地球科学
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埼玉県東松山市葛袋の中部中新統から産出したCarcharocles属(板鰓亜綱:ネズミザメ目)の歯化石について
矢部 英生後藤 仁敏
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1996 年 50 巻 6 号 p. 432-440

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抄録

埼玉県東松山市葛袋地域の中部中新統である都幾川層群岩殿層からは量・種類ともに豊富な板鰓類(サメ・エイ類)化石の産出が知られている.かつて16属31種の板鰓類が本地域から報告されたが,その同定は必ずしも充分ではないため,比較的多産するCarcharocles属(ネズミザメ目:オトドゥス科)の歯化石についての分類学的再検討をおこなった.その結果,本地域から産出したCarcharocles属の歯化石のほとんど(53点)は,大きさのほぼ揃った鋸歯を備える,副咬頭を欠くといった特徴をしめすことからC. megalodonに同定される.しかし,今回記載した,上顎側歯と思われる9点の標本は,副咬頭を欠くといった特徴をしめすことなどの点でC. megalodonに最も似ているといえるが,歯冠の外形,近心縁の形態,遠心縁の形態,咬頭項の傾き,鋸歯の形態など詳細な点では異なっている.以上のことから,本標本を便宜的にCarcharocles sp.と同定した.Carcharocles属の魚類は,その歯の大きさや形態から大型ネクトンであり,その分布は汎世界的であったものと推定される.そこで,今回記載した標本と同様の形態をしめす歯,もしくはこれに対応する上顎前歯あるいは下顎歯が葛袋以外の地域からも発見されることによって,本標本の分類上の位置づけが明らかになることが期待される.

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© 1996 地学団体研究会
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