抄録
目的: 性行為が重要な感染経路であるHIVでは感染予防と妊娠は背反するが, 夫陽性, 妻陰性の夫婦に対して精液よりウイルスを除去し健常精子のみ配偶者に人工授精することを目的としてHIV感染者の精液を処理する基礎的検討を行った.
対象および方法: 男性HIV感染者より同意のもとに採取された精液, 不妊外来受診中の健常者 (HIV陰性) から採取された精液に感染者のウイルス陽性血清を添加したもの, さらにウイルス陽性血清の3群について, 不妊治療の日常臨床に用いられる精子調製法である密度勾配法とswim-up法を組み合わせて処理した. ウイルス測定はPCR法 (感度限界5copies/tube, およそ100copies/mlに相当) で行った.
結果: 男性HIV感染者精液では55.6%が陰性で, 血清のみの群ではすべて陰性となった.しかし, 健常者精液にウイルス陽性血清を添加群でも50.0%が陽性であった.
結論: 処理によりウイルス量は明らかに低下しており, HIVの除去にも有効であると考えられた.しかし, 極めて短時間のうちにウイルスが精子に付着する可能性も示され, このような精子を選別することは極めて困難であると考えられた. 精液よりHIVウイルスを完全に除去し健常精子のみを選別する方法が確立すれば, 挙児希望を叶えるべく生殖補助医療が介入することに異論ないが, 現段階では検討すべき課題は多く残されていると考える.