抄録
目的: HIV医療の進歩の一方で, 免疫機能は安定してもPMLやHIV脳症, 脳梗塞等のために, 身体障害や知的障害や認知症等が残存し, 在宅生活が困難で, 主治医が入院治療の必要がないと判断した後も, 病院で長期療養を継続する感染者 (=本研究における「長期療養者」) が漸増している. そこで, 拠点病院における長期療養者の実態把握, 背景要因の抽出により, 必要な医療・福祉環境作りについて考察する.
方法: 2004年度は拠点病院を対象に, 長期療養事例の経験の有無, 数, 転帰などについて, アンケート調査. 2005年度は, 同意を得た病院に対し, 入院期間, 必要入院期間超過の有無等について, 郵送により再調査. また事例の背景について7病院の医療スタッフに対して, 半構造化面接を実施した.
結果: 2004年度では, 回答した221拠点病院の内, 52病院で131例の経験があった. また2005年度では, 32病院から得られた82事例中, 68事例で必要な入院期間を超過, 超過した平均月数は9.1ヵ月であった. 長期療養に至る要因には, 医学的要因, 医療機関の問題, 患者・家族, 制度・システム等の課題が, 至らないための要因としては, 万全の診療体制, 豊富なネットワーク, コーディネーターの存在, トップのリーダーシップ等が示された.
結論: HIV診療の進歩に見合った医療的ケアの保障, 地域での社会生活を視野に入れた支援体制の構築の必要性が示された.