抄録
生長解析法をとり入れた植物計法をもちいて気象生産力の測定をこころみた。ただしここでいう気象生産力とは与えられた気象条件においてある種の植物がその単位光合成系当たりに行なう最大純同化率をさす。
この実験では, 好適な栄養条件下で一定の生育段階にたつした孤立したイネ幼植物の葉身重当たり純同化率, EB, を気象生産力の主な尺度として採用した。幼植物のEBは広範囲にわたる気象条件にたいして良好な感度と再現性をもつ指標であることがわかつた。
1966年の東京における気象生産力は冷涼な5月と寡照の梅雨期に低く, 7月下旬~8月末の高温多照期に非常に高く, 9月以降には再び低い値を示した。このような気象生産力あるいはEBの季節的変動は, 大まかには日射量と気温の函数として示すことができた (4, 5, 6式)。
多照条件下におけるEBの温度依存度はきわめて大きく, 低温側ではQ10≒6にさえたつした。この事実は生長過程と共範して進行する長時間にわたる物質生産を短時間のガス代謝の測定から予測することの危険性を警告している。
地上部が光合成を行なうさい根部が受容しうる負荷には限度があるように思われる。すなわち根重当り乾物生産速度が上限値1.3~1.4g・g-1・day-1にたつしてしまうと, それ以上気温と日射に恵まれても, もはやEBの増加はおこらなかつた。
高温は, 寡照と同様に, イネの根系の相対的縮小をもたらした。
イネ幼植物の純同化停止限界低温は日最高および最低気温でそれぞれ17°および7℃附近にあると推定された。
この研究で使用した日射データはロビッチ日射計をもちい東京大手町において東京管区気象台観測課によつて測定され, 気温データは東京西ケ原において農業技術研究所気象科によつて観測されたものである。貴重な資料の提供を頂いた関係機関の方々, ならびに激励と助言を頂いた農業技術研究所の村山登博士, 塚原貞雄技官, 内島善兵衛博士に感謝する。