抄録
大杉地域の中生界は大峯-大台スラストを境にして構造的上位の秩父帯と構造的下位の四万十帯からなる.秩父帯は構造的に上位から下位に向かって三之公・北股川・奥玉谷・黒石・大普賢岳・山葵谷の各コンプレックスに区分される.四万十帯は本地域の南部では伯母谷川・赤滝コンプレックス,北部では迷岳コンプレックスからなる.各コンプレックスはスラストで境をされている.下多古川断層の南側の地質体は,北側に比べて下降している.また,北側では迷岳スラストを境にして迷岳コンプレックスが秩父帯に衝上している.弧状をなす鎌滝断層とこれに並行する中新世の火砕岩岩脈群に沿って西側の地質体が階段状に沈降している.大杉地域の地質形成過程は次のように考えられる.秩父帯の各コンプレックスがジュラ紀中世から新世にかけて付加体として形成された後,間隙をおいて四万十帯の各コンプレックスが白亜紀新世に付加体として形成された.その後,古第三紀に,秩父帯が四万十帯に,迷岳コンプレックスが秩父帯に衝上し,さらに,下多古川断層により南側の地質体が下降した.中新世中期の火成活動により,弧状をなす火砕岩岩脈群と鎌滝断層が形成され,三之公コンプレックスが分布する付近を中心に階段状の陥没が生じた.