地球科学
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東北日本における島弧-海溝系の形成メカニズム : 島弧変動の運動像と力学像(<特集>島弧の深部構造-地質・地震・地震波トモグラフィによる解析(I))
矢野 孝雄
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2009 年 63 巻 4 号 p. 249-265

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抄録

島弧-海溝系の大きな地形起伏が中新世末以降に形成されたことについては,おおかたの合意がえられている.ところが,その形成過程は未解明である.この論文では,東北日本の島弧-海溝系の歪像にもとづいて運動像が復元され,力学像が考察される.1)歪像は,次の5つの要素で構成されている.(1)非対称アーチ:島弧を横断する地形-地質断面に示され,わずかながらも海側フェルゲンツを示す.(2)縦走断層群:ほとんどがアーチに対してアンティセティックな断層で,島弧全体(島弧前縁部を除く)に傾動地塊を形成する.(3)前弧波曲:前弧海盆とその外縁隆起帯からなる.(4)島弧前縁おしかぶせ断層:島弧前縁部と伏在する海洋地殻を境し,陸側へ緩傾斜する.(5)海洋地殻の撓曲:島弧の前面に海溝を形成する.2)運動像は,島弧の非対称アーチングに制御されてきた.というのは,重力場における非対称アーチングは,次のとおり,歪像の5つの構成要素を形成するからである.非対称アーチングは,島弧の非対称アーチを形成し,島弧全体(圧縮場におかれる島弧前縁部を除く)に縦走断層群を発生させる.島弧前縁部における圧縮作用は,前弧波曲と島弧前縁おしかぶせ断層をうみだす.おしかぶせた島弧前縁部にはたらく重力荷重は,下盤の海洋地殻を下方撓曲させ,海溝を形成する3)力学像は,マントルウェッジ中の陸側へ傾斜した熱プリュームの斜め湧昇に帰される.熱プリュームの萌芽は,前期中新世末〜後期中新世における背弧側からのアセノスフェアマントルの侵入とそれにつづく活発な火成活動と冷却の結果,アセノスフェアマントルの残存高温部として発生した.後期中新世末期には,大陸側深部から萌芽的熱プリュームへ高温流体が供給され,熱プリュームが活性化した.増大する内部圧力勾配にしたがって熱プリュームが斜めに湧昇し,島弧の非対称アーチングを駆動した.

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© 2009 地学団体研究会
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