日本エイズ学会誌
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わが国におけるHIV母子感染の現況
全国の病院小児科へのアンケート調査から
尾崎 由和外川 正生葛西 健郎大場 悟國方 徹也吉野 直人榎本 てる子戸谷 良造喜多 恒和和田 裕一塚原 優己稲葉 憲之
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2008 年 10 巻 2 号 p. 107-117

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抄録
目的: HIV感染女性から出生した児について, HIV母子感染 (MTCT) 予防対策の効果を検証すること. 非感染児における抗ウイルス薬曝露の影響を調査すること. 感染児服おける病態と診療実態を調査すること.
方法: 8年間にわたり, 全国の病院小児科服アンケート調査を行った. 一次調査でHIV感染女性から出生した児を診療した経験があるかどうかを質問し, 経験のある施設に対して, 詳細な二次調査を行った. また2004年度に非感染児, 2005年度に感染児に対しての追跡調査を行った.
結果: 2006年度までに把握できたHIV感染女性から出生した児は287例で, うち42例にMTCTを認めた. MTCT率は, 1996年以降の予防対策の徹底 (母児への抗ウイルス薬療法, 予定帝王切開分娩, 断乳の全て) により0.6%まで低下した. 非感染児では新生児期に貧血を認めた例が多かった. 感染児42例の転帰は無症状23例, 中等症1例, AIDS3例, 死亡11例, 転帰不明4例であった. 4歳以上で経過観察されている26例のうち, 22例に多剤併用療法が行われていた.
結論: MTCT予防対策により母子感染率は0%に近づいている. この効果を継続するためには妊婦HIV抗体検査実施率を100%にすることが重要である. 児への副作用の問題があり, 現在のMTCT予防策が適切かどうかは, 今後とも検討が必要である. 年長感染児では多剤併用療法導入が進み, 病状の安定している例が増えている.
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