東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
シリコンバレーのベンチャーエコシステムの発展
「システム」としての包括的理解を目指して(前編)
岸本 千佳司
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2018 年 29 巻 1 号 p. 32-57

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抄録

本稿は,米国シリコンバレーにおけるベンチャー企業や新ビジネスを次々と生み出す土壌を「エコシステム」としてとらえ,そのシステムとしての体系的理解を課題とする。そこで,ベンチャーエコシステムを「起業家とベンチャー企業」と「支援アクター」という大きく二つのセグメントの間の循環で構成されるものと想定する。「支援アクター」は,「大学と研究機関」「経営支援専門家」,「資金提供者」,「大企業」で構成される。彼らは「起業家とベンチャー企業」に対し,各々の立場から各種支援やリソースの提供を行う。逆に,ベンチャー企業が成功した際は,支援アクターに色々な形での見返りがある(キャピタルゲインの獲得,事業・技術の補完,人材獲得等)。この循環が回り続けることでエコシステム全体が存続していくのである。本稿は前編(本号)と後編(次号)にわけて掲載される。この前編では,先ず,「起業家とベンチャー企業」セグメントについて解説する。そこでは,活発な起業文化と濃密な技術コミュニティの存在が,起業家の輩出および起業家・経験者の蓄積を支えてきた。次に「支援アクター」セグメントについて扱う。「大学と研究機関」では,スタンフォード大学等からの豊富な人材と技術シーズの供給,産業界との連携に加え,近年は,起業家育成プログラムの充実がみられ,学生や教授らによる起業が強く奨励されている。「経営支援専門家」については,従来からあるベンチャー経営に精通した経営実務専門家(法律家,会計士等)からのサービスに加え,近年は,コワーキングスペースやアクセラレータのような起業家支援施設・育成プログラムが登場し,事業成長の加速と起業家コミュニティ形成の促進がなされている。

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© 2018 公益財団法人 アジア成長研究所
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