アフリカレポート
Online ISSN : 2188-3238
Print ISSN : 0911-5552
ISSN-L : 0911-5552
資料紹介
濱田 美紀 編 『発展途上国における経済のデジタル化――アフリカ・東南アジア・ラテンアメリカの事例から考える――』 千葉 アジア経済研究所 2024年 vi+189 p. http://hdl.handle.net/2344/0002000816
福西 隆弘
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 62 巻 p. 32

詳細

発展途上国で急速に進むデジタル技術の普及は、貧困などの問題を解消する切り札として大きな期待が寄せられているが、果たして期待通りの成果が生まれるのかという疑問も尽きない。導入時の成功事例がデジタル化の効果として取り上げられることが多いが、デジタルサービスの普及過程では各国の制度や慣習が影響するので、社会全体におけるデジタル化の進展はそれほど単純でないだろう。そのような考えをもとに、アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカを研究対象とする研究者が集まって、まず各国の実態を明らかにすることを意図したのが本書である。

本書では、ケニアを扱う二つの論考(うち一つは評者が担当)のほか、インドネシア、ベトナム、ペルー、ベネズエラを取り上げている。序章において、各国のデジタル化の全体的な状況が示された後に、各論では、遠隔医療、Eコマース、農業プラットフォーム、暗号通貨を含む電子マネー、アプリ開発などが取り上げられている。また、本書の特徴として、農民、インフォーマルを含む中小零細小売業者、デジタルスタートアップ企業、一般消費者など需要と供給の両方にかかわる人々を、著者らによる調査を通じて観察している。こうした構成は各著者の関心分野を反映した結果であるが、それは同時にデジタル化が社会に及ぼす影響の多様性を表しており、その全体像は序章で整理されている。

デジタルサービスの具体的な事例は、各国の状況を色濃く反映している。例えば、ケニアでは電子マネーが非常によく普及し、売買の支払いだけでなく少額融資もさかんに利用されているが、インドネシアの消費者は現金志向が強く、事業者も電子マネーによる融資には消極的である。他方で、ベネズエラでは法定通貨と切り離された暗号通貨の利用が増えている。これらの違いは、各国における金融アクセスや法定通貨の安定性から生じていることがうかがわれる。また、地域格差が大きいペルーではデジタル化においても格差が存在することが、ベトナムでは、起業家精神が重要視されるデジタルスタートアップ業界でも党や国家の影響が大きいことが示されている。そうした事例を通じて、一見すると同質的に見える電子マネー、Eコマース、ライドシェアなどの世界的な普及は、決して画一的な変化をもたらすものではないことが明らかにされている。オープンアクセスの電子書籍であるので、デジタル経済の発展に関心ある読者には気軽に手にとってもらえればと願う。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2024 日本貿易振興機構アジア経済研究所
feedback
Top