東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
【研究員論考】 中国の省間所得格差を考える
坂本 博
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2014 年 25 巻 2 号 p. 15-25

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抄録

日中関係は,政治を中心にかつてない難しい状況に立たされている。しかしながら,それでも中国の経済成長は続き,成長率こそ減速したものの,2013 年のGDP の総額は日本円換算で1,000 兆円に近付いている。これは「アベノミクス」により復活が期待される日本のGDP の約2 倍である。もちろん,人口が日本の10 倍以上の中国において,GDP を人口1 人当たりで換算すると,日本の優位性はまだ失われていないといえる。しかし,依然として成長余力のある中国と,イノベーションをはじめとした新しいものが出現しない限り成長がおぼつかない日本とでは,優位性の差が縮まるのは時間の問題であろう。 もっとも,中国の成長の「質」に目を向けると,必ずしも成功だとはいえない。例えば,PM2.5 をはじめとする環境破壊があげられる。ただし,これは日本も過去に経験済みなので,中国を厳しく批判することはできない。成長時の資金調達に利用されてきた「影の銀行」の破綻問題も中央政府の対応次第では世界経済を震撼させるかもしれない。一方で,地域間格差の問題が依然残っている。これまでは市場経済を通じて東部沿海地域に労働や資本が集中するシ ステムを構築してきた。これにより中国全体の経済発展が助長されることになるが,市場経済に取り残された地域(主に内陸部ならびに西部)との地域間格差を拡大させることになった。これは,社会主義を標榜している中国にとっては非常に問題であると考えられている。 この問題に対して,2000 年から「西部大開発」と呼ばれる大きな政策が実施された。この西部大開発により,資本の流れの一部が中西部に向かうようになった。これにより成長機会をえた地域は高成長を遂げるようになったといわれている。また,労働者の移動も,都市部・東部集中傾向は続くものの,中西部の成長地域にとどまる可能性が生じてきている。その結果,省間所得格差はどう変化したのか。本研究は,本誌2005 年6 月号に掲載した拙稿「中国の省 間所得格差-動向を知る-」を直近のデータまで延長させて再検討したものである。拙稿では今後の展望として,西部大開発の動向と労働者の移動を取り上げている(p.16)。本研究では,その後の動向の変化を分析することで,上記の2 点について検討を試みるが,あわせて改革開放後の動きを概観した上で,簡単なシミュレーションによる将来予測にも取り組んでいる(注1)。

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© 2014 公益財団法人 アジア成長研究所
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