アフリカレポート
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花谷 厚 著 『人道と開発をつなぐ――アフリカにおける新しい難民支援のかたち――』 東京 佐伯コミュニケーションズ出版事業部 2022年 217 p.
岸 真由美
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2023 年 61 巻 p. 50

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武力衝突や迫害などにより故郷を追われ避難を強いられる難民(難民条約で定義される狭義の「難民」だけなく、国境を越えずに避難生活を送る国内避難民や、庇護希望民・無国籍者なども含める)の数は、近年著しく増加している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると2023年5月の時点でこうした人々は1億人を超える。難民が多い出身国は、シリア、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、コンゴ民主共和国、ソマリア、ウクライナなどである。難民の約70%は近隣国に逃れており、受入国の76%は中・低所得国である。本書が報告するウガンダは、受入国のうち世界第6位(2022年)、アフリカ地域では最大の難民受入国である。

著者の花谷氏は国際協力機構(JICA)の南スーダン事務所長を務め、2013年に同国で武力衝突が勃発した際に国外退避を経験している。花谷氏らは翌2014年からJICAウガンダ事務所において、ウガンダ人に加えて、本来人道支援機関が対応すべきとされる難民も対象とした稲作栽培技術指導と職業訓練支援のプロジェクトを実施した。花谷氏によれば、こうしたことが可能となったのは、まず、ウガンダの難民法が就労権や条件付きの移動の自由、土地へのアクセスを認めているなど、同国が難民に寛容な政策をとってきたことがある。加えて、ウガンダにおけるJICAの長年の支援実績と同国の地方自治体との間に構築された信頼関係も重要な点である。

他方で、ウガンダにおける人道支援と開発支援の連携の方向性は、国際社会の動きとも重なっている。今世紀にはいり、従来の母国への帰還や受入国での現地統合、第三国定住などの解決方法では対応できない状況が生まれ、難民の長期化が問題となっている。2016年の世界人道サミット、難民と移民のためのニューヨーク宣言、包括的難民支援枠組み(CRRF)、2018年の難民に関するグローバル・コンパクト(GCR)によって、難民の長期化を前提とした受入国の負担軽減や難民の自立化支援が広く認識されるようになった。日本政府とJICAが支援してきたウガンダは上記CRRFのモデル国にもなっている。

人道支援と開発援助をつなぐ新しい難民支援を進めるにあたっては、ウガンダ政府や日本政府、国際機関との間で実務レベルの様々な調整が行われ、花谷氏もこれに深く関わっている。本書にはその詳細な報告も含まれる。難民に関心をもつすべての人に必読書として勧めたい。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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