アフリカレポート
Online ISSN : 2188-3238
Print ISSN : 0911-5552
ISSN-L : 0911-5552
資料紹介
Rachel Sigman, Parties, Political Finance, and Governance in Africa: Extracting Money and Shaping States in Benin and Ghana. Cambridge: Cambridge University Press 2023 xvii+310 p.
粒良 麻知子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 63 巻 p. 74

詳細

サハラ以南アフリカ諸国では1990年代の民主化以降、多額の選挙資金が必要となっており、大統領などの指導者が政府予算を自身の政治資金に流用していることはよく知られている。これをふまえ、本書は、アフリカの指導者がどのように国庫から政治資金を引き抜いているのかをベナンとガーナの比較を通じて明らかにしている。本書によれば、指導者は、資金が敵対する政治家の懐に入ってしまう、あるいは指導者が退任後に訴追されてしまうといったリスクを回避すべく工夫して引き抜きを行っているという。

具体的には、政党が制度化されており、与党が組織化されている国では、党による監視が可能であるため、指導者は信頼できる党員を閣僚に任命し、資金の引き抜きを閣僚に委任する。本書はこの仕組みを「共謀的な引き抜き(collusive extraction)」と呼び、ガーナがこれに当てはまる。一方、与党が組織化されていない国では、党員を閣僚に任命しても、閣僚が離反する可能性があるため、指導者は党員ではなく官僚に引き抜きを強制させる。この仕組みを「強制的な引き抜き(coercive extraction)」と呼び、ベナンがこれに当てはまる。政策の実施という観点からは、「強制的な引き抜き」よりも「共謀的な引き抜き」の方が官僚の自律性が高いので、よりよいという。

本書は、序論(第1章)の後、第2章で政治資金の引き抜きの理論、第3章でベナンとガーナを事例に選んだ理由、第4章でガーナにおける「共謀的な引き抜き」とベナンにおける「強制的な引き抜き」の仕組みを説明している。そして、第5~7章で、2つの仕組みの違いを閣僚の任命、閣僚の任期の安定性、官僚組織という3つの側面から実証し、第8章で理論の他国への適用可能性を検討している。

本書は、指導者による政府予算の政治資金への流用という調査の難しいテーマについて、詳細な事例研究に加え、国家公務員を対象に大規模なサーベイ調査を行っている点が画期的である。これにより、ベナンとガーナの省庁内での引き抜きの程度や質の違いが効果的に示され、それぞれの引き抜きの仕組みが説得的に論じられている。一方、いくつか疑問もある。例えば、本書には政党の制度化や組織化の要因については書かれていないが、ガーナのように政党が制度化されている国では、党の創設者らが政治資金の引き抜きを含め、党を利用して国を統治するために、党の制度化や組織化を進めたのではないだろうか。今後の研究でこういった疑問がなくなることを期待したい。

粒良 麻知子(つぶら・まちこ/アジア経済研究所)

 
© 2025 日本貿易振興機構アジア経済研究所

本論文は、クリエイティブ・コモンズ表示 4.0 国際(CC BY 4.0)ライセンスのもとで提供されています。オリジナルの出典と著者を表示することを条件として、自由に配布、複製、利用することができます。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed
feedback
Top