2024 年 49 巻 p. 91-108
本稿では、1931-1941年農林省「農家経済調査」対象農家世帯の標本バイアスについて報告する。斎藤(2022b) にて、家族形態の標本バイアスの可能性が指摘され、それを確認する方法として、第1回国勢調査および徳川後期東北の宗門改帳を利用した研究結果と比較するという方法が示された。その方法を用いて一橋大学経済研究所によるデータベースに収められた農家世帯の家族形態を検討した結果は以下のとおり。(1) 直系家族システムの典型的な家族周期から外れた世帯はごくわずかである。(2) 直系家族システムの家族周期のなかで夫婦家族の形態をとる世帯の出現率は過小である。これらは労働組織として脆弱な農家が過小であることを示唆している。さらに、(3) 家族規模の標本バイアスには地域差があり、南九州を除く西南地方では比較的大規模な(子どもの数 が多い) 農家世帯が過大である可能性がある。