxviii+455 p.
佐藤 千鶴子
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2023 年 61 巻 p. 26

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本書は、南アフリカの若者に関する論文集である。序章と終章を除いて4部から構成され、各部には3章ずつ収められている。第1部のテーマは若者の社会運動と政治参加で、2015年~2016年に南アフリカの複数の大学で展開された授業料無償化などを求める学生運動(「#FeesMustFall」)の軌跡(第2章)や若者の政党政治へのかかわり(第3章)などが論じられている。第2部は失業問題で、若者の失業率が高い構造的要因(第5章)、若者を対象とする起業家育成プログラム(第6章)、コロナ禍の若者への影響(第7章)に関する章が並ぶ。第3部には若者の社会的成功への道筋や意識に関する論文が収められており、NPOによる大学進学支援活動(第8章)やミドルクラスの黒人青年層がネオ・ペンテコステ教会に惹きつけられる理由(第9章)などが考察されている。最後に第4部はアイデンティティ形成をテーマとし、若者の多様なセクシュアリティ(第11章)、ジェンダー化された暴力(第12章)、中等教育における教育言語の自我への影響(第13章)が論じられている。

以上のように本書に収められた個別論文の内容は多岐にわたる。そのため、本としてのまとまりにやや欠ける印象は否めないが、その理由は本書が対象とする「若者(youth)」そのものがとらえにくい存在であることと関係しているように評者には思われる。本書を読みながら、なぜ若者はとらえにくいと感じるのか、評者なりに考えてみたところ、次の2点が浮かんだ。第一に、南アフリカにおける若者は年齢的な幅が広いうえ、多様性を含んだ集団である。本書では、15歳から35歳までの年齢層の人びとという南アフリカで一般に用いられる若者の定義が援用されており、それは国連による若者の定義(15歳から24歳)よりもはるかに広く、思春期と青年期の両方を含んでいる。人種や階級、家庭環境、ジェンダーなどによる経験の違いももちろん存在する。第二に、編者らによれば、庇護されるべき、守られるべき対象としての若者と、時代の変革をもたらす能動的なエージェントとしての若者という、ふたつの対照的な像がこの年齢層の人びとに対して社会の側から投射されている。それゆえ、論じる側がどういった立ち位置を強調するかにより、異なる若者像を読者は得ることになるのである。

とはいえ、今現在、そしてこれからの南アフリカ社会をみていくうえで、総人口の3割以上に達する若者を無視することはできない。500頁に迫る分厚い本であるため、全部を読み通す人は少ないかもしれないが、平易な文章で書かれた本書の各論文は、各人の興味関心に沿って、若者の政治意識や失業の実態、セクシュアリティなどを知るための入門書としてお勧めしたい。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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